選手も観客席も歓喜の渦となった試合後、コート上では表彰式が行われていた。
息もつかせぬほど白熱した試合を見続けていた私は今になって自分のしたことに羞恥が襲ってくる。
試合を止めたりはしなかったけれど、私の蓮先輩への告白を聞いていた人も多いだろう。
気恥ずかしい気持ちはあるけど、今はとても清々しかった。
「明紗って意外に情熱的なんだね」
柚乃が拍手を送りながら、私に言う。
柚乃は準決勝から試合に一喜一憂してのめりこんで応援していたから疲れたらしい。
私もお兄ちゃんのこともあったし、自分が試合を終えた後のように全身が重かった。
「久瀬先輩、明紗の愛の告白で奮起してたもんね」
「これから私フられるかも」
「それはないよ。っていうか明紗の今日の恰好が色っぽい」
「え?」
「布で隠れている分、明紗のナイスバディの体のラインが浮き出ててやばい。ユズは大好き」
そういえば、慌てて上着も着ずに家を出てきていた。
流星が夢を見ていた三高の黒いユニフォーム姿で立つ春高のコート。
年明けには蓮先輩がその夢舞台に立つ。
表彰式が終わって観客席を後にするとエントランスホールで蓮先輩のご家族に会った。
私が伝えた蓮先輩への想いは蓮先輩のご家族にも届いていたようで、翠ちゃんは私と顔を合わせるなり、泣いていた。
「だって、お兄ちゃんが明紗ちゃんと別れたって言ってたから。明紗ちゃんとお手紙交換も出来なくなっちゃったし、寂しかったー」
本人からせがまれ、鈴ちゃんを抱っこしたまま、涙を流す翠ちゃんの頭を撫でる。
私が蓮先輩から離れたことで翠ちゃんに落涙させるほど、寂しい気持ちにさせてしまっていたことへの罪悪感が募った。
「明紗ちゃん。お兄ちゃんのこと好きだって言ってたから、またお兄ちゃんと付き合ってくれるんだよね?」
翠ちゃんに問われて、頷いていいのかわからなかった。
私が蓮先輩を好きだからといって、今の蓮先輩の気持ちはわからない。
もう私と付き合う気なんてないかもしれない。
そんな中、私のスマホに蓮先輩からメッセージが入る。
[今から1階のラウンジに来れるか?]
私は蓮先輩のご家族と柚乃に断って、蓮先輩の指定した場所を目指した。
この施設は2階にアリーナや選手用控室があり、3階が観客席となっている。
2階にエントランスホールがあるからか1階は閑散としていた。
「――明紗」
三高バレー部の黒のジャージ姿の蓮先輩がラウンジの自販機コーナーの前で待っていた。
「蓮先輩」
「こっち」
フロントにある事務室の横からトレーニングルームへと抜ける少し狭い通路へと蓮先輩に誘導された。
ここまでやってくると本当に人の気配を感じない。
蓮先輩と二人きり。
しかも通路が狭いから蓮先輩との距離が近いような気がして。
「俺たちバレー部は送迎バスで学校戻るから余り長く居られないけど」
蓮先輩が目の前に居て、私のために話してくれている。
離れていたのが長かった分、それだけでこみ上げるものがあって。
「俺、自分に都合のいい夢を見てるわけじゃないよな」
蓮先輩は自問するように言った。
「明紗、俺に気持ちを聞かせてほしい」
「春高出場おめでとうございます」
「――うん。いや、そっちじゃなくて」
苦笑いをした蓮先輩が愛しくて、私も口もとが緩んだ。
「私は蓮先輩のことが……」
そこまで言ったら、ぐっと奥底から何かが込み上げてきて、涙になって溢れ出る。
ずっと、もう泣かないって思ってきた。
泣きそうになっても、どうにか涙だけは流さないように頑張ってきた。
けど、お兄ちゃんと話して涙を堰き止めていたダムが一度決壊してしまったら、もう堪えるなんて無理で。
「大好きです」
蓮先輩の前で泣くつもりなんかなかったのに……。
今までのいろんな気持ちが涙になってあふれて止まらなくて。
「――明紗」
私の涙も想いも過去も今も未来も全てを受け止めるように蓮先輩に強く抱き締められた。
弾丸みたいなスパイクを打つ力強い腕。
ジャージ越しでもわかる厚い胸板。
私とは違う男の人の筋肉質で硬い身体。
それが蓮先輩のものであると認識するだけで、不思議と満ち足りていくような温かい感覚に包まれる。
