ララと会えなくなってから一ヵ月以上が経っていた。
でもまだララがやって来る気配は無かった。
無茶苦茶寂しい・・・
ああ・・・ララが足りない・・・ララを早くチャージしなくては・・・心が持たないぞ・・・
お供えの時に何度か女神様に尋ねてみたのだが、女神様は。
「まだやえ」
と答えるだけであった。
理由は答えてはくれなかった。
何かしらの理由があるのだろうが・・・
もう一ヵ月以上経ったってのに・・・うぅ・・・
こうなってくると逆に心配になってくるよ。
でも・・・ララもきっと頑張っているんだろう・・・ここは前向きに受け止めなくてはいけないな。
よし!俺も頑張ろう!
それにしても・・・ララをチャージしたいぞー!ララが足りない!
相変わらず温泉街『ララ』は人でごったがえしている。
全く・・・嫌になってくるよ。
どうにも人混みは苦手だ。
空気が薄く感じる・・・ああ・・・ララ・・・
さて、今日は気分を変えて、久しぶりに髪結い組合会館を覗きに行こうと思う。
最近はララの件があってからというもの、お店から全く離れられなかったからね。
今日のお店は弟子達にほとんど任せられる予約状況になっている。
実は予約に関しては、敢えて手を緩める日を儲けているのだ。
連日掛りっきりでは流石に疲れてしまうからね。
それに嬉しい事に、マリアンヌさんが遂に美容師免許を取得した。
今回に関しては前回のシルビアちゃんの時とは趣向を変えて、実技と筆記の試験をしっかりと行った。
筆記試験のテストは俺が口頭で伝えた物を、シルビアちゃんに執筆させた。
方法はこれ以外に考えつかなかった。
結果、マリアンヌさんは一発合格を果たした。
素晴らしい!
よくやった!
実技に関しても筆記に関しても合格ラインをしっかりと超えていたよ。
我が弟子の事ながら俺も嬉しい!
それに今回は美容師免許の授与も、国王直々にやってもらった。
国王も誇らしそうにしていたよ。
当のマリンヌさんは感動で無茶苦茶号泣していた。
ララの件で国王が居たからちょうど良かったよ。
たまには国王も役に立つな。
さあ、次はクリスタルちゃんの番だ。
当のクリスタルちゃんはフンスと力が漲っている。
良い傾向だ。
試験は一ヶ月後ですよ。
試験対策は先輩方と行ってくださいな。
久しぶりに髪結い組合会館に訪れた。
俺が来た所為か、会館内の空気感がピリッとする。
俺が来るとは思っていなかったのか、数名は驚いていたよ。
「ジョニー先生、こんにちは!」
「ジョニー先生、お疲れ様です!」
数名の髪結いさんが声を掛けてきた。
俺は手を挙げてそれに答える。
「お疲れさん、手を止めなくていいからね」
「はい!ありがとう御座います!」
シャンプーの練習場に行くと、そこには熱心にシャンプーの練習を行う髪結いさん達がいた。
随分と気合が入っている。
よしよし、頑張っているな。
すると俺を見つけたアイレクスさんが近寄ってきた。
この人も最近は髪結い組合会館に掛りっきりだ。
夜のバーの手伝いもあまりこれ無くなっている。
本業が忙しくなっているということだ。
本来はそうあるべきであるから、俺としては何も問題はない。
というか、そうあるべきである。
「ジョニー先生、ご無沙汰しております」
眼鏡をくいっと上げると、ドM眼鏡が話し掛けてきた。
「アイレクスさんお疲れ様です」
「最近はバーの手伝いに行けなくてすいません」
アイレクスさんは軽く会釈をしていた。
「いや、それは結構です。本業に集中してください。それでどうですか?進行具合は?」
「はい、数名はそろそろシャンプー台の購入をさせてもいいかもしれません」
「なるほど」
「どうでしょうか?」
そうなると先に進めないとね。
「次の段階に進みましょう、テストを行います」
頷くアイレクスさん。
「はい」
「来週に時間を儲けます、テストを受ける人を選考しておいてください」
「分かりました」
髪結いさん達も着々と前に進んでいるな。
よしよし、俺も次に進もうかな・・・
さて、腹を決めようか!ここまで来たならば、俺も行くとこまで行ってやろう!
