何が起きているのだろう。
 そこから私は何らかの別の世界に迷い込んだように、目に見えるもの、聞こえているものすべてに現実感がなかった。

 「明紗っ……!」

 お父さんとお兄ちゃんがSL公園まで私を車で迎えに来てくれた時、私はスマホを地面に落としたまま、ベンチに座り微動だにしていなかったらしい。

 「部活が終わって、流星がSL公園に向かっている途中で」

 「車が流星に突っ込んで」

 「病院に運ばれたけど即死状態で」

 「ちょっと、まだ俺もよく状況がわかってなくて」

 「ひとまず今日は家に帰ろう」

 お父さんの車の後部座席に座っている間、お兄ちゃんの言葉だけが鼓膜から侵入して脳内で響く。

 ──流星が死んだ?

 その言葉の意味はわかってる。
 そんなに頭が足りなくない。
 けれど認識ができない。

 ──流星が死んだ。

 聞くだけじゃ実感がわかない。
 その日、帰宅してからベッドに横になり続けた。
 自室で寝ているのか起きているのかあやふやなまま。
 気がつけば朝方を迎えている。
 もしかしたら、今日が7月7日なのかもしれない。
 部屋のカーテンを開けたら、まだ薄暗い世界に雨が降りしきっていた。
 スマホの画面を見る。
 7月8日 05:29
 7月7日は終わってしまっている。
 私はこの日を過ごさなかったはずなのに。
 流星と19時にSL公園で待ち合わせしていて。
 そこに流星が来るはずで。
 私は流星を待っているはずで。
 私が髪をポニーテールにしてるのを、きっと流星は気づいてくれて。
 手作りのお守りだって渡して。
 私も流星が好きだって伝えて……。
 何一つ、実現しないまま。
 7月7日が終わってしまっている。
 どうして7月8日になってるの?
 私は自室から出ることが出来ずに初めて学校を休んだ。
 だって学校に行ってしまえば、流星がいないことを実感してしまう。
 昨日まで当たり前のように流星が居た青中に流星がいなかったとしたら……。
 私は流星が死んだことを受け入れなければいけなくなる。
 まだ、これは現実ではない可能性にすがりたい。
 お母さんは在宅勤務に切り替えてくれたみたいで、

 「明紗。少しは食べなさいよ」

 と、時間が来ると、私の部屋にご飯を持ってきてくれた。
 他に何も触れずにいてくれるお母さんの優しさがかえってつらくなる。
 何の食欲もわかずに野菜ジュースだけを飲んで、一日の大半をベッドに横になって過ごした。
 次の日も、また次の日も。
 流星と7月7日19時にSL公園で待ち合わせできないまま、時間だけが過ぎていく。
 日曜日の夜。お兄ちゃんが部屋にやってきた。

 「明紗。お前ぜんぜん食べてないんだって?」

 背中を向けてベッドに横になったままの私に構わず、ベッドに座って私の髪をなでてくれた。
 お風呂には毎晩ちゃんと入っているし、着替えや歯磨きや洗顔はしている。
 でも、本当に最低限なことしかできていない。

 「明紗。明日、流星のお通夜に一緒に行こうか?」