お兄ちゃんの言葉に思いっきり殴られたような感覚がした。

 「流星のお通夜……?」
 「ん。明日18時から。交通事故だから検視とかいろいろあって時間かかって。事件性はなかったみたいだから司法解剖まではしなかったって聞いた」
 「……」
 「葬式は身内だけでやる家族葬で執り行うらしい。と言っても流星もう骨になってるけど」
 「……ほね……」
 「火葬を先に今日やったんだって。遺体の状態がその余りにも……」

 お兄ちゃんはそこで言葉を濁した。
 現実はこんなにも残酷なの……?
 私に触れてきたあの指も、バレーボールのトスを上げ続けるあの端正な横顔も。
 触り心地のいい流星のキャラメル色の髪も、
 私を映しこむ色素の薄い瞳も、もうこの世界のどこにも存在しないってこと?

 『明紗』

 私を呼ぶ流星の声はもう二度と聞けないってこと?
 私、流星に好きだって言ってないのに……。
 何も伝えていないのに。
 こんなにも唐突に流星は居なくなっちゃったの?

 「……お通夜に行けば、流星に会えるの?」

 上半身を起こしてお兄ちゃんに向かい合う。
 あの夜以降、私の目からは初めて涙が出ていた。
 目の周りがやたら熱くて仕方ない。

 「流星のお通夜に行けば、流星と話が出来るの?」
 「明紗……」
 「違うでしょ?! ただ流星の死を知らしめされるだけの場所でしょ?!」

 お兄ちゃんに感情的になったって仕方ない。
 わかってるのに……。

 「流星どこに消えちゃったの……?」

 ずっと泣けなかった分だけ涙が堰を切ったように溢れて止まらない。

 「どこに行けば流星に会えるの?」

 涙が次々とシーツに落ちていく。

 「流星に好きって……まだ言えていないのに……」

 お兄ちゃんは何も言わずに私の髪を撫でてくれていた。
 現実からは逃れられないんだと……。
 流星が七夕の夜、SL公園に来れなかったことが全ての残酷な現実で……。
 わかっていた。
 本当はわかっていた。

 ──流星は15歳の誕生日に亡くなってしまったんだと。

 それがどうしようもない現実なんだと。
 どんなに泣いたところでそれが変わることはないんだと。
 どうしようもならない……。
 どうして、流星なの……?
 誰を恨めばいい?
 誰を憎めば楽になれる?

 『この先ずっと、明紗が大人になってくのを一番近くで見ていられたら最高だよな』

 流星がそう言ったくせに……。
 私は流星に訪れない明日をどう生きていけばいいの……?