ただの趣味が一緒の知り合い。アドレス交換などしないが、ひと月に一度、同じ場所で必ず彼に会える。それだけで満足だった。
お互い好きな作曲家や他のコンサートの情報などを集めて来てその時に教え合ったりした。
* * *
それから数か月後のことだった。
今日はいちだんと冒険曲が多くて、きっと彼はひとりでくるだろうと思った。彼女がいなければ沢山話せるかもしれないと少し楽しみにしていた。
私は仕事が遅くなり、ホールへ入るのがギリギリになった。いつも通りの席に急いで座ると、横には眼鏡をかけた男性が座っていた。彼は眼鏡をしていないので違う人かと驚いたが、眼鏡を取って彼は会釈してくれた。
彼だった。安心した。予想通り、彼は一人で来ていた。
そのままコンサートが始まった。
前半が終わり、休憩時間になった。いつもなら挨拶くらいはするのに、その日、彼は何も言わずに私の座る方と反対の方向から出て行ってしまった。私もロビーへ行って急いで戻ってきたが、彼はまだ席に戻っていなかった。
彼に教えたいと思っていたコンサート情報などもあり、もう一度ロビーに彼を探しに行った。彼は壁を前にひとりでコーヒーを飲みながら何かメモしていたようだった。声をかけられない雰囲気があり、何も言わずに離れた。
先に席へ着いた私は、今日は話しかけないほうがいいのかもしれないと思った。なんとなく、彼の纏う雰囲気が違って見えたからだ。
すると、彼が急いで私の前を通って隣の席に着こうとした。かがんだ彼の胸元から携帯が落ちた。
「あの、落ちましたよ」
彼は私の方を見て、ぼんやりと手を伸ばした。
目の前に差し出すと、それを掴んで苦笑いをした。
お互い好きな作曲家や他のコンサートの情報などを集めて来てその時に教え合ったりした。
* * *
それから数か月後のことだった。
今日はいちだんと冒険曲が多くて、きっと彼はひとりでくるだろうと思った。彼女がいなければ沢山話せるかもしれないと少し楽しみにしていた。
私は仕事が遅くなり、ホールへ入るのがギリギリになった。いつも通りの席に急いで座ると、横には眼鏡をかけた男性が座っていた。彼は眼鏡をしていないので違う人かと驚いたが、眼鏡を取って彼は会釈してくれた。
彼だった。安心した。予想通り、彼は一人で来ていた。
そのままコンサートが始まった。
前半が終わり、休憩時間になった。いつもなら挨拶くらいはするのに、その日、彼は何も言わずに私の座る方と反対の方向から出て行ってしまった。私もロビーへ行って急いで戻ってきたが、彼はまだ席に戻っていなかった。
彼に教えたいと思っていたコンサート情報などもあり、もう一度ロビーに彼を探しに行った。彼は壁を前にひとりでコーヒーを飲みながら何かメモしていたようだった。声をかけられない雰囲気があり、何も言わずに離れた。
先に席へ着いた私は、今日は話しかけないほうがいいのかもしれないと思った。なんとなく、彼の纏う雰囲気が違って見えたからだ。
すると、彼が急いで私の前を通って隣の席に着こうとした。かがんだ彼の胸元から携帯が落ちた。
「あの、落ちましたよ」
彼は私の方を見て、ぼんやりと手を伸ばした。
目の前に差し出すと、それを掴んで苦笑いをした。