やはり人でごったがえしてくると色々な出来事が起きる訳で、良い事よりも悪い事の方が目に付くのが現状だ。
簡単な話、犯罪が増えたのだ。
俺は毎日数名を落ち武者にしている。
バリカンが手放せないよ・・・理髪店じゃないっての・・・でも・・・何気に懲らしめてやるのは楽しい・・・フフフ・・・
とは言ってもほとんどが軽微な犯罪で、そのほとんどがスリや窃盗だ。
流石に殺人なんかは起きてはいない。
そうなってしまっては元もこうも無い。
ここまで国の重鎮達が揃っているのだから、こうなるのも何となく分かる気がする。
実際、窃盗やスリに会うのは不用心な高貴な人物が多く、貴族なんかは格好の的になっているみたいだ。
流石に王族に手を出す者はいないみたいだが・・・
王族に窃盗を働くと死罪らしい。
おー怖!てか立場で犯罪の重さを変えるなよ。
これは王政の弊害だな。
相手が誰であっても駄目でしょうが!
流石に死罪とまでは言わないが・・・
それに犯罪以外にも騒動が起きていて、たまに喧嘩をしている者を見かける。
しかしここは大体が警護の者に止められて、事なきを得ている。
喧嘩の原因は様々だ、やれ肩が当たっただとか、足を踏んだとか、視線が気に入らないとか・・・昭和のヤンキーかよ・・・
これだけ人で溢れていれば、そうなってしまうのだろう事は分からなくはない。
誰しもが苛立っている時もあるだろうし、どうにも攻撃的になる時だってあるだろう。
でもここは温泉街『ララ』だ、ララが顕現した今となっては、争いごとは避けたい処である。
誰しもがそう心掛ける様になっているらしい。
とても良い事だ。
俺としても鼻が高いよ。
争いごとが起きると警備兵が、
「フェアリーバード様が見ているぞ・・・」
こう呟くと、しまったという表情を浮かべて、争い事が自然と収まるらしい。
それにしても本当に色々な事が起こる。
先日はなんと美容院の予約を販売するという出来事が起こった。
正直驚いたよ、こんな事をするなんて想像を超えていたからね。
それは四ヶ月程前に入った予約で、オーダーはパーマカラー。
予約をした人は三十代の女性で、名前はフローラルさん。
常連では無く、一見さんだ。
そして予約の時間に現れたのは、違う女性だった。
なんと隣国の王女だったのである。
どうなっているのかと尋ねると。
「私の使用人が予約をしていて、それを買い取らせて貰いましてよ」
当然の事で、何か問題があるのか?という表情を浮かべていた王女。
悪びれた雰囲気は全くない。
「えっと・・・ちょっと待ってくださいね。それでその使用人さんは今どこに?」
「今は・・・」
外を振り返る王女。
「そこにいらしてよ」
「はあ・・・」
「いけなかったかしら?」
「褒められた事ではありまえせんね、ひとまず使用人の方をお呼びして貰ってもよろしいでしょうか?」
「構わなくてよ」
優雅な足取りで店先に控える使用人を呼びにいった王女。
そして二人して店内に入ってきた。
俺は使用人を見つめると、
「説明して貰えますか?」
当たり前の事と説明を求めた。
「では、私から説明致します」
特に構える事無く使用人の女性、フローラルさんが話し出した。
「私の名前で予約をしましたのは事実です、しかしフェアリーバード様の出現により、王女殿下様がこの街にお越しになりました」
「はい」
「以前から王女殿下はこの美容院『アンジェリ』で施術を受けたいと熱望しておいででした、しかしここは隣国の地、簡単に足を踏み入れることが出来る場所ではありません」
「なるほど」
