大きな瞳を潤ませて困っている柚乃を放っておくことが出来ず、私は今日もこうして第二アリーナで男子バレー部を見学することになってしまった。
「明紗、ごめんね。電話やチャットなら一人でも笹沼先輩と平気なんだけど」
「ううん」
今日も柚乃と並んで第二アリーナの出入口の傍で壁に沿って立つ。
「ほんっと優しいよね、明紗。ユズを放っておいて帰ればいいのに」
「柚乃が頑張ろうとしてるってわかるから放っておけるわけない」
「明紗、大好きー」
柚乃はくるっと体の向きを変えると、私に抱き着きながら胸元に顔を埋めてくる。
柚乃が私たちが居る方角を瞥見していた男子バレー部員たちに、勝ち誇った表情を向けていたことなんて気づかなかった。
「けど、明紗は告白とかも律儀に全部対応しなくていいと思う。呼び出しがバッティングした時とか、わざわざ生真面目に相手の教室まで出向いて伝えに行ったりしてるじゃない? そういうことしてると余計に明紗のこと好きになられちゃうよ」
「同じ人ってわけじゃないから」
「前にユズが聞いた時、明紗は彼氏作らないって言ってたじゃない? 何か理由があったりする?」
私の胸元から顔を上げて、上目で私を確認してくる柚乃。
彼氏を作らない理由……。
胸の奥がぎゅっと絞られた感覚が走る。
「明紗、言わなくてもいいよ」
柚乃が私の正面から隣へと位置を戻す。
柚乃って強引でありながらも、私が踏み込んでほしくない場所は機敏に察してくれるところに救われている。
特定の子と仲良くしないように気を付けていた私が、いつしか柚乃には必要以上に垣根を作りすぎないようになっていた。
今は流星のことを話す気にはなれないけど。
「あ、笹沼先輩出てきた!」
笹沼先輩と柚乃は手を振りあっている。
昼休みのことで二人に特にわだかまりはなさそうだった。
笹沼先輩の隣には相も変わらず久瀬先輩が居る。
私を一瞥されたように思えたのは気のせいだろうか。
何であの時、私は久瀬先輩に手首を掴まれたんだろう。
「笹沼先輩やっぱりかっこいい。あんな素敵な人がユズの彼氏なんて信じられない」
準備運動から始まった男子バレー部の練習を眺める。
私はバレーボールに詳しいわけじゃないけど、明らかに久瀬先輩は他の部員と違って見えた。
2年エースと聞いているけれど、スパイクなんてアリーナの底が抜けるんじゃないかってくらいものすごい音がするし、あんな強烈なボールをレシーブで受けられる人がいるのか不思議に思う。
プレーもそうだけど、バレーにかける熱っていうのが周りと一線を画している気がする。
「ユズ、バレー余り見たことないけど、久瀬先輩ってやっぱり違うよね」
笹沼先輩にしか目がいかなそうな柚乃でさえ、そう呟いていた。
「久瀬くん、やっぱりすてきー」
「去年、1年で全日本ユース候補の強化合宿とかも呼ばれてたんだって」
「何で彼女いないんだろう」
「かっこよすぎ」
2階のキャットウォークで見学している女の子たちの会話が耳に入る。
今日もなかなか第二アリーナの見学者が多いけど、大半が久瀬先輩目当てらしい。
久瀬先輩が名実ともにバレー部のエースなのだろう。
それは昨日今日と少しの時間しか見学していないバレーボール素人の私にでさえわかる。
『ちょっと待って。無理無理。明紗が見てると思ったら俺、バレーに集中できなくなる』
流星が生きていたら、私が三高で男子バレー部の練習を見ることはなかったのかもしれない。
あの三高の男子バレー部の部員が着ている黒いジャージは流星が着ていたかもしれない。
こうして第二アリーナでバレーの練習をしていたのは流星だったかもしれない。
久瀬先輩のようにスパイクを打ち込んでいたのは流星だったかもしれない。
流星が生きてさえいれば……。
私がSL公園のことなんて言わなければ……。
「え……明紗! どうしたの!?」
慌てた様子の柚乃の声が頭の中で遠く響く。
