聞いてもいないのに、私に自分のことをよく話す流星。
 たいてい私は返答もできなくて、ただじっと流星を見つめているだけで何のリアクションもできない。
 それでも流星は私に笑顔で話しかけてくる。

 「明紗。こいつ気にしなくていいから」

 そうこうしているうちに毎回お兄ちゃんが流星を引き摺るように自分の部屋へ連れていく。
 それがお決まりのパターンだった。
 私としては気にしないなんて無理な話で。
 流星はバレー部のエースらしく、バレーに時間を割くことが多いから、連日来ているかと思えば、ぱったりと1週間ほど来ない時もある。
 不定期だからこそ今日は流星が家に来るのか、そわそわしてしまう。
 小学校にいたって、習いごとに行ったって、そんなことばかり頭を占めるようになっていく。
 流星の存在が大きくなるのと並行するように空気は乾燥して、寒さが増していった。

 「明紗。俺さ、彼女と別れちゃった」

 小学校の2学期終業式の日。
 私は半日で学校が終わっていて、習いごとの学習塾を終えて家に居た。
 宿題は先に終わらせておきたいタイプの私がダイニングテーブルで課題をしていた時、今日も自宅に流星がやって来て出し抜けにそう言った。
 なんてことない軽い口調で。

 「そう。大騒ぎだったんだよ。廊下で、その子が流星にキレちゃって流星を引っ叩いて」
 「女の子って力強いんだよねー。叩かれた頬まだ赤くなってるでしょ?」
 「自業自得だろ。よりによってクリスマス目前で別れるなんて最低だって俺と同じクラスの女子も騒いでた」
 「軽い気持ちで付き合ったのは悪いと思ってるけどね」
 「何で……?」

 珍しく私が言葉を発したからか、流星もお兄ちゃんも虚をつかれたように目を見開いた。

 「流星さん。何で、別れたの?」

 純粋に疑問を口にしただけだった。
 小学生だって付き合ったり別れたりの話を見たり聞いたりすることは少なくない。

 「え? 明紗。俺に興味でてきた?」

 流星の眼差しが宝箱を開く時のように輝いたように見えた。

 「ううん。流星さんには興味ない」
 「はっきり言われすぎて、いっそすがすがしいね」

 そう言いながらも、私に何を言われても余裕ですって雰囲気の流星の顔。

 「明紗。流星さんってやめようか?」
 「え?」
 「何か他人行儀じゃない? 呼び捨てにしてよ」

 他人行儀というより実際に他人ではないだろうか。
 何だかこの人、距離感がよく掴めない。

 「そんなに馴れ馴れしくできない」
 「俺は明紗に馴れ馴れしくされたいの」
 「それに流星さん年上だし生意気だと思われそう」
 「明紗のことは生意気だと思ってるよ。最初から」