「せっかくこの様な機会に恵まれたのです、お譲りして当然かと・・・本当は金銭など要らないと伝えましたが、それでは気が済まないとおっしゃっていましたので、買い取って頂いた次第です」
「事情は分かりました」
どうやらララに会わせろ的な面倒事では無く、この店の施術を受けたいということみたいだ。
逆に紛らわしいな・・・
それに表情を見る限り、王女もそんな雰囲気だ。
当の王女は眼を輝かせて店内を見渡している。
どうやら本当にこのお店で施術を受けたかったみたいだ。
これは困ったぞ・・・
ララに会わせろ的な輩であれば、追い出せばそれで済む。
でも・・・王女はそうでは無く、美容院『アンジェリ』に羨望の眼差しを向けている。
正直誇りに思えるよ、嬉しいとも感じる。
でもここでこれを認めてしまっては、予約が販売出来ると勘違いされてしまうだろう。
ちょっとした転売と変わらない。
そういったビジネスが生まれてしまう可能性が大だ。
そうなってしまっては不味い・・・
女王が純粋に施術を受けたいという事も理解出来た。
しかし・・・
「申し訳ありませんが、これを認める訳にはいかないです」
「そんな・・・」
絶望感に満ちた表情で、膝から崩れ落ちる女王。
「ここでこれを認めてしまっては、美容院での予約が販売できるという事になってしまいます」
「ですが・・・」
懇願する視線で俺を見つめる女王。
どうしても施術を受けたいのだろう。
「そこで、こうしましょう。女王様は使用人フローラルさんとして施術を受けてください。そして今回の件を一切他言しない事」
表情が変わり、今にも泣き出しそうな女王。
嬉し涙を流しそうだ。
「宜しいので?」
「約束が守れるのであればですけどね、因みに・・・分かってますよね?家にはフェアリーバードがいますからね!」
多少は脅しておかないとね。
眼を輝かせてウンウンと何度も頷く女王。
「さあ、早く使用人の格好に変装してきてください、いいですね?」
「「はいぃ!」」
王女とフローラルさんは笑顔でお店を飛び出していった。
ふう・・・困ったものだよ・・・全く。
でも前向きに受け止めれば美容院『アンジェリ』は、隣国の権威ある者達も憧れるお店になっているということだな。
そんなワールドワイドなお店になるとは・・・嬉しくはあるが・・・こうなってくると、もうスローラーフは無理だな・・・ハハハ・・・
そして弟子入り志願者が殺到した。
男女年齢関係無く、多数がお店に押し寄せた。
中には未成年の子もいたよ。
美容師に成りたい、美容院『アンジェリ』で働きたいと誰もが思いの丈をぶつけてきた。
中にはこのお店で働けばララに会えるのでは?と考える不届き者もいた。
そんな輩は遠慮なく追い出したけどね。
そういった輩は眼を見れば一目瞭然だ。
俺の眼は誤魔化せないぞ!
ふざけんな!
それにしても・・・ライルの奴・・・全然仕事してねえじゃねえか!
予約のお客さん以外通すなと厳命しただろうが!
あの野郎・・・締め上げてやろうか!
ライルとは伯爵が寄越した警備隊の隊長である。
俺からの評価は只のお調子者、なんでこいつが隊長なのかがさっぱりと分からない。
でも伯爵に言わせると、ライルはずば抜けて強いらしい。
警護職となると強さが評価のバロメーターとなるみたいだ。
そんな側面から隊長に任命されたらしい。
俺に言わせると、強くても仕事が出来なければ要職は任せてはいけないのだが、ここは他人の領域の為、文句は言えない。
独自に警備兵を雇おうかな?
こんなにスルーされると敵いませんがな。
困った事に弟子入り志願者は日に日に増していった。
中には一週間も通い詰める猛者もいた。
だからライル仕事しろよ!
スルーし過ぎだろうが!
