流れ星を追いかける君と、輝く夜明けに。

 ***

 5月最後の週末に行われた中学初めての体育祭が終わり、暦が6月を迎えても、流星と昼休み半分を一緒に過ごす日々は続いていた。
 今年も梅雨入りが宣言されたものの、雨が連日続いているわけでもなく、体育館の外階段は日陰とは言え蒸し暑くなってきている。
 青中は男子は紺のポロシャツだけど、女子の夏服はカラー以外は白だから、どことなく校内も夏色に染まっている気がした。
 今日も外階段に座り、飽きもせず流星が真上にトスを繰り返す様子を眺めている。

 「流星。SL公園って知ってる?」
 「青中から10分くらい歩いたとこにあるSLが展示されている公園のこと?」
 「そこのSLの前でどちらかの誕生日に告白して付き合った2人は永遠の愛で結ばれるって」
 「え? 明紗そういうの信じるタイプじゃないでしょ」
 「クラスメイトの子たちが話してただけ」
 「それで俺が告られる時、よくそこに呼び出されてたのか」
 「私、SLは見たい」
 「明紗。鉄道とか好き?」
 「普通に。お兄ちゃんがいたから」

 家にプラレールとトミカのおもちゃがたくさんあったし、幼い時は家族で駅に新幹線を見に行ったし、鉄道博物館もお兄ちゃんと楽しめた。

 「天音は産まれた時から明紗を知ってんだよな。何かムカつく」

 少し唇を尖らせながら、どうしてこうも精密な機械のように正確にトスを上げ続けられるのか、未だに不思議で流星の姿を見つめてしまう。

 「明紗。男に呼び出されてもそこ行かないでよ」
 「どんなSLか気になる」
 「やだ。俺が明紗を連れてくから本当やめて」
 
 トスを中止して片手でバレーボールを持つと、私の隣に腰掛けた流星は私の手を取って指を絡めてくる。
 私が流星の手を自分から握ってしまったあの時から、私と流星は昼休みに会うだけの関係に指と指を絡め合う関係が追加されていた。
 細長くて、骨ばった綺麗な指先が意味ありげに私の指に絡んでくるのが私は嫌じゃなくて、そのままにされてしまう。

 「流星って、お兄ちゃんに勉強教えてもらわなくなった?」
 「何、急に」
 「私が中学入学してから、一度も家に来てない」
 「俺、放課後も休日も部活や生徒会で忙しいから」
 「それは2年の時も同じでしょ」
 「明紗。わかってて言わせようとしてる?」

 絶やさない笑みのまま、流星に目をじっくり覗き込まれる。
 ここで頬を赤らめて、目を逸らしたりするのがかわいい女の子の対応なのかもしれないけど、流星にこれをされると、余計に私から目を逸らしたくないと思ってしまう。
 ──私に会いたかったからだよね?
 なんて流星に言えなかったし、自分から言いたくなかった。

 「流星の髪の色。とっても綺麗でズルい」

 絡まった指先とは別の手で流星の髪に手を伸ばす。
 陽の光が溶け込んで光るキャラメル色の柔らかい髪。
 指を通すと、全く絡まないし一本一本上質でさわり心地さえ良かった。

 「何。明紗、これもOKなんだ」

 私の指から手を離し、胸元まで伸びた私の黒髪を梳くように指を通してくる流星。
 私から流星に触れた場所は、私のその場所にも流星がいつでも自由気ままに触っていいと私の許可が出ているという謎ルールは何なんだろう。

 「俺は明紗の黒髪ストレート大好き。明紗に似合ってるし、王道って感じでたまらない。体育祭でポニーテールしてたでしょ? あれ、またしてきてよ。ああ、やっぱりいい。俺の前だけにして。他の奴らに見せたくない」
 「私、体育の授業の時、いつも髪の毛まとめてるけど」
 「え? そうなの? 何かやだ。明紗、そんなサービスやめて」
 「下ろしてると邪魔だから」
 「明紗の体育の授業いつ? 俺、授業サボって見学しに行く」
 「流星の将来のためにも真面目に授業受けたほうがいいと思う」
 「明紗、ど正論やめて」

 私は流星と過ごす昼休みのこの20分足らずが、24時間のうちで一番大切になっていた。
 もしかしたら、最初からそうだったかもしれない。