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 春は別れと出逢いの季節だと人はいう。
 3割ほど私立中学に進学した子たちも居たけれど、2週間ほど前に行われた小学校の卒業式に涙はなく笑顔に包まれ、たくさん写真に映った。
 今日は区立青柳(あおやぎ)中学校の入学式。
 近隣の小学校が3つほど集まった公立中学校。
 男子は学ラン。
 女子の制服は紺を基調に、白の三本ラインがカラーと袖口に入っている。
 胸元に飾られているリボンはエンジ色。
 入学式の時分には桜が散ってしまっていることを見越して、1週間前には友だちに誘われて真新しい中学の制服を着て満開の桜の木の前で撮影大会をした。
 いわゆる前撮りしたわけだけど、昨日の豪雨で見事に桜は散り、地面に散らばる花びらも泥だらけだから正解だっただろう。
 私も今日から本格的に中学生。
 体育館に整列している私と同じ新入生たちは下ろしたての制服に着られながらも、きっと各自これからの中学生活に想いを馳せているのだろう。
 そして、それを後ろに着席している保護者の方々も同様で静かに見守っている。

 『新入生代表挨拶 1年1組 弓木(ゆみき) 明紗(あさ)
 「はい」

 司会進行を担っている先生に返事をしてから、立ち上がり着席した新入生の列の間を通って、体育館の壇上を目指す。
 新入生代表挨拶を任されて、緊張しないわけじゃないけど、4歳から続けているダンスやピアノの発表会のおかげか人前に立つことは慣れているほうかもしれない。

 「あの子、とっても可愛い……っていうより綺麗じゃない?」
 「背高い。スタイルいいね」
 「黒髪もストレートで天使の輪できてる。芸能の仕事とかやってるのかな」

 歩いている途中、耳に入る声には反応しないように気をつけて、私は壇上から伸びている階段を登り、演台のマイクの前に立った。
 スッと息を小さく吸う。

 『今年も暖かな春が訪れ、私たち184名の新入生は無事に青柳中学校の入学式を迎えることが出来ました。本日はこのような素晴らしい入学式を挙行していただき、誠にありがとうございます。
 青柳中学校の新入生を代表しまして心よりお礼を申し上げます』

 小学校の先生と一緒に考えた新入生代表のスピーチ。
 何度も練習したから、原稿を見なくても流暢に言葉が出続ける
 喋るペースが早くならないよう、目線が一定にならないよう、注意しながら体育館に視線を走らせた。
 すごく見られてるし、ちゃんと私の挨拶は聞かれているようだ。
 寝ている人なんて1人もいない。
 やっぱり新入生みんなそこはかとなく表情が固く見えた。

 『私たち新入生はこの青柳中学校で失敗を恐れず何事にも挑戦する心を忘れずに、仲間と共に学びあい、時に切磋琢磨しあい成長しながら、努力を重ねてこれから始まる学校生活を一日一日大切に過ごしていきます。
 これまで私たちを時に厳しく、時に温かく、導き支えてくれる保護者の皆様や全ての方々への感謝の気持ちも忘れず、先生方、上級生の皆様、ご来賓の方々、入学したばかりの未熟な私たちに温かく厳しいご指導をよろしくお願いいたします。
 令和×年4月6日 青柳中学校 新入生代表 弓木 明紗』