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 「弓木さん。入学式で弓木さんの新入生代表挨拶を見た時から好きになりました。僕と付き合ってください」

 風薫る5月の昼休み。
 緑深い庭園のある校舎の屋上へ呼び出された私と告白をしてきた相手の彼との間をさわやかな風が吹き抜ける。
 4月に朝比奈第三高等学校──通称、三高に入学した私が、同じ高校の男子に告白されたのはこれで何人目かは数え上げていない。
 三高は男女比率7:3で男子のほうが多い。
 三高の制服であるキャメル色のブレザージャケットにダブルの金ボタンは気温が高かったため今日は羽織らず、長袖の白シャツにブレザーと同色のニットベストを重ね、緑チェックのスカートを合わせている。
 女子は同じ柄のスラックスもあったけれど、私は常にスカートに紺のハイソックスで登校している。
 スラックスをはいている生徒は女子全体で3割ほどといった印象だ。

 「弓木さん、聞いてる?」
 「あ、もちろん」

 目の前の彼は確か1年I組だと言っていた。
 今まで挨拶も会話もしたことがないし、名前も顔も知らない接点のない人。
 1年A組の私とは一番離れたクラスだ。
 今朝、登校してきたら靴箱に”昼休みに屋上庭園で待っています”と、メモの切れ端が入っていた。

 「ありがとう。とても嬉しいんですけど、私、今は誰かと付き合うとか興味がなくて。お気持ちに応えられなくて申し訳ありません」

 いつもの断りの定型文を伝えて、丁寧に頭を下げる。

 「頭を上げてよ。弓木さんに告白できただけでも嬉しいんだ。時間を作ってくれてありがとう」
 「こちらこそ、ありがとうございます」

 告白してくれたI組の男子は先に屋上から去っていった。
 三高では、この屋上庭園が告白スポットらしく、入学してから毎日といっても過言ではないくらい、ここに呼び出されてきた。
 今日は放課後も三年生にここに呼ばれている。
 けど、屋上庭園はいたるところに花壇や緑が植えられていて、ベンチも数箇所設置され、時間の流れが穏やかに感じられて気に入っていた。
 飲食が禁止されているここは手入れも行き届いていて、野ざらしのはずなのに清潔感があって落ち着ける。
 私も1年A組の教室に戻ろうかと唯一の出入り口に足を向けた時だった。

 「久瀬(くぜ)くん。私、1年生の頃から久瀬くんのこと好きだったの。私と付き合ってくれないかな?」

 ちょうど扉の前あたりで、告白をしているのか女の子の声が聞こえてきて、歩行を止める。

 「悪い。俺、好きな()いるから、付き合えない」