その日、自分でも驚くようなセリフを口にした。
 
「終電、もう間に合いそうにありません。どうぞ、あなたの目で私の全てを確認してください」

 * * *

 学生時代に部活動で楽器をやっていた私はクラシックが好きだ。

 地元のコンサートホールで年間定期会員になっている。コンサートホールが主催する大きなクラシックコンサートは毎月一度金曜日の夜にある。私の月一の楽しみだ。

 年間予約しているので、毎月そのコンサートにひとりで行く。そして毎回同じ席に座る。つまり席を年間予約している。決まった席というのは案外いいものなのだ。

 ここは自分のスペースだと思うと、家に帰ってきたかのように正直ほっとするのだ。

 私はその席にいつもひとりで行く。誰かと一緒に行くとそわそわしてしまい、落ち着いて音楽に集中できない。

 でも実は……それは立て前のようなものだ。

 以前好きな人を誘ってクラシックコンサートに行った。コンサートに感動した私は終演後、つい興奮してクラシック愛を語りすぎたようだった。

 まあ、そう思ったのは、それ以降その人からぱたりとデートのお誘いがなくなったからだ。

 そうして、ふたりの関係は自然消滅した。

 好きな人に拒絶されたようでとても悲しかったけれど、時間が経つとそれでよかったんだと気づいた。

 自分をさらけ出していなかったのだから、相手と合うはずもない。

 側面しか見ていない恋愛なんて、先がないし、続くはずもない。ふられたことを悲しむより、こんな私を丸ごとそれでもいいという人を探さないといけないし、先に話しておかないといけないのだ。

 大体、大好きなコンサートに気を遣わねばならない人を連れてきた自分が間違っていたと猛省した。