流れ星を追いかける君と、輝く夜明けに。

 ああ、今日もか。
 蓮先輩の声に敏感に反応する鼓動は私の内側で主張するように高らかに鳴っている。
 蓮先輩と離れてから、屋上庭園で蓮先輩が告白されている場面に遭遇したのは一度や二度程度じゃない。
 それは私が高校に入学してすぐの頃と変わっていない。
 蓮先輩が相手に伝える台詞も。
 変わったのは蓮先輩と私に表向きだけでも恋人として一緒に過ごした期間があったってことだけ。
 蓮先輩が指す好きな()は今も変わっていないのだろうか。

 「うん、わかった。久瀬くんが好きな子とうまくいくといいね」

 そんな言葉を最後に静かになったのを見計らって足を進める。
 いつだっただろう。
 出入口の扉の横に背をもたれるように立つ蓮先輩と今日と同じように目が合ったのは。
 さらりとした黒い髪。
 バランスの良い長躯。
 綺麗な顔立ちの中で一際(ひときわ)印象的な鋭い双眸が少し高い位置から私に向けられる。
 相変わらず蓮先輩はかっこいい。
 最上級にかっこいいはずなのに、更に上へと更新されていく。
 蓮先輩がかっこいいのは見た目だけじゃないと今の私は知っている。
 知りすぎている。
 ──また蓮先輩と話したい。
 そんな身勝手な願望が成長する前に私は蓮先輩の横を通り過ぎる。
 蓮先輩も何も私に話しかけなかった。
 蓮先輩の声で名前を呼ばれたい。
 ──明紗って呼んでほしい。
 蓮先輩を知らなかったあの頃よりも遠く感じて胸が苦しくなる。
 あの頃だって蓮先輩は私の知らないところで私を想ってくれていたのに。
 三高の男子バレー部は9月に行われたバレー一次予選の三日目も結果をおさめ、11月に行われる東京都の代表決定戦を控えていた。
 代表決定戦にコマを進めた4校のうち3校が春高に出場出来る大切な試合。
 もう蓮先輩に関わらないと言った私が応援に行けるわけがない。

 「ユズね、9月に志恩と喧嘩してた時があったの」

 放課後、私は男子バレー部が活動する第二アリーナに行かなくなったけれど、柚乃は一人でも足を向けていたし、塾までの自習の時間を資料が充実した図書閲覧室で過ごすことが増えていたから、柚乃と廊下を一緒に歩いていた。
 そんな時にさらっと打ち明けられる。
 柚乃は笹沼先輩を“志恩“と呼ぶようになっていたし、昼休みは私と教室で昼食をとった後に笹沼先輩に会いに行くようになっていたから順調だとばかり思っていた。

 「久瀬先輩って明紗のこと入学前から好きだったんでしょ?」
 「うん。聞いてる」
 「志恩がユズに近づいたのはユズと仲が良い明紗に近づくためだったんじゃないかって」
 「え?」
 「結局ユズの勘繰りだったんだけど。実際、三高に入学してからユズを遣って、明紗に近づこうとする男は結構居たし」
 「そうなの?」
 「明紗が気にすることないよ。鏡見て出直せってユズ返り討ちにしてきたし」

 そうだった。
 柚乃は可愛らしい見た目とは真逆の猛毒を吐く辛辣(しんらつ)な性格をしていた。
 柚乃が笹沼先輩と付き合ってから、余りそういう一面に出くわす場面が減ってたから忘れそうになっていた。

 「明紗、久瀬先輩のこと好きだよね?」
 「……」
 「久瀬先輩も明紗のこと好きだよね?」
 「……」
 「二人の問題だからユズが立ち入るつもりはないけど、どうしてお互い好きな二人が今は完全に別れた状態なのか、シンプルにユズは不思議」