「カラオケボックスでいい?」

 最後に残った五人のクラスメイトで、24時間営業のカラオケボックスで時間を潰し、始発を待つことにした。
 もちろん、そのなかには行成(ゆきなり)もいた。
 一時を過ぎると皆ぐったりし、ソファで眠りだした。

「皆、寝ちゃったね」

 起きているのは美哉(みや)と行成だけになった。

森下(もりした)さんは大丈夫?」

 美哉を気遣うように行成が見つめてくる。
 それだけで美哉の胸は高鳴った。

「うん、眠くない」

 行成と一分一秒でも長く話していたかった。
 金曜日の夜のせいか、他の部屋からの歌声がかすかに聞こえてくる。
 都心にいるというのに、とても穏やかな時間が流れる。
 そう、まるで夜の図書室にいた時のように。

「こうしていると、あの時のことを思い出すなあ」

 ウーロン茶に口をつけた行成が静かに口を開く。

「え?」
「覚えてないかな? ほら、図書室に居残ったときのこと」
「もちろん、覚えてるよ!」

 美哉は思わず大きな声を出してしまい、慌てて口をふさいだ。
 まさか、行成も同じことを思い出しているとは思わなかったのだ。
 図書委員だったふたりは本の整理を頼まれ、居残りをしたことがあった。

「僕は部活をやっていなかったから、夜の学校って新鮮だったなあ……」
「私も。なんだか別の場所みたいだったね」

 行成が優しく微笑む。

「今もそう。終電逃すなんて初めてで。すごく特別な時間だって感じる」
「そうだよね。夜中に渋谷にいるなんて初めて」

 目を合わせて同じ気持ちを共有していることを確認しあう。
 それはとても幸せな時間だった。

(思い切って三次会まで残ってよかったな……)

「早瀬くんって今、北海道なんだよね?」
「うん、札幌(さっぽろ)

 行成が照れくさそうに笑う。
 わざわざ飛行機に乗ってまで同窓会に来たなんて、と皆に散々からかわれたのだ。
 どんだけ俺たちに会いたかったんだよー、と肩に手を回され、困ったように微笑んでいた行成を思い出す。

「北海道の大学に進学したって聞いてすごくびっくりした……」
「だよね」

 行成が目線を落とす。

「本当はあのとき、森下さんには話したかったんだ」
「えっ……」
「ほら、図書室に居残ったとき」

 美哉の胸が大きく弾んだ。
 何か言いたげだった行成のことがずっと気になっていたのだ。

「私、聞きたい……」

 言葉が口から飛び出していた。

「早瀬くんが嫌じゃなければ」