流れ星を追いかける君と、輝く夜明けに。

 私はそれを知っている。

 『そいつに俺が三高に行きたいこと伝えたら、そしたら自分もそうするって。あいつと三高でバレーできたら楽しいだろうな』

 流星から聞いて知っている。

 「出来ないって知ってたけど」

 どこか哀切を含ませた声色で、蓮先輩は切れ長の瞳を細めた。
 その人は流星ですか?
 私も一緒に三高に通いたい人が居たんです。
 そう伝えてしまいたくなる衝動と、それを止める自制心とが静かに私の中で戦う。

 「俺はここに入学するためにかなり勉強した」
 「……」
 「明紗って適当に理由を作ってごまかしたりしないよな」
 「……」
 「気が向いたら教えて。明紗の志望理由」
 「はい」

 そう頷けたのがやっとだった。
 どうしてこんなに蓮先輩は私を慮ってくれるのだろう。
 蓮先輩の気持ちに応えられないのに、今まで通り蓮先輩の傍に居られるなんて、そんな資格が私にあっていいと思えなかった。
 それでも蓮先輩と距離を置くことができずにいる。
 今まで通りにしてほしいって蓮先輩の言葉に甘えたまま、身も心も焦がす太陽が照りつける夏の日々は蓮先輩の傍で流れ去っていく。
 その週の土曜日には笹沼先輩と柚乃を含めた4人で夏祭りに行った。
 夕涼みって言葉を使えないくらいに夕闇が空を覆っても熱気が地表にこもって、肌にまとわりつく。
 蓮先輩と笹沼先輩は部活帰りだったけど、私服だった私と柚乃。

 「やっぱりユズも浴衣にすれば良かった」

 そう後悔を口にする柚乃と前を歩く笹沼先輩は人が集った出店が林立するメインストリートを歩く時に自然と手を握り合っていた。

 「明紗、混んでるから気をつけろよ」
 「はい」

 そう私を気遣ってくれる蓮先輩と私の手が繋がれることはなくて。
 柚乃たちや周りの仲が良さそうな男女を見て、これが”表向き”だけの自分たちとの違いなのかともの悲しさが募る。
 きっと私が頼めば蓮先輩は手を繋いでくれるだろう。
 でも、それを今の私がしてはいけないことくらいわかっていた。

 夏祭りの翌々日から蓮先輩と笹沼先輩はバレー部の強化合宿で隣の県に3泊4日で旅立ってしまった。
 関東の高校が4校集まる毎年恒例の合同合宿らしく、標高が高い避暑地で毎晩すぐに眠れるほど朝から晩までバレー漬けで精神と肉体を鍛え上げられる日々を過ごしているらしい。
 それでも欠かさず蓮先輩は私に眠りにつく前にメッセージを送ってくれた。
 私は蓮先輩が合宿で不在でも夏季講習のために学校へ通っていて、午前中だけで終わった日はカフェテリアに行かずに素直に自宅に帰宅する。
 柚乃が自宅に遊びに来た日も数日あった。

 お盆期間に入り、1週間完全に学校が閉庁される初日には柚乃が計画してくれて都心から1時間もかからずに特急で到着する小江戸と呼ばれる場所へいつもの4人で出かけた。
 到着するなり柚乃は夏祭りで浴衣が着られなかったリベンジとばかりに事前に調べておいた着物レンタル店へと私たちを誘う。
 黒地の浴衣姿が蓮先輩に似合いすぎていて、直視するのが難しいほど胸がときめくのを感じた。

 「明紗。似合ってる」

 白地に紫の紫陽花が咲いた浴衣を着て、髪もアップにセットされた私を蓮先輩はストレートに褒めてくれたから、もっと鼓動が抑えられなくなって平常心を保っていられたのか不安になった。
 蔵造の街並みや菓子屋横丁、様々な気を引かれるものを食べ歩きをして、帰りの特急で笹沼先輩と柚乃は仲良く肩を並べて眠ってしまっていた。
 向かい合わせにした座席でそんな二人を見ながら、

 「楽しかった」

 と、蓮先輩が感想を述べた。

 「私もです」
 「明紗、人目を惹きすぎ。どこ行っても目立ってるから焦ってた」

 それは蓮先輩のほうだろうと反論したかった。
 さらりと浴衣を着こなす蓮先輩は出向く先々で「あの人、かっこいい」「素敵」と周りに持て囃されていた。

 「何が一番おいしかった?」
 「きゅうりの一本漬けです」
 「明紗。あれ食べてたな。俺はさつまいもチップかな」

 私も蓮先輩から一口もらって食べたけど、塩バターの風味がさつまいもの味と合っていてカリカリの食感がおいしかった。

 「今度は……」

 蓮先輩がその先の言葉を止めた。
 きっと、あえて。
 私も同じことを思っていた。
 ──今度は二人で行きたい。
 でも、私がそう口にしたら蓮先輩は困るだろう。
 蓮先輩も私が困ると思ったのだろう。
 表向きだけの私たちの関係がいつまで続いていくのか、蓮先輩も私もわかっていない。

 去年までとは違う夏の日々を折り重ねていくうちに夏休みは残り1週間になっていた。