流れ星を追いかける君と、輝く夜明けに。

 もしかしたら、もう蓮先輩は他に好きな人が出来ているかもしれない。
 きっと、そのほうが蓮先輩にとってはいいとわかっているけれど。

 「流星……」

 おにぎりポリスが、流星に作ったユニフォーム型のお守りが、視界のすべてがぼやけていく。

 「……私ね、流星が気にいっていた蓮先輩のこと好きになった……」

 流星に呼びかけたって答えがもらえないことは知っている。
 それが人の死。
 流星がこの世から消えてしまった現実を繰り返し繰り返し何度となく思い知らされてきた。

 「流星……私、どうしたらいい?」

 蓮先輩に好きだと伝えるには躊躇があって、やっぱり涙だけは流したくなくて。
 私一人で抱えるには難題で、流星に縋るように言葉が溢れてしまった。

 ──コンコン。

 ノックの音が耳に入る。
 お母さんだろう。

 「はい、どうぞ」

 ティッシュで目元の水分を拭き取り、普通を装って返事する。

 「──明紗」

 その声の主が衝撃的すぎて、思わず立ち上がって、扉へと体ごと向ける。

 「お兄ちゃん……」

 入室してきたのは流星の死から断絶と言っていいほど、関係がなくなっていたお兄ちゃんだった。
 予想もつかなかったお兄ちゃんの登場を認識していくほどに指先が震えそうなほどの緊張感に包まれた。
 中3の時に180cmを超えていたお兄ちゃんは身長自体は変わっていないように思えるのに、全体的に大人へと変わっていた。
 高校生というよりは大人の男と表現したほうが近いように洗練されている。

 「明紗。想像以上に綺麗になってる。びっくりした」

 またお兄ちゃんに責められるんじゃないかと無意識に身構えていた私はお兄ちゃんが軽く笑ったことで少し力が抜けた。
 兄妹とは言え、ここまで約3年間まともに顔を合わせなかった私たちは想像でしかお互いの今の姿を知ることはなくて。
 特にお兄ちゃんが剣道の強豪校である東海地方の全寮制の高校に進学して、中学卒業と同時に家を出てしまってからはなおさらだった。
 何で、ここにお兄ちゃんが居るんだろう。
 その疑問を悟ったのか、

 「俺、長期休暇の時は結構帰ってきてた。母さんに頼んでマンションのゲストルームをとってもらってたけど」

 と、お兄ちゃんは回答した。
 わざわざゲストルームをとってもらうほど、この家に入りたくなかったということ。
 それほどまでに私はお兄ちゃんに避けられ続けてきた。

 『明紗のせいで流星は死んだんだよ!!』

 あのお兄ちゃんの声は今でも鼓膜を通り過ぎて脳に焼き付いている。
 お兄ちゃんとのことだけは蓮先輩にも柚乃にも言えなかった。

 「明紗に申し訳なくて、合わせる顔がなかった……」

 お兄ちゃんの目から一筋の涙が頬につたった。

 「お兄ちゃん……?」
 「俺、明紗に取り返しのつかない残酷なことを言った」
 「……」
 「流星が死んだことがショックでやりきれなくて、明紗に八つ当たりした」

 お兄ちゃんの両膝がフローリングに着地した。
 お兄ちゃんの頬には涙の筋がいくつも出来ていて鼻の辺りが赤く染まっている。
 大人の容姿をした硬派だと言われるお兄ちゃんに似つかわしくない表情だった。

 「明紗に許してほしいなんて言えない……。ずっと後悔してた。でも、余りにも自分がださすぎて明紗に合わせる顔がなくて逃げていた」
 「お兄ちゃん……」
 「ごめん、明紗。何度だって言う。本当にごめん」

 お兄ちゃんは腰を折り曲げ、頭を地面につける。
 土下座と呼ばれる姿勢だ。

 「お兄ちゃん!」

 私はそんなお兄ちゃんの姿は見ていたくなくて駆け寄って座り込み、二の腕辺りをもって顔を上げさせた。
 顔をあげたお兄ちゃんの顔は涙に濡れている。

 「明紗のせいじゃない」
 「……」
 「流星が死んだのは明紗のせいじゃない」
 「……」
 「そんなこと自分でもわかってたのに激情に任せて明紗に取り返しのつかない言葉をぶつけた」
 「……」
 「ごめん。明紗。ごめん……ずっと明紗に謝りたかった……」

 まるで幼い子どものように何度も私に謝りながらお兄ちゃんは咽び泣いていた。
 どれだけお兄ちゃんが後悔して、私に謝ることに覚悟をもってくれたか、充分すぎるほど伝わってきて。

 「明紗が一番寂しかった時に俺が近くにいてあげられなくて本当にごめん」

 そのお兄ちゃんの言葉でずっと封印していた私の涙が目から溢れてしまった。