午前4時過ぎ。 カラオケ店を出た2人は、始発駅へと歩いていた。

空はほんのり明るくなり始め、街の輪郭がぼんやりと浮かび上がってくる。眠っていた街が、すこしずつ目を覚まそうとしていた。

駅前のベンチに腰を下ろし、2人は缶コーヒーを手にした。会話は少なく、ただ夜の残り香を味わうように黙って時間を過ごしていた。

「……今日は、来てよかった」 楓の言葉に、飯田はうなずいた。

「俺も。こんな偶然、そう何度もないしな」

2人の足元には空き缶。隣には、人影のない始発のホーム。

「じゃあ、行くね」

楓が立ち上がる。飯田も一度だけ手を振った。 2人はそれ以上何も言わずに、目をそらすように別れた。

楓はホームへ、飯田はまだ開いていないカフェのベンチへ。 朝焼けはもう、遠慮なく街を照らし始めていた。