これがギャップというのだろうか。
スピーチの前に垣間見せた軽い流星と難なく真面目にこなす在校生代表挨拶との差。
壇上から流星に呼びかけられて面食らっていた私も流星の挨拶に聞き入っていた。
『僕たちは若さゆえに時間は無限に続いていると思いがちです。ただ過ぎた時間は二度と元には戻りません。卒業式を迎える日、自分に胸を張れる思い出をたくさん語れるような有意義な3年間を過ごしてください。僕もあと1年卒業まで悔いの残らないよう毎日を大切に生きていきたいと思います。以上で、在校生代表の挨拶といたします。
令和×年4月6日 在校生代表 榊流星』
恭しく一礼した流星は拍手に後押しされるように柔和な笑みを浮かべて壇上から去っていく。
何でステージから私に呼びかけてきたのか。
これでは入学早々悪目立ちしてしまう。
新入生代表の挨拶を普通に終わらせられたと思っていたのに……。
勝手なことをしでかされた流星への怒りに似た感情と同じくらいに私の中で充満する気持ちに戸惑う。
流星に構われて嬉しい……なんて。
入学式は恙なく終了し、教室に戻って行われた短いホームルームのみで今日は解散となった。
教室内で初めて顔を合わせる面々と交流を始めるというよりは教室の後ろで待っていた保護者を伴ってそれぞれが帰宅していく。
「驚いたわね。流星くん」
私もお母さんの隣に並んで廊下を歩いていた。
現在165センチの私はあと5センチお母さんの身長まで届かないけど、ずいぶん目線の高さが近づいてきた。
ボディラインに沿ったピンストライプのダークグレーのパンツスーツがその抜群のスタイルに映えている。
一般的な母親像と一線を画した洗練された雰囲気を惜し気もなく放出している。
「開口一番それ? 私、新入生代表挨拶頑張った」
「とっても良かったわよ。明紗はどんな発表の場でも、いつも安心して見ていられるもの。けど、完全に流星くんの挨拶にくわれてたわよね」
そうだろうとは自分でも思う。
流星の在校生代表の歓迎挨拶のほうがインパクト強すぎて、私の挨拶が記憶に残ってる人ってどのくらいいるのだろう。
「流星にあんなことされちゃって悪目立ちしなければいいんだけど」
「明紗が目立っちゃうから、わざわざあんなことしたんでしょ」
「わざわざ……?」
「おっ、明紗ー、おばさん、こんにちは!」
足元を白いスニーカーへと履き替え、昇降口から外へと出たところで話題の張本人である流星は私とお母さんに軽い足取りで近づいてきた。
さっきのさっきで流星にどんな顔をしていいのかわからない私は胸の鼓動の速まりを感じながらも顔を俯かせる。
「流星くん。やってくれたわねー」
「先に釘刺しておかないと。ね、明紗」
流星は私の前に立ち、顔を覗き込むように腰を曲げた。
これを流星にされるのは初めてじゃない。
接近した流星のどこか甘い端正な顔立ち。
その中でもひと際印象的な二重の双眸。
髪がふわりと軽やかな茶色をしている流星は瞳の色素だって薄めで見つめられると心ごと絡め取られてしまう。
「きゃー!! 榊先輩! こっち向いてくださいー」
「榊先輩。後でバレー部の練習、見学に行きますねー!」
スピーチの前に垣間見せた軽い流星と難なく真面目にこなす在校生代表挨拶との差。
壇上から流星に呼びかけられて面食らっていた私も流星の挨拶に聞き入っていた。
『僕たちは若さゆえに時間は無限に続いていると思いがちです。ただ過ぎた時間は二度と元には戻りません。卒業式を迎える日、自分に胸を張れる思い出をたくさん語れるような有意義な3年間を過ごしてください。僕もあと1年卒業まで悔いの残らないよう毎日を大切に生きていきたいと思います。以上で、在校生代表の挨拶といたします。
令和×年4月6日 在校生代表 榊流星』
恭しく一礼した流星は拍手に後押しされるように柔和な笑みを浮かべて壇上から去っていく。
何でステージから私に呼びかけてきたのか。
これでは入学早々悪目立ちしてしまう。
新入生代表の挨拶を普通に終わらせられたと思っていたのに……。
勝手なことをしでかされた流星への怒りに似た感情と同じくらいに私の中で充満する気持ちに戸惑う。
流星に構われて嬉しい……なんて。
入学式は恙なく終了し、教室に戻って行われた短いホームルームのみで今日は解散となった。
教室内で初めて顔を合わせる面々と交流を始めるというよりは教室の後ろで待っていた保護者を伴ってそれぞれが帰宅していく。
「驚いたわね。流星くん」
私もお母さんの隣に並んで廊下を歩いていた。
現在165センチの私はあと5センチお母さんの身長まで届かないけど、ずいぶん目線の高さが近づいてきた。
ボディラインに沿ったピンストライプのダークグレーのパンツスーツがその抜群のスタイルに映えている。
一般的な母親像と一線を画した洗練された雰囲気を惜し気もなく放出している。
「開口一番それ? 私、新入生代表挨拶頑張った」
「とっても良かったわよ。明紗はどんな発表の場でも、いつも安心して見ていられるもの。けど、完全に流星くんの挨拶にくわれてたわよね」
そうだろうとは自分でも思う。
流星の在校生代表の歓迎挨拶のほうがインパクト強すぎて、私の挨拶が記憶に残ってる人ってどのくらいいるのだろう。
「流星にあんなことされちゃって悪目立ちしなければいいんだけど」
「明紗が目立っちゃうから、わざわざあんなことしたんでしょ」
「わざわざ……?」
「おっ、明紗ー、おばさん、こんにちは!」
足元を白いスニーカーへと履き替え、昇降口から外へと出たところで話題の張本人である流星は私とお母さんに軽い足取りで近づいてきた。
さっきのさっきで流星にどんな顔をしていいのかわからない私は胸の鼓動の速まりを感じながらも顔を俯かせる。
「流星くん。やってくれたわねー」
「先に釘刺しておかないと。ね、明紗」
流星は私の前に立ち、顔を覗き込むように腰を曲げた。
これを流星にされるのは初めてじゃない。
接近した流星のどこか甘い端正な顔立ち。
その中でもひと際印象的な二重の双眸。
髪がふわりと軽やかな茶色をしている流星は瞳の色素だって薄めで見つめられると心ごと絡め取られてしまう。
「きゃー!! 榊先輩! こっち向いてくださいー」
「榊先輩。後でバレー部の練習、見学に行きますねー!」