こうなると競合を造ろう作戦も早々に第二段階に入らなければいけない。
さて、腹を括ろうか・・・
でもまだララがやって来る気配は無かった。
無茶苦茶寂しい・・・
ああ・・・ララが足りない・・・ララを早くチャージしなくては・・・心が持たないぞ・・・
お供えの時に何度か女神様に尋ねてみたのだが、女神様は。
「まだやえ」
と答えるだけであった。
理由は答えてはくれなかった。
何かしらの理由があるのだろうが・・・
もう一ヵ月以上経ったってのに・・・うぅ・・・
こうなってくると逆に心配になってくるよ。
でも・・・ララもきっと頑張っているんだろう・・・ここは前向きに受け止めなくてはいけないな。
よし!俺も頑張ろう!
それにしても・・・ララをチャージしたいぞー!ララが足りない!
相変わらず温泉街『ララ』は人でごったがえしている。
全く・・・嫌になってくるよ。
どうにも人混みは苦手だ。
空気が薄く感じる・・・ああ・・・ララ・・・
さて、今日は気分を変えて、久しぶりに髪結い組合会館を覗きに行こうと思う。
最近はララの件があってからというもの、お店から全く離れられなかったからね。
今日のお店は弟子達にほとんど任せられる予約状況になっている。
実は予約に関しては、敢えて手を緩める日を儲けているのだ。
連日掛りっきりでは流石に疲れてしまうからね。
それに嬉しい事に、マリアンヌさんが遂に美容師免許を取得した。
今回に関しては前回のシルビアちゃんの時とは趣向を変えて、実技と筆記の試験をしっかりと行った。
筆記試験のテストは俺が口頭で伝えた物を、シルビアちゃんに執筆させた。
方法はこれ以外に考えつかなかった。
結果、マリアンヌさんは一発合格を果たした。
素晴らしい!
よくやった!
実技に関しても筆記に関しても合格ラインをしっかりと超えていたよ。
我が弟子の事ながら俺も嬉しい!
それに今回は美容師免許の授与も、国王直々にやってもらった。
国王も誇らしそうにしていたよ。
当のマリンヌさんは感動で無茶苦茶号泣していた。
ララの件で国王が居たからちょうど良かったよ。
たまには国王も役に立つな。
さあ、次はクリスタルちゃんの番だ。
当のクリスタルちゃんはフンスと力が漲っている。
良い傾向だ。
試験は一ヶ月後ですよ。
試験対策は先輩方と行ってくださいな。
久しぶりに髪結い組合会館に訪れた。
俺が来た所為か、会館内の空気感がピリッとする。
俺が来るとは思っていなかったのか、数名は驚いていたよ。
「ジョニー先生、こんにちは!」
「ジョニー先生、お疲れ様です!」
数名の髪結いさんが声を掛けてきた。
俺は手を挙げてそれに答える。
「お疲れさん、手を止めなくていいからね」
「はい!ありがとう御座います!」
シャンプーの練習場に行くと、そこには熱心にシャンプーの練習を行う髪結いさん達がいた。
随分と気合が入っている。
よしよし、頑張っているな。
すると俺を見つけたアイレクスさんが近寄ってきた。
この人も最近は髪結い組合会館に掛りっきりだ。
夜のバーの手伝いもあまりこれ無くなっている。
本業が忙しくなっているということだ。
本来はそうあるべきであるから、俺としては何も問題はない。
というか、そうあるべきである。
「ジョニー先生、ご無沙汰しております」
眼鏡をくいっと上げると、ドM眼鏡が話し掛けてきた。
「アイレクスさんお疲れ様です」
「最近はバーの手伝いに行けなくてすいません」
アイレクスさんは軽く会釈をしていた。
「いや、それは結構です。本業に集中してください。それでどうですか?進行具合は?」
「はい、数名はそろそろシャンプー台の購入をさせてもいいかもしれません」
「なるほど」
「どうでしょうか?」
そうなると先に進めないとね。
「次の段階に進みましょう、テストを行います」
頷くアイレクスさん。
「はい」
「来週に時間を儲けます、テストを受ける人を選考しておいてください」
「分かりました」
髪結いさん達も着々と前に進んでいるな。
よしよし、俺も次に進もうかな・・・
さて、腹を決めようか!ここまで来たならば、俺も行くとこまで行ってやろう!
