流れ星を追いかける君と、輝く夜明けに。

 笹沼先輩と柚乃が図書委員の仕事があると立ち去ってしまったので、私と蓮先輩は屋上庭園に来ていた。
 たいてい二人が図書当番でいなくなる時は蓮先輩と屋上庭園に移動する。
 ライラックの鉢は開花時期の関係か撤去されてしまったらしく、このベンチからちょうど見える濃淡ブルーで彩られた水色の紫陽花(あじさい)が目に優しく映った。
 ライラックや紫陽花のように小さい花が集まって咲く花のほうが、大輪の花より好きかもしれない。

 「ライラックなくなったんだな」

 蓮先輩が放った一言に蓮先輩もライラックを気にしていたことがわかった。

 「あれ、好きだった」
 「私、今度ピアノで弾きましょうか?」

 隣の蓮先輩を見上げて言うと、蓮先輩は私を見つめたまま、何秒か押し黙った。

 「弾けるのか?」
 「はい。蓮先輩に『ライラック』を教えてもらってから聴くようになって。同じアーティストさんの曲は何曲かピアノで弾いてみました」

 短時間の日もあるけど、今でも毎日ピアノに触れている。
 昔からピアノを弾いている間は無心で曲に向き合っていられた。

 「俺、明紗のピアノ聴きたい」
 「今度、機会があったら弾きます」

 蓮先輩がライラックの鉢が置いてあった場所をどこか物悲しげに見つめていたから思わず口についた台詞だったけど、蓮先輩が喜んでくれているように見えて私までホッとした。

 「明紗、」
 「はい」
 「日曜にインターハイ予選の2日目がある」
 「そうですよね」
 「一言でいいから」
 「?」
 「明紗に応援されたい」

 貫通しそうなほど、強くて鋭く、どこか切ない蓮先輩の眼差しに充てられる。
 応援って蓮先輩に何を言ったらいいのだろう。
 「頑張れ」とか「ファイト」とか「応援してる」とかが適当なんだろうけど。

 『別に天才じゃねぇよ。勝ちたいってだけ』
 『蓮は勝ちたいからうまくなりたいんだって』

 蓮先輩と笹沼先輩が話していた言葉が脳内で再生される。

 「──勝ってください」

 蓮先輩と交わった視線。
 熱気と湿り気を帯びた風が蓮先輩と私の間を吹き抜ける。
 瞬間を切り取られたように蓮先輩の端麗な顔立ちが反応を示してくれない。
 何か私は外してしまったのかと不安に浸食されてきた時、

 「うん。明紗、ありがとう。絶対に勝つ」

 蓮先輩の手が私の頬に近づいてきて、私に触れる前に巻き戻されるように戻って行った。

 「2日目も勝ち進んだら、次の週に4校総当たりで試合するリーグ戦がある」
 「はい」
 「そこで上位2校に入れば、インターハイに行ける」

 それは私も調べて知っている。
 出場校の数にも驚いたし、インターハイに行くって、やっぱり険しい道なのだと思い知らされた。

 「もし三高がリーグ戦まで勝ち残ったら、来週の日曜日、明紗に会場まで来てほしい」

 そう蓮先輩に頼まれて、すぐに頷けなかった。
 柚乃も会場まで笹沼先輩に会いに行きたいだろうし、来週の日曜は特に予定がない。
 会場に来てほしいと言う蓮先輩。
 私には絶対に来てほしくないと言った流星。

 「来週の予定、確認してみます」