蓮先輩の掠れた低い声が私の鼓膜を甘く揺らした。
「はい。大丈夫です」
『明紗、今どこ?』
「私は……」
今、考えたことを伝えるか、躊躇が生まれる。
だって流星は私がSL公園の話を出したことがきっかけで、結果的に事故にあってしまった。
自分の言葉を伝えるのが怖い。
だけど、今きっと落ち込んでいる蓮先輩が私に会いたいというのなら、どうしても私も会いたい。
「蓮先輩」
『……何?』
「私の自宅に来ませんか?」
そう伝えた後、しばらく蓮先輩は無言だった。
『いいのか?』
「はい。今、チャットで学校からのルート送ります。でも、気をつけてきてください」
蓮先輩との電話を切る。
私の自宅の最寄り駅と6両目に乗れば下車して近くの階段を上がったところにある改札の出口で私は待っているということをチャットに送っておいた。
三高の校門から最寄り駅の地下鉄入口までは横断歩道を渡ることもないし、危険な道もないから大丈夫。
乗車時間も10分程度だし……。
それでも胸の辺りに恐ろしく重みが増した。
あのSL公園で待ち合わせた時、どんなに待っていても流星は現れなかった。
私にはこんな場所にも傷の根が張り巡っているんだと実感する。
時間的に一度自宅に戻っても間に合うとは思ったけれど、改札の前でずっと蓮先輩を待つ。
改札越しに蓮先輩の姿を見つけた時は待っているのが怖かった分だけ、安心感が広がった。
「蓮先輩」
「まさか明紗に自宅に誘われると思わなかった」
私も蓮先輩を自宅に招くとは思わなかった。
蓮先輩は部活用の黒いTシャツに下はジャージ。
それに大きなエナメルのスポーツバッグを斜めにかけている。
着飾っているわけでもないのに雑誌のモデルのように人目を惹く。
でも、やっぱり元気がない。
身体だけじゃなくて、心も。
私がいつも通っている自宅までのルートを蓮先輩と並んで歩くのは不思議な感覚だった。
「明紗、ここに住んでるのか?」
「はい」
「すごいところに住んでるんだな」
隣を歩く蓮先輩が周囲に視線を走らせている。
私が住んでいる駅直結で聳え立つタワーマンションはどこもかしこも瀟洒で今通ったエントランスも数多くの共用施設もエレベーターも当時の最新設備が尽くされている。
エレベーターで39階まで上がり、自宅の玄関を開けた。
「どうぞ」
「お邪魔します」
自宅に入るように促すと、少し蓮先輩は表情が硬くなっている。
お母さんが在宅だとばかり思っていたけど、姿が見えない。
「母は外出しているみたいです。他に誰も居ないので気を遣わなくて大丈夫です」
蓮先輩にリビングのソファーに座ってもらう。
紅茶かコーヒーかどちらがいいか蓮先輩に聞くと、出来れば水がいいと答えたから、蓮先輩にグラスに注いだミネラルウォーターとお母さんが商談先の人にもらったというお菓子2種類を出す。
蓮先輩は丁寧にお礼を言った。
「鈴が明紗に懐いていてびっくりした。いつも人見知りがひどくて、家族から離れないのに」
「翠ちゃんも鈴ちゃんも、とってもかわいかったです」
「ありがとう、明紗」
「いえ、私も鈴ちゃんを抱っこさせてもらって嬉しかったです」
きっと蓮先輩が本当に話したいのはこのことじゃない。
蓮先輩はお菓子に手をつけずに黙ってしまう。
3試合ほぼフルで出場して、あと一歩のところでインターハイに行けなかった。
蓮先輩の気持ちがわかるなんて、軽々しく私は言えない。
窓から差し込む光がオレンジ色に染まりつつあって。
「蓮先輩。私、ピアノを弾いてもいいですか?」
「はい。大丈夫です」
『明紗、今どこ?』
「私は……」
今、考えたことを伝えるか、躊躇が生まれる。
だって流星は私がSL公園の話を出したことがきっかけで、結果的に事故にあってしまった。
自分の言葉を伝えるのが怖い。
だけど、今きっと落ち込んでいる蓮先輩が私に会いたいというのなら、どうしても私も会いたい。
「蓮先輩」
『……何?』
「私の自宅に来ませんか?」
そう伝えた後、しばらく蓮先輩は無言だった。
『いいのか?』
「はい。今、チャットで学校からのルート送ります。でも、気をつけてきてください」
蓮先輩との電話を切る。
私の自宅の最寄り駅と6両目に乗れば下車して近くの階段を上がったところにある改札の出口で私は待っているということをチャットに送っておいた。
三高の校門から最寄り駅の地下鉄入口までは横断歩道を渡ることもないし、危険な道もないから大丈夫。
乗車時間も10分程度だし……。
それでも胸の辺りに恐ろしく重みが増した。
あのSL公園で待ち合わせた時、どんなに待っていても流星は現れなかった。
私にはこんな場所にも傷の根が張り巡っているんだと実感する。
時間的に一度自宅に戻っても間に合うとは思ったけれど、改札の前でずっと蓮先輩を待つ。
改札越しに蓮先輩の姿を見つけた時は待っているのが怖かった分だけ、安心感が広がった。
「蓮先輩」
「まさか明紗に自宅に誘われると思わなかった」
私も蓮先輩を自宅に招くとは思わなかった。
蓮先輩は部活用の黒いTシャツに下はジャージ。
それに大きなエナメルのスポーツバッグを斜めにかけている。
着飾っているわけでもないのに雑誌のモデルのように人目を惹く。
でも、やっぱり元気がない。
身体だけじゃなくて、心も。
私がいつも通っている自宅までのルートを蓮先輩と並んで歩くのは不思議な感覚だった。
「明紗、ここに住んでるのか?」
「はい」
「すごいところに住んでるんだな」
隣を歩く蓮先輩が周囲に視線を走らせている。
私が住んでいる駅直結で聳え立つタワーマンションはどこもかしこも瀟洒で今通ったエントランスも数多くの共用施設もエレベーターも当時の最新設備が尽くされている。
エレベーターで39階まで上がり、自宅の玄関を開けた。
「どうぞ」
「お邪魔します」
自宅に入るように促すと、少し蓮先輩は表情が硬くなっている。
お母さんが在宅だとばかり思っていたけど、姿が見えない。
「母は外出しているみたいです。他に誰も居ないので気を遣わなくて大丈夫です」
蓮先輩にリビングのソファーに座ってもらう。
紅茶かコーヒーかどちらがいいか蓮先輩に聞くと、出来れば水がいいと答えたから、蓮先輩にグラスに注いだミネラルウォーターとお母さんが商談先の人にもらったというお菓子2種類を出す。
蓮先輩は丁寧にお礼を言った。
「鈴が明紗に懐いていてびっくりした。いつも人見知りがひどくて、家族から離れないのに」
「翠ちゃんも鈴ちゃんも、とってもかわいかったです」
「ありがとう、明紗」
「いえ、私も鈴ちゃんを抱っこさせてもらって嬉しかったです」
きっと蓮先輩が本当に話したいのはこのことじゃない。
蓮先輩はお菓子に手をつけずに黙ってしまう。
3試合ほぼフルで出場して、あと一歩のところでインターハイに行けなかった。
蓮先輩の気持ちがわかるなんて、軽々しく私は言えない。
窓から差し込む光がオレンジ色に染まりつつあって。
「蓮先輩。私、ピアノを弾いてもいいですか?」