やはり人でごったがえしてくると色々な出来事が起きる訳で、良い事よりも悪い事の方が目に付くのが現状だ。
簡単な話、犯罪が増えたのだ。
俺は毎日数名を落ち武者にしている。
バリカンが手放せないよ・・・理髪店じゃないっての・・・でも・・・何気に懲らしめてやるのは楽しい・・・フフフ・・・
とは言ってもほとんどが軽微な犯罪で、そのほとんどがスリや窃盗だ。
流石に殺人なんかは起きてはいない。
そうなってしまっては元もこうも無い。
ここまで国の重鎮達が揃っているのだから、こうなるのも何となく分かる気がする。
実際、窃盗やスリに会うのは不用心な高貴な人物が多く、貴族なんかは格好の的になっているみたいだ。
流石に王族に手を出す者はいないみたいだが・・・
王族に窃盗を働くと死罪らしい。
おー怖!てか立場で犯罪の重さを変えるなよ。
これは王政の弊害だな。
相手が誰であっても駄目でしょうが!
流石に死罪とまでは言わないが・・・
それに犯罪以外にも騒動が起きていて、たまに喧嘩をしている者を見かける。
しかしここは大体が警護の者に止められて、事なきを得ている。
喧嘩の原因は様々だ、やれ肩が当たっただとか、足を踏んだとか、視線が気に入らないとか・・・昭和のヤンキーかよ・・・
これだけ人で溢れていれば、そうなってしまうのだろう事は分からなくはない。
誰しもが苛立っている時もあるだろうし、どうにも攻撃的になる時だってあるだろう。
でもここは温泉街『ララ』だ、ララが顕現した今となっては、争いごとは避けたい処である。
誰しもがそう心掛ける様になっているらしい。
とても良い事だ。
俺としても鼻が高いよ。
争いごとが起きると警備兵が、
「フェアリーバード様が見ているぞ・・・」
こう呟くと、しまったという表情を浮かべて、争い事が自然と収まるらしい。
それにしても本当に色々な事が起こる。
先日はなんと美容院の予約を販売するという出来事が起こった。
正直驚いたよ、こんな事をするなんて想像を超えていたからね。
それは四ヶ月程前に入った予約で、オーダーはパーマカラー。
予約をした人は三十代の女性で、名前はフローラルさん。
常連では無く、一見さんだ。
そして予約の時間に現れたのは、違う女性だった。
なんと隣国の王女だったのである。
どうなっているのかと尋ねると。
「私の使用人が予約をしていて、それを買い取らせて貰いましてよ」
当然の事で、何か問題があるのか?という表情を浮かべていた王女。
悪びれた雰囲気は全くない。
「えっと・・・ちょっと待ってくださいね。それでその使用人さんは今どこに?」
「今は・・・」
外を振り返る王女。
「そこにいらしてよ」
「はあ・・・」
「いけなかったかしら?」
「褒められた事ではありまえせんね、ひとまず使用人の方をお呼びして貰ってもよろしいでしょうか?」
「構わなくてよ」
優雅な足取りで店先に控える使用人を呼びにいった王女。
そして二人して店内に入ってきた。
俺は使用人を見つめると、
「説明して貰えますか?」
当たり前の事と説明を求めた。
「では、私から説明致します」
特に構える事無く使用人の女性、フローラルさんが話し出した。
「私の名前で予約をしましたのは事実です、しかしフェアリーバード様の出現により、王女殿下様がこの街にお越しになりました」
「はい」
「以前から王女殿下はこの美容院『アンジェリ』で施術を受けたいと熱望しておいででした、しかしここは隣国の地、簡単に足を踏み入れることが出来る場所ではありません」
「なるほど」
「せっかくこの様な機会に恵まれたのです、お譲りして当然かと・・・本当は金銭など要らないと伝えましたが、それでは気が済まないとおっしゃっていましたので、買い取って頂いた次第です」