突然、網膜が何も映さなくなり、身体のどこにも力を入れられなくなった私はその場に崩れ落ちるように倒れていた。
「明紗、ごめんね。電話やチャットなら一人でも笹沼先輩と平気なんだけど」
「ううん」
今日も柚乃と並んで第二アリーナの出入口の傍で壁に沿って立つ。
「ほんっと優しいよね、明紗。ユズを放っておいて帰ればいいのに」
「柚乃が頑張ろうとしてるってわかるから放っておけるわけない」
「明紗、大好きー」
柚乃はくるっと体の向きを変えると、私に抱き着きながら胸元に顔を埋めてくる。
柚乃が私たちが居る方角を瞥見していた男子バレー部員たちに、勝ち誇った表情を向けていたことなんて気づかなかった。
「けど、明紗は告白とかも律儀に全部対応しなくていいと思う。呼び出しがバッティングした時とか、わざわざ生真面目に相手の教室まで出向いて伝えに行ったりしてるじゃない? そういうことしてると余計に明紗のこと好きになられちゃうよ」
「同じ人ってわけじゃないから」
「前にユズが聞いた時、明紗は彼氏作らないって言ってたじゃない? 何か理由があったりする?」
私の胸元から顔を上げて、上目で私を確認してくる柚乃。
彼氏を作らない理由……。
胸の奥がぎゅっと絞られた感覚が走る。
「明紗、言わなくてもいいよ」
柚乃が私の正面から隣へと位置を戻す。
柚乃って強引でありながらも、私が踏み込んでほしくない場所は機敏に察してくれるところに救われている。
特定の子と仲良くしないように気を付けていた私が、いつしか柚乃には必要以上に垣根を作りすぎないようになっていた。
今は流星のことを話す気にはなれないけど。
「あ、笹沼先輩出てきた!」
笹沼先輩と柚乃は手を振りあっている。
昼休みのことで二人に特にわだかまりはなさそうだった。
笹沼先輩の隣には相も変わらず久瀬先輩が居る。
私を一瞥されたように思えたのは気のせいだろうか。
何であの時、私は久瀬先輩に手首を掴まれたんだろう。
「笹沼先輩やっぱりかっこいい。あんな素敵な人がユズの彼氏なんて信じられない」
準備運動から始まった男子バレー部の練習を眺める。
私はバレーボールに詳しいわけじゃないけど、明らかに久瀬先輩は他の部員と違って見えた。
2年エースと聞いているけれど、スパイクなんてアリーナの底が抜けるんじゃないかってくらいものすごい音がするし、あんな強烈なボールをレシーブで受けられる人がいるのか不思議に思う。
プレーもそうだけど、バレーにかける熱っていうのが周りと一線を画している気がする。
「ユズ、バレー余り見たことないけど、久瀬先輩ってやっぱり違うよね」
笹沼先輩にしか目がいかなそうな柚乃でさえ、そう呟いていた。
「久瀬くん、やっぱりすてきー」
「去年、1年で全日本ユース候補の強化合宿とかも呼ばれてたんだって」
「何で彼女いないんだろう」
「かっこよすぎ」
2階のキャットウォークで見学している女の子たちの会話が耳に入る。
今日もなかなか第二アリーナの見学者が多いけど、大半が久瀬先輩目当てらしい。
久瀬先輩が名実ともにバレー部のエースなのだろう。
それは昨日今日と少しの時間しか見学していないバレーボール素人の私にでさえわかる。
『ちょっと待って。無理無理。明紗が見てると思ったら俺、バレーに集中できなくなる』
流星が生きていたら、私が三高で男子バレー部の練習を見ることはなかったのかもしれない。
あの三高の男子バレー部の部員が着ている黒いジャージは流星が着ていたかもしれない。
こうして第二アリーナでバレーの練習をしていたのは流星だったかもしれない。
久瀬先輩のようにスパイクを打ち込んでいたのは流星だったかもしれない。
流星が生きてさえいれば……。
私がSL公園のことなんて言わなければ……。
「え……明紗! どうしたの!?」
慌てた様子の柚乃の声が頭の中で遠く響く。
突然、網膜が何も映さなくなり、身体のどこにも力を入れられなくなった私はその場に崩れ落ちるように倒れていた。



