電車の窓に映る自分の顔は、どこかすっきりしていた。 今日が始まることの重さも、昨日が終わったことの寂しさも、今はただ同じ列車に乗って走り抜けていく。
バッグの中から、小さなプリンの包みがのぞいた。 「甘いもん食うと、何もかもどうでもよくなる説、あるでしょ」 飯田が照れ隠しのように言ってくれた、あのひと言を思い出す。
帰ったら、冷蔵庫で冷やして食べよう。 ただそれだけの約束が、今は妙にあたたかかった。
一方、別の場所。
飯田はスマートフォンの画面を見つめていた。 未送信フォルダに一通の下書きが残っている。
《今日はありがとう。たぶん、今日だけじゃ終わらせないと思う》
指が何度か送信ボタンの上をなぞった。 でも結局、画面を閉じた。
“今じゃない”。そう思ったのではなく、 「まだ少し、この余韻を味わっていたい」——それが本心だった。
朝の光が街に溶け込んでいく。 それぞれの影が、別々の方向へと伸びながら、今日という日常を静かに迎えていた。
たった一晩。だけど、 心がふたたび“歩き出す”準備をするには、十分だった。
バッグの中から、小さなプリンの包みがのぞいた。 「甘いもん食うと、何もかもどうでもよくなる説、あるでしょ」 飯田が照れ隠しのように言ってくれた、あのひと言を思い出す。
帰ったら、冷蔵庫で冷やして食べよう。 ただそれだけの約束が、今は妙にあたたかかった。
一方、別の場所。
飯田はスマートフォンの画面を見つめていた。 未送信フォルダに一通の下書きが残っている。
《今日はありがとう。たぶん、今日だけじゃ終わらせないと思う》
指が何度か送信ボタンの上をなぞった。 でも結局、画面を閉じた。
“今じゃない”。そう思ったのではなく、 「まだ少し、この余韻を味わっていたい」——それが本心だった。
朝の光が街に溶け込んでいく。 それぞれの影が、別々の方向へと伸びながら、今日という日常を静かに迎えていた。
たった一晩。だけど、 心がふたたび“歩き出す”準備をするには、十分だった。