「事情は分かりました」
どうやらララに会わせろ的な面倒事では無く、この店の施術を受けたいということみたいだ。
逆に紛らわしいな・・・
それに表情を見る限り、王女もそんな雰囲気だ。
当の王女は眼を輝かせて店内を見渡している。
どうやら本当にこのお店で施術を受けたかったみたいだ。
これは困ったぞ・・・
ララに会わせろ的な輩であれば、追い出せばそれで済む。
でも・・・王女はそうでは無く、美容院『アンジェリ』に羨望の眼差しを向けている。
正直誇りに思えるよ、嬉しいとも感じる。
でもここでこれを認めてしまっては、予約が販売出来ると勘違いされてしまうだろう。
ちょっとした転売と変わらない。
そういったビジネスが生まれてしまう可能性が大だ。
そうなってしまっては不味い・・・
女王が純粋に施術を受けたいという事も理解出来た。
しかし・・・
「申し訳ありませんが、これを認める訳にはいかないです」
「そんな・・・」
絶望感に満ちた表情で、膝から崩れ落ちる女王。
「ここでこれを認めてしまっては、美容院での予約が販売できるという事になってしまいます」
「ですが・・・」
懇願する視線で俺を見つめる女王。
どうしても施術を受けたいのだろう。
「そこで、こうしましょう。女王様は使用人フローラルさんとして施術を受けてください。そして今回の件を一切他言しない事」
表情が変わり、今にも泣き出しそうな女王。
嬉し涙を流しそうだ。
「宜しいので?」
「約束が守れるのであればですけどね、因みに・・・分かってますよね?家にはフェアリーバードがいますからね!」
多少は脅しておかないとね。
眼を輝かせてウンウンと何度も頷く女王。
「さあ、早く使用人の格好に変装してきてください、いいですね?」
「「はいぃ!」」
王女とフローラルさんは笑顔でお店を飛び出していった。
ふう・・・困ったものだよ・・・全く。
でも前向きに受け止めれば美容院『アンジェリ』は、隣国の権威ある者達も憧れるお店になっているということだな。
そんなワールドワイドなお店になるとは・・・嬉しくはあるが・・・こうなってくると、もうスローラーフは無理だな・・・ハハハ・・・
そして弟子入り志願者が殺到した。
男女年齢関係無く、多数がお店に押し寄せた。
中には未成年の子もいたよ。
美容師に成りたい、美容院『アンジェリ』で働きたいと誰もが思いの丈をぶつけてきた。
中にはこのお店で働けばララに会えるのでは?と考える不届き者もいた。
そんな輩は遠慮なく追い出したけどね。
そういった輩は眼を見れば一目瞭然だ。
俺の眼は誤魔化せないぞ!
ふざけんな!
それにしても・・・ライルの奴・・・全然仕事してねえじゃねえか!
予約のお客さん以外通すなと厳命しただろうが!
あの野郎・・・締め上げてやろうか!
ライルとは伯爵が寄越した警備隊の隊長である。
俺からの評価は只のお調子者、なんでこいつが隊長なのかがさっぱりと分からない。
でも伯爵に言わせると、ライルはずば抜けて強いらしい。
警護職となると強さが評価のバロメーターとなるみたいだ。
そんな側面から隊長に任命されたらしい。
俺に言わせると、強くても仕事が出来なければ要職は任せてはいけないのだが、ここは他人の領域の為、文句は言えない。
独自に警備兵を雇おうかな?
こんなにスルーされると敵いませんがな。
困った事に弟子入り志願者は日に日に増していった。
中には一週間も通い詰める猛者もいた。
だからライル仕事しろよ!
スルーし過ぎだろうが!
こうなると競合を造ろう作戦も早々に第二段階に入らなければいけない。
さて、腹を括ろうか・・・

