朝餉を食べ終えた二人は、早速鍛錬をおこなうことにした。
雫音と八雲。二人の相性が悪いことは周知の事実だ。さすがに二人きりにするのは心配だと考えた千蔭と天寧も同席し、そばで様子を見守っている。
「護身術の前に、まずお前は体力がなさすぎる。身体を鍛えろ。そんな軟弱な身体では、護身術を覚える前に使い物にならなくなるぞ」
「わ、分かりました」
「まぁ、体力向上は日々の積み重ねだからな。とりあえずは、護身術の基礎について説明する。覚えろ」
淡々と話す八雲の言葉を一言一句聞き流さぬよう、雫音は集中して聞き入っている。けれど、そこに待ったをかけたのは呆れ顔の千蔭だった。
「八雲。口で言うだけより、実際にやってみた方が分かりやすいんじゃない? 習うより慣れろって言うし、実践あるのみでしょ」
「ですが、私が相手をすれば、コイツの腕をへし折ってしまうかもしれません」
「いや、手加減すればいいだけの話だよね」
「いえ。やるからには、全力を尽くします」
千蔭は頭を抱えたくなった。実直すぎるこの男は、一か十しかない考え方をするところがあるのだ。一応、雫音に怪我をさせないようにという、八雲なりの気遣いでもあるようだが……。
やりとりを静かに見守っていた天寧は「……脳筋馬鹿」と、八雲には聞こえないほどの声でつぶやいた。
結局、八雲から口頭で説明を聞いた後に、初めは天寧から実戦形式で教わることになった。
例えば、手首を掴まれた時には、振りほどこうと手に力を入れて握りしめてしまうことが多いが、それは良くないらしい。てこの原理の力を利用するようだ。まずは手のひらを開き、掴んでいる相手の指先の方に向けて自身の手を引けば、スッと振りほどくことができるとのことだった。
また、接近された時には、踵で相手の足先を踏む。相手が男だった場合には、急所や脛を思いきり蹴るなど……簡単な対処法についてもいくつか教えてもらった。
いざという時にこれらを実践できるかと言われたら自信はなかったが、それでも、何も知らなかった時よりずっと良い。知識があるというだけでも、気の持ちようは違ってくる。
「どうせなら、武器を一つ持っておくのもいいんじゃない?」
天寧の提案で、休憩がてら、雫音でも携帯できそうな武器を見せてもらうことになった。
小刀やクナイ、手裏剣、まきびしといった忍者が所持していそうな定番の武器から、寸鉄や猫手といった小さな鉄製の武具、縄や火薬の詰まった弾に、用途不明な代物まである。
「小刀がいいのではないか? 素人でも一番使い勝手がいいだろう」
「でも、刃物を所持したこともない人が、懐に忍ばせておくのは……却って危ないんじゃない?」
八雲と天寧が意見を言い合う中、千蔭は雫音に尋ねる。
「アンタは、何か希望とかある?」
「そうですね……私は……」
視線を巡らせていた雫音は、とあるものに目を止めて、指をさした。千蔭から許可も貰えたので、お目当てのものを懐に忍ばせて、再び護身術の鍛錬に戻った。



