「私は前も言った通り、この先ずっと流星のことを忘れないと思います」
 「わかってる」
 「そんな私が傍に居たら、蓮先輩を苦しめるかもしれません」
 「覚悟はできてる」
 「それでも私が蓮先輩を好きだと思う気持ちも本当なんです」

 蓮先輩は私に回していた腕を解き、私の顎に指をかけて上を向かせてくる。
 蓮先輩の強くて優しい眼差しと涙でぼやけながらもしっかり目線が絡んだ。

 「蓮先輩のことが好きです。大好きで、どうしようもないんです」

 ずっと伝えたくても伝えられなかった反動か、蓮先輩に”好き”だと言いたくてたまらない。

 「――明紗」

 蓮先輩の美形な顔が間近に迫ってくる。
 私の唇の感触を確かめるように触れ合わせ、離された蓮先輩の唇に視線を注ぐ。

 「俺、明紗に今なんて言ったらいいのかわからねぇ」
 「……」
 「好きだとか、愛しいとか、明紗がかわいすぎてたまらねぇとか、もっとキスしたいとか、今の感情をどう言葉で表現して明紗に伝えたらいいのか全然わからねぇ」

 口調が砕けた蓮先輩が何だかとっても愛しく感じて。

 「蓮先輩、」

 私から蓮先輩に口づけてしまった。

 「私を彼女にしてくれますか?」

 唇が接近したまま、私のぬかるんだ瞳を見つめる蓮先輩の目には驚愕と男の色気と表現したらいいのかゾクッとこみ上げるものがあって。

 「当たり前だろ」
 「蓮先輩……」
 「やっと、明紗が俺の彼女になった」

 ここにいる私の存在を確かめるように角度を変えて何度も私の唇に唇を触れ合わせてくる蓮先輩。
 名残り惜しむように離れた後、

 「こういうの明紗に溺れてるって言うんだろうな」

 と、自嘲気味に呟いた。
 また蓮先輩が私にキスをしようと顔を近づけてくるから、私は蓮先輩の唇に人差し指を添えてそっと止めた。

 「蓮先輩、バスの時間あるんですよね」
 「そうだな」
 「続きはまた今度。時間のある時にゆっくりしましょう」

 そう目を見て伝えれば、蓮先輩の頬が赤く染まって、「わかった」と視線を解かれた。

 「明紗、上着は?」
 「着てくるの忘れました」
 「寒いだろ。っていうか、余り明紗のその姿、他のやつらに見せてほしくない」

 柚乃にも指摘された私の服装。
 黒のタートルネック、グレンチェックのブラウンのショートボトムに黒タイツ。
 露出はないけど、服が身体のラインを拾っているかもしれない。

 「帰り明紗、電車?」
 「さっき蓮先輩のお母さまが帰りは私と柚乃も一緒に車に乗せてくれるって言ってました」
 「会ったのか?」
 「はい。翠ちゃん、泣いてました」
 「明紗と別れたって言ったら、翠は泣いて怒って大変だった。今日まで口もきいてもらえなかった」
 「ごめんなさい。でも、翠ちゃんにはまだ何も言えてません」
 「何で?」
 「私が蓮先輩にフラれる可能性があると思ったからです」
 「俺が明紗をフるわけねぇよ」