息もつかせぬほど白熱した試合を見続けていた私は今になって自分のしたことに羞恥が襲ってくる。
試合を止めたりはしなかったけれど、私の蓮先輩への告白を聞いていた人も多いだろう。
気恥ずかしい気持ちはあるけど、今はとても清々しかった。
「明紗って意外に情熱的なんだね」
柚乃が拍手を送りながら、私に言う。
柚乃は準決勝から試合に一喜一憂してのめりこんで応援していたから疲れたらしい。
私もお兄ちゃんのこともあったし、自分が試合を終えた後のように全身が重かった。
「久瀬先輩、明紗の愛の告白で奮起してたもんね」
「これから私フられるかも」
「それはないよ。っていうか明紗の今日の恰好が色っぽい」
「え?」
「布で隠れている分、明紗のナイスバディの体のラインが浮き出ててやばい。ユズは大好き」
そういえば、慌てて上着も着ずに家を出てきていた。
流星が夢を見ていた三高の黒いユニフォーム姿で立つ春高のコート。
年明けには蓮先輩がその夢舞台に立つ。
表彰式が終わって観客席を後にするとエントランスホールで蓮先輩のご家族に会った。
私が伝えた蓮先輩への想いは蓮先輩のご家族にも届いていたようで、翠ちゃんは私と顔を合わせるなり、泣いていた。
「だって、お兄ちゃんが明紗ちゃんと別れたって言ってたから。明紗ちゃんとお手紙交換も出来なくなっちゃったし、寂しかったー」
本人からせがまれ、鈴ちゃんを抱っこしたまま、涙を流す翠ちゃんの頭を撫でる。
私が蓮先輩から離れたことで翠ちゃんに落涙させるほど、寂しい気持ちにさせてしまっていたことへの罪悪感が募った。
「明紗ちゃん。お兄ちゃんのこと好きだって言ってたから、またお兄ちゃんと付き合ってくれるんだよね?」
翠ちゃんに問われて、頷いていいのかわからなかった。
私が蓮先輩を好きだからといって、今の蓮先輩の気持ちはわからない。
もう私と付き合う気なんてないかもしれない。
そんな中、私のスマホに蓮先輩からメッセージが入る。
[今から1階のラウンジに来れるか?]
私は蓮先輩のご家族と柚乃に断って、蓮先輩の指定した場所を目指した。
この施設は2階にアリーナや選手用控室があり、3階が観客席となっている。
2階にエントランスホールがあるからか1階は閑散としていた。
「――明紗」
三高バレー部の黒のジャージ姿の蓮先輩がラウンジの自販機コーナーの前で待っていた。
「蓮先輩」
「こっち」
フロントにある事務室の横からトレーニングルームへと抜ける少し狭い通路へと蓮先輩に誘導された。
ここまでやってくると本当に人の気配を感じない。
蓮先輩と二人きり。
しかも通路が狭いから蓮先輩との距離が近いような気がして。
「俺たちバレー部は送迎バスで学校戻るから余り長く居られないけど」
蓮先輩が目の前に居て、私のために話してくれている。
離れていたのが長かった分、それだけでこみ上げるものがあって。
「俺、自分に都合のいい夢を見てるわけじゃないよな」
蓮先輩は自問するように言った。
「明紗、俺に気持ちを聞かせてほしい」
「春高出場おめでとうございます」
「――うん。いや、そっちじゃなくて」
苦笑いをした蓮先輩が愛しくて、私も口もとが緩んだ。
「私は蓮先輩のことが……」
そこまで言ったら、ぐっと奥底から何かが込み上げてきて、涙になって溢れ出る。
ずっと、もう泣かないって思ってきた。
泣きそうになっても、どうにか涙だけは流さないように頑張ってきた。
けど、お兄ちゃんと話して涙を堰き止めていたダムが一度決壊してしまったら、もう堪えるなんて無理で。
「大好きです」
蓮先輩の前で泣くつもりなんかなかったのに……。
今までのいろんな気持ちが涙になってあふれて止まらなくて。
「――明紗」
私の涙も想いも過去も今も未来も全てを受け止めるように蓮先輩に強く抱き締められた。
弾丸みたいなスパイクを打つ力強い腕。
ジャージ越しでもわかる厚い胸板。
私とは違う男の人の筋肉質で硬い身体。
それが蓮先輩のものであると認識するだけで、不思議と満ち足りていくような温かい感覚に包まれる。


