私の自宅は都心の駅に直結しているタワーマンションの39階だ。
 お父さんは外資系投資銀行勤務で、お母さんは新卒で大手広告代理店で勤務した後に仲間と立ち上げたデザイン会社で役員をしている。
 いわゆる両親がパワーカップルな代わりに2人ともが多忙で自宅に不在なことが多い。
 それが幼い頃から当たり前すぎて、余り寂しいって実感はなかった。
 こういうものかなっていった感覚だった。
 ボタンひとつで洗濯物は乾いた状態にしてくれるし、食べ終わったお皿だって食洗機が洗ってくれる。
 家電は有能で。
 お父さんもお母さんもお金で解決できる不便さなら出資するって考え方で、とても合理的。
 そんな自宅にお兄ちゃんが流星を連れてきたのは去年の11月のことだったと思う。
 二人がまだ中2だった頃だ。
 小学校から塾に直行して帰宅した私がリビングのダイニングテーブルで課題をこなしていると、学ラン姿のお兄ちゃんと流星が現れた。

 「え? 天音の妹? 姉ちゃんかと思った」

 流星の私への第一声はいささか失礼なものだった。

 「妹がいるって言っただろ。明紗って名前。小6」
 「コレがランドセル背負って小学校行ってんの? 詐欺だろ」
 「何の詐欺だよ」

 お兄ちゃんは呆れながらも、「ただいま、明紗」とリビングのソファーにナイロンの通学リュックを置いた。

 「おかえり。お兄ちゃん」

 お兄ちゃんが連れてきたアイドルみたいな人が私を穴が開くほどじっと見続けてくる。
 私はお兄ちゃんに助けを求めるような目を向けていたのかもしれない。

 「流星。明紗を見過ぎ」
 「あ、悪い。余りにも華がある子だから見惚れてた」

 軽い。
 そう思った。
 髪も目の色も軽やかな茶色をしているけれど。
 真面目なお兄ちゃんと親しくなるタイプには見えなかった。

 「こいつは榊 流星。これでも生徒会長。バレーばかりやって成績あがらなくて、今のままだと行きたい高校行けないから勉強教えてくれって頼まれたの」
 「え? 明紗にそれバラす?」
 「真実だろ。それにもう呼び捨てかよ」
 「いいじゃん。ね、明紗」

 私の瞳の奥まで覗き込んでしまうような、柔らかいながらも貫くような視線で見つめられ、返事が出来なかった。
 こういう人を”女好き””ナンパ”などと呼ぶのではないだろうか。
 もちろん小学校に居ない種類の人間だった。

 「……」
 「ねえ、天音。明紗って喋んないの?」
 「流星と話したくないだけだろ」
 「え? マジでそれはヘコむ」

 違う、と流星に言ってあげられたらよかったのかもしれないけれど、別に完全に違うわけでもなくて黙していた。
 それから流星はお兄ちゃんに勉強を教えてもらうために不定期なペースで自宅を訪れるようになっていた。
 私が居れば私にも絡んでくる。

 「明紗。俺ねバレー部のエースなの」
 「明紗。俺、生徒会長なんだけど」
 「明紗。俺さ、7月7日が誕生日で」