テストの点数が悪かった日の帰り道とか、
満員電車に揺られてる時とか。
何か嫌なことがあったりした時。ふと考える。
明日世界が終わればいいのに。とか。
人類みんな滅亡すればいいのにと。
かと言って、人類みんな苦しめばいいとは思ってなくて。
どうせ滅亡するなら、一瞬で痛みも苦しみも感じるよりずっと早くのなにかがやってきて。終わって仕舞えばいいと思う。
◇
そう、思っていた。
高校生の時までは。
あれから10年経って、もう30歳目前。
「何日経っても慣れないんだけど……これ、本当に日本?」
「まぁ、一応。そうだと思うよ?」
2年前、隕石と地球がぶつかった。
何で私が生きてるのかは、よくわからない。
目が覚めて、いつものように仕事に行こうとドアを開けたらこんな酷い環境になっていた。
でも、あんなに建ってたコンクリートの建物はほとんど全部ぐしゃぐしゃになって。
治安は下の下。人はどんどん感染症やら食糧争いで死んでいって。
とりあえずここ一体には二人だけしかいなくなった。
朝起きたら、まずは周囲に危険がないか見回るのが私たちのルーティンになった。
それから、ガスが止まっているから、拾ってきた薪に火をつけて米を炊く。
贅沢なおかずなんてない。
薪で炊いた米と一緒に冷たい缶詰を二人で半分こする。
これが私たちの、今の「普通」だった。
「絢矢、私にも火頂戴」
「ん」
近づく絢矢の顔、いつもより近くにある彼の体温。
チリッと燃える音の後、彼がふぅっと吐き出した灰色の煙が、朝の冷たい空気に白く混ざり合っていく。それを見て、ため息をつく。
「生きてはいけるけど、昔が恋しいなぁ」
美味しくて栄養があるものいっぱい食べて、たくさん寝れて。あんなに嫌いだった夏も冬も、あの時代が一番良いものだったんだと気付く。
人もそうだ。あんなに嫌っていたのにこんなに減ってしまっては寂しさも感じる。
「でも俺はなんだかんだ、楽しいよ」
え、と声が出た。
こんなに荒れ果てて尚、楽しいなんて。物好きか、逆張りかと疑う私に絢矢は続ける。
「食べて寝て、煙草吸って、酒飲んで。堕落してるけど、まぁそこまでは悪くはないかなって」
「あー、なるほど、」
よくわからないと思ってる本音がバレて「絶対わかってないだろ」と苦笑される。
「こんな感じの世界観のMV見たことない? 荒れ果てた街の中で生活してくみたいなさ。……それに読めなかった本読んだり、ゆっくり過ごしたり。元々の世界じゃ時間が足りなかったから出来なかった事が今は出来て。俺はこの世界でいいかも」
絢矢はそう言って、やけに真新しい文庫本をパタパタと弄んだ。
そういえば前の世界じゃ、彼はいつもパソコンと睨めっこして、何かに追われるように生きていた気がする。
前の世界も悪くなかったけどね、今の世界も好きだよ。
そう言われて、なんとなく気付く。
どこに住んでても、いつ生きてても、その場に適応して楽しんで生きていける人が強いんだと。
◇
そんな夢を見た。
目を開けると、いつもの見慣れた景色がぼやけた視界に入ってくる。
窓の外からはあの世界にはなかったはずの鳥の鳴き声と、絢矢が消し忘れたテレビの音が聞こえてくる。
テレビを見ながら寝落ちした絢矢と、仕事の残りを片付けている途中で寝落ちした私。
なんだ、と安堵した。
世界はまだ、終わってない。
あんな未来だって、無いとは断言できない。
あの世界になったとしても、楽しめるように。
これからは心の中で文句を言いながらも、自分なりに一生懸命楽しんで生きていこうと思う。
美味しいものが好きなだけ食べれて、安心して寝れて。やりたい事を出来て、一緒にいたい人と共に生きられる。
この世の中、まだ捨てたものじゃないと今は思えるから。



