***
「明紗。絶対に早く戻ってきて。ユズ、明紗に大事な相談があるの」
そう言われて柚乃に見送られた私は今日の昼休みも屋上庭園に向かっていた。
今日の昼休みこそ何もないかと思っていたのに、クラスメイトの女の子から3限の休み時間に、
「3年の先輩から昼休みに屋上庭園まで来てほしいって弓木さんへの伝言を頼まれたんだよね」
と、声をかけられた。
その子はサッカー部のマネージャーをしていて、サッカー部の3年生に私への伝言を頼まれたらしい。
「ごめんね。明紗ちゃん、いきなり呼び出しちゃって……」
「いえ、」
屋上庭園の丸い花壇の前に立って私を待っていたサッカー部の3年生。
いきなりの”明紗ちゃん”呼びに面くらう。
見た目からして少しチャラチャラしている感じは受ける。
余り見つめないように気を付けながら、次の言葉を待った。
「明紗ちゃん。俺の女になってよ」
少女漫画ではときめくような台詞なのかもしれないけど、実際に言われると驚きが勝る。
相手との関係性の問題か、今日知ったばかりの人に言われても胸キュンよりは戸惑いしかない。
「明紗ちゃん恋愛興味ないって言ってるんだよね。だったら俺が全部教えてあげるから」
「すみません。そういうのは大丈夫です」
一歩、後ずさって距離をとる。
たまに話の通じなさそうな人に告白されることもあった。
そういう時は相手を刺激しないように逃げるしかない。
「遠慮することないって」
「遠慮じゃありません」
「間近で見てもやっぱり”弓木明紗”って別格だよね。ここまで何もかも綺麗な子って実在するんだ」
「……」
「何から教えてほしい? キスがいい? 明紗ちゃんヤッたこととかある?」
「……」
「”弓木明紗 みんなでフラれれば 怖くない”とか言うけどさ。やっぱり弓木明紗を彼女にしたいじゃん。自慢になるし、明紗ちゃんをSNSに載せたら絶対すぐバズるって」
一歩ずつ後ずさっても、どんどん距離を詰められる。
私の話をまったく聞いていないし、私のことを好きだというよりは”弓木明紗”を彼女にした自分になりたいらしい。
「──いい加減、しつこいんだよ」
迫力のある低音が響いて、私もサッカー部の3年生も動きを止める。
「嫌がってるの見てわからねぇの」
声のした方角へと視線の先を流す。
昨日もここで遭遇した久瀬蓮先輩が端正な顔立ちを不機嫌に歪めて立っていた。
「お前、確か2年の久瀬……」
「とっくにフラれてんだから潔く諦めろよ」
「お前には関係ない。だいいち先輩に対する口の利き方じゃないだろ」
「今のやりとり、スマホに撮っておいたけど」
久瀬先輩は自分の胸元辺りで持っていたスマホを少し上へと上げる。
「引かないなら先にネットで流そうか? 完全にセクハラだろ。サッカー部、大会近い……」
「やめてくれ! もういいよ」
サッカー部の3年生は脱兎のごとく、屋上庭園から姿を消した。
「明紗。絶対に早く戻ってきて。ユズ、明紗に大事な相談があるの」
そう言われて柚乃に見送られた私は今日の昼休みも屋上庭園に向かっていた。
今日の昼休みこそ何もないかと思っていたのに、クラスメイトの女の子から3限の休み時間に、
「3年の先輩から昼休みに屋上庭園まで来てほしいって弓木さんへの伝言を頼まれたんだよね」
と、声をかけられた。
その子はサッカー部のマネージャーをしていて、サッカー部の3年生に私への伝言を頼まれたらしい。
「ごめんね。明紗ちゃん、いきなり呼び出しちゃって……」
「いえ、」
屋上庭園の丸い花壇の前に立って私を待っていたサッカー部の3年生。
いきなりの”明紗ちゃん”呼びに面くらう。
見た目からして少しチャラチャラしている感じは受ける。
余り見つめないように気を付けながら、次の言葉を待った。
「明紗ちゃん。俺の女になってよ」
少女漫画ではときめくような台詞なのかもしれないけど、実際に言われると驚きが勝る。
相手との関係性の問題か、今日知ったばかりの人に言われても胸キュンよりは戸惑いしかない。
「明紗ちゃん恋愛興味ないって言ってるんだよね。だったら俺が全部教えてあげるから」
「すみません。そういうのは大丈夫です」
一歩、後ずさって距離をとる。
たまに話の通じなさそうな人に告白されることもあった。
そういう時は相手を刺激しないように逃げるしかない。
「遠慮することないって」
「遠慮じゃありません」
「間近で見てもやっぱり”弓木明紗”って別格だよね。ここまで何もかも綺麗な子って実在するんだ」
「……」
「何から教えてほしい? キスがいい? 明紗ちゃんヤッたこととかある?」
「……」
「”弓木明紗 みんなでフラれれば 怖くない”とか言うけどさ。やっぱり弓木明紗を彼女にしたいじゃん。自慢になるし、明紗ちゃんをSNSに載せたら絶対すぐバズるって」
一歩ずつ後ずさっても、どんどん距離を詰められる。
私の話をまったく聞いていないし、私のことを好きだというよりは”弓木明紗”を彼女にした自分になりたいらしい。
「──いい加減、しつこいんだよ」
迫力のある低音が響いて、私もサッカー部の3年生も動きを止める。
「嫌がってるの見てわからねぇの」
声のした方角へと視線の先を流す。
昨日もここで遭遇した久瀬蓮先輩が端正な顔立ちを不機嫌に歪めて立っていた。
「お前、確か2年の久瀬……」
「とっくにフラれてんだから潔く諦めろよ」
「お前には関係ない。だいいち先輩に対する口の利き方じゃないだろ」
「今のやりとり、スマホに撮っておいたけど」
久瀬先輩は自分の胸元辺りで持っていたスマホを少し上へと上げる。
「引かないなら先にネットで流そうか? 完全にセクハラだろ。サッカー部、大会近い……」
「やめてくれ! もういいよ」
サッカー部の3年生は脱兎のごとく、屋上庭園から姿を消した。


