雫音たちが、美しい虹に目を奪われていた朝方。同刻のことだった。

 緑之国より更に南西に進んだ先にある、水之国。
 その首都であり中心部でもある街は『波の乙女の街』と呼ばれていた。

 港町である此処は、海が美しく漁業が盛んな地域だ。
 街中には小舟が通れるような水路が引かれており、他の国に比べて、西洋風の景観であることが特色だった。

 しかしこの国でも、雨が降らないことで多大な影響が起きていた。

 海水の水位は低下し、照りつく陽ざしで海水温は上昇。海洋生物の生存にも影響が出てきており、この国の生産・流通の要でもある漁獲量は著しく減少していた。

 しかし、一人の少女の登場によって、事態は一変する。


「――あぁ、あぁ……! 雨だ! 雨が降ったぞ……!」

 まぶしい太陽は重たい雲に隠れ、数カ月ぶりとなる雨が大地を濡らす。
 街の者たちは歓喜した。

「私が来たからには、もう大丈夫です」

 艶やかな金の髪をなびかせた、瑠璃色の目(・・・・・)をした美しい少女は、愛らしい笑みを浮かべる。

「雨女神である私が――この世界を、救ってみせます」

 街の者たちに慈愛のまなざしを向ける少女の姿に、ある者はうっとりと頬を染め、ある者はその美しさに見惚れ、困窮していた者たちは感涙する。

 この世界で二人目となる“雨を降らせることのできる者”が現れた瞬間だった。