流れ星を追いかける君と、輝く夜明けに。

 速見さんは頬に伝った涙をジャージの袖で拭う。

 「だめだよね。榊くんがもし生きてたら……ってばかり考えちゃうの。いつも考えているわけじゃないんだけど、こうバレーの会場とか日常のふとした瞬間に急にフラッシュバックして、つらくなっちゃうことがあって」

 弱々しく私に笑う速見さん。

 「普段こんなこと誰にも話さないんだけど、何か明紗ちゃんには話したくなっちゃった……。ごめんね。私、同じ高校のバレー部にちゃんと彼氏はいるんだよ」
 「いえ、大丈夫です」

 速見さんと別れてからもどこか私はぼんやりとしたままだった。
 観客席に戻ろうと廊下の角にさしかかった時、曲がった先から複数の男の人の声が聞こえて思わず立ち止まる。

 「三高の応援席めちゃくちゃかわいい子いるって噂になってたけど見た?」
 「見た! あれはやばいって。天才的」
 「え、そんななの? 後でチェックしよ」
 「でも、どっちかというと、かわいいっていうより美人系じゃなかった?」
 「俺はかわいいと思ったけど、どっちの要素もある顔って感じ。マジでやばい」
 「あの子、三高の7番の久瀬蓮の彼女なんだって」
 「うわ、男いるのかよ」
 「いないほうがおかしいだろ」
 「久瀬、絶好調だもんな。文句なくイケメンだし。あんな彼女いたら、俺も張り切るわ」

 こちらに気づかれる前にUターンして、別の場所から三高の応援席に戻った。
 コート上ではすでに各校が試合前の練習に入っている。
 その中には蓮先輩の姿もあった。

 「明紗。おかえりー。何かね、久瀬先輩のご家族は鈴ちゃんが昼寝しちゃったから先に帰ったって」
 「そうなんだ」
 「もうユズ本当緊張する。試合が始まってほしいけど始まってほしくないって感じ」

 柚乃は速見さんと私の会話を聞いていたはずなのに、何も言ってこない。
 ”榊くん”って誰なのか聞かれたらどうしようかと思っていた。
 きっと私に気を遣って自分からは聞かないんだろう。

 「柚乃」
 「明紗、どうかした?」
 「好き」

 柚乃は私の一言に最初は無反応で固まっていたけれど、

 「もう明紗って何でそんなに沼らせてくるの! ユズのほうが明紗のこと大好き」

 と、座ったまま横から私に抱き着いてきた。
 柚乃に抱きしめられたまま、コート上の蓮先輩を見つめていた。
 流星と繋がっていた蓮先輩。
 何となく流星が蓮先輩を気に入った理由はわかる。
 流星が打ち込んでいるバレーで蓮先輩に憧れてるってストレートに言われたら嬉しかっただろう。
 私は流星のバレーしている姿を知らない。
 流星のことを好きだった速見さんが流星の姿を蓮先輩とだぶらせて試合が見られなくなるくらい似ているんだ。
 速見さんが繰り返し”流星が生きていたら……”と口にしていたからなのか、元々そうだったことを強く意識してしまったからか。
 生きていたら……って流星が生きていないことの証明みたいで。
 コートに笛の音が響き、各校の選手たちがエンドラインに一列になった。
 最後の試合が始まる。

 「柚乃、ごめん。私、ちょっとだけ抜ける」
 「え?」
 「少し気分が悪くて」
 「大丈夫? 医務室一緒に行こうか?」
 「そこまでじゃないから、少し外の風にあたってくる」
 「ユズも一緒に行くよ」
 「ううん。柚乃は私の分も応援していて」
 「でも……」
 「大丈夫。少し一人になりたい」
 「そっか。何かあったらユズに連絡して」

 私は試合開始で熱気が高まるアリーナから一人で抜け出した。
 さっきまで速見さんと話していた廊下のソファーに不時着する。
 試合が始まったからか、エントランスから廊下まで人影はまばら。
 アリーナから溢れ出た歓声がひっきりなしに耳に届く。