流れ星を追いかける君と、輝く夜明けに。

 私としては蓮先輩に届いてほしいだけの少し声量を上げた声だったのに。
 2年A組の教室内が私の声を引き金にして、嘘のように静まり返った。

 「──明紗……?」

 私を認めた蓮先輩の目が見張られる。
 少なからず蓮先輩も私の来訪に驚いたようだった。
 席から立ち上がって、私の傍まで歩いてくる。
 夏休みの間ずっと部活のTシャツにジャージ姿の蓮先輩と校内で会っていたから、校章が左胸に刺繍されている白いポロシャツの制服姿の蓮先輩と対面して、さっきまでの緊張感とは別の意味で胸が逸った。

 「ごめんなさい。教室までおしかけて」
 「いや、いいけど」
 「蓮先輩と話をしたい……ので、」
 「……」
 「私に呼び出されてほしくて、」
 「……」
 「蓮先輩のご都合を聞きに来ました」

 蓮先輩としっかり視線を重ねながらも、どこかたどたどしい口調になってしまった。
 少し耳の辺りが紅潮したように染まった蓮先輩は一度だけ顔を横に背ける。
 蓮先輩は横顔のラインも美しいと魅入ってる間もないまま、

 「わかった」

 と、ぽつりと了承の意をこぼす。
 夏休み明け初日の今日は早速1限から5限まで授業が詰まっているものの昼休みと午後の6、7限はなく13時には下校となる。
 恐らく蓮先輩はいつもより早く訪れる放課後も部活だろう。

 「今日、第二アリーナの空調点検が入るから部活15時で終わる」
 「……」
 「それからなら時間ありそうだけど」

 私は今日も19時から塾だけど、それなら充分に時間はある。

 「私も学校残って待ってます」
 「大丈夫か?」
 「はい」

 蓮先輩とは15:20に屋上庭園で会うことにして、私は自分の教室へと戻った。
 柚乃や1ヶ月ぶりに顔を合わせるクラスメイトたちの夏の思い出を休み時間ごとに聞き役で教えてもらっていた。
 ひと夏の濃度はさまざまなんだと実感する。
 お弁当を持ってきていなくて、今日はカフェテリアの購買も閉まっていたから、学校の外のコンビニで調達してカフェテリアで食べた。
 カフェテリアは部活動の生徒で盛況で、蓮先輩も来るのかと思ったけど、姿を見せることはなかった。
 蓮先輩と約束した時刻までの間を図書閲覧室で過ごす。
 9月に入れば、程なくして前期の期末考査を迎える。
 冷房が効いて快適な図書閲覧室は一人用のブースもあって、勉強に集中したい生徒に人気がある。
 蓮先輩と会う時刻を迎える頃には少し肌寒くなっていて腕には鳥肌が立っていた。

 久しぶりに屋上庭園への扉を開ける。
 薄暗い空のためか、先週までの猛暑続きの日々と比べると気温がやや下がったように感じられた。
 夏休みの間は完全に立ち入り禁止になっていたから、ここに足を踏み入れるのは久しぶりだった。
 自動散水システムはついているけれど、夏季休暇期間中もきちんとメンテナンスはされていたみたいで、花々は静かに凛と咲いて庭園を彩っている。
 植木された百日紅(さるすべり)の鮮やかなピンクの花が見頃で目を奪われた。
 とっくに今日の下校時刻を過ぎた屋上庭園に人影はなくて、ちょうど木陰になっているベンチに座る。
 晩夏と呼ぶにはまだまだ暑さが強いけど、日差しを遮ったこの場所には涼やかな風が通り抜けて、終わらない夏なんてないんだと、そう思った。
 5分ほど経って蓮先輩が到着した。