流れ星を追いかける君と、輝く夜明けに。

 何ともない話題のはずなのに、視界がぐらりとぶれる。
 ”あの日”から、どうしてもポニーテールだけは出来なかった。

 『体育祭でポニーテールしてたでしょ? あれ、またしてきてよ。ああ、やっぱりいい。俺の前だけにして。他の奴らに見せたくない』

 流星とSL公園で待ち合わせした日から私はポニーテールはしていない。
 だって、流星は私のその髪型を見ることもなく死んでしまった。
 髪を結ぶことなんていつだって出来たはずなのに……。

 「──明紗」

 自分の名前なんて呼ばれ慣れているはずなのに、沈んでいく私を一瞬で引き上げるほど強い衝撃が駆け巡った。
 その低い声色が久瀬先輩のものだったから。
 たまに久瀬先輩に名前を呼ばれても”弓木さん”だったのに。
 窓枠で頬杖をついている久瀬先輩は真っ直ぐ私を見据えている。
 薫風に揺れる黒髪が、美形だともてはやされるその顔が、窓枠も相まって高尚な美術館に飾られている絵画を見ているようだった。

 「俺、明紗が彼女でかなり浮かれてる」
 「え?」
 「また昼休みな」

 それだけ言って、廊下をまた歩いていく久瀬先輩。
 廊下にいた生徒たちが男女問わず、頬を赤らめてざわついていた。

 「おい。待てって。蓮」

 笹沼先輩は柚乃に手を振ってから久瀬先輩を追いかけていく。

 「何か、ユズが照れちゃった」

 柚乃と本校舎に戻るために並んで歩く。

 「いつの間に明紗って久瀬先輩に名前で呼ばれてたの?」
 「今が初めて」
 「え、そうなの? やけにユズには自然に聞こえたけど」

 私にも自然に響いた。
 しかも浮かれてるなんて久瀬先輩に一番似合わない言葉だった。
 男子バレー部を見学していたって、明らかに他の部員よりも熱がある。
 熱血漢というよりは秘めている闘志を静かに漲らせているといった印象。

 「久瀬先輩も明紗と恋人らしくしないとって思ったのかな」

 恋人らしく。
 そんな義務的なことで言われた言葉だったのか。
 どこか物悲しく心に重圧みたいなものがかかる。
 柚乃だけじゃなくて私も少し照れてしまったから。
 あくまで久瀬先輩が彼氏なのは表向きなだけ。
 自分にそう言い聞かせていたら、いつもよりも昼休みにフリースペースに赴く足取りが緊張で重く感じた。

 「今日、部活にバレー雑誌の取材入るんだよ」
 「えーすごっ……。志恩先輩も映るんですか?」
 「ほぼ蓮個人だと思うよ。強豪っていってもここ数年三高はインターハイも春高も予選で敗退してるし、残念ながらそこまで学校としては注目されてないんだよね」

 久瀬先輩との間の空気が変わるのかと思ったけど、相変わらずランチタイムは笹沼先輩と柚乃が会話している横で私に無関心なのか目すら合わない。
 食べ終わったお弁当箱を片付けていたら、おもむろに笹沼先輩と柚乃が立ち上がる。

 「じゃあ俺たち今日は昼休み図書当番で図書室に行ってくるから」
 「ユズ教室に図書室からそのまま戻るね」