その時は突然訪れた。
あれは俺が高校生、美幸が中学生の時だった。
いつもの如く俺達について来ようとするララを親父が咎めて、ララは家に居る事になったかと思ったが、そうは成らなかった。
その時の出来事を俺は今でも、鮮明にありありと覚えている。
思い出したくなんてないのに・・・
高校には俺がバス通学であった為に、俺はバス停で市バスを待っており、美幸はその見送りで一緒に市バス待っていた。
見送りなんてしなくてもいいと、何度も美幸には言ったのだが、通り道だからと毎回バス停で二人して時間を潰すことになっていた。
毎朝の恒例の行事だ。
いつも通りバス停にバスが止まるかと思いきや、この時は様子が違った。
後々知ったのだが、市バスの運転手は脳梗塞を発症し、意識の無い状態でバスを運転していたらしい。
その市バスが、バス停に速度を緩める事無く突っ込んできたのだ。
一切ブレーキを踏むことなく、真っすぐに俺と美幸に向かって来た市バス。
急な出来事に何も出来ずに固まっていた俺達。
其処に俺達を跳ね除けて飛び込んできたララ。
俺と美幸はララの体当たりで吹き飛ばされていた。
そのお陰で俺達は市バスの突撃を受ける事はなかったが、ララは・・・俺達の身代わりとなってしまったのだった。
市バスの突撃を一身に受け、その命を散らすことになってしまったララ。
俺達はララが飛び込んでこなければ、おそらくは死んでしまっていたことだろう。
それぐらい衝撃が凄かった。
吹き飛ばされたララは、五メートル以上は吹き飛ばされていた。
ララに助けられた事に驚きを覚えると共に、あっさりとララが逝ってしまった現実に心が付いていけなかった。
どうすればいいのかも分からず、俺は茫然としてしまっていた。
心と身体がフリーズしてしまっていたのだった。
ララの片隅で泣きじゃくる美幸を見て俺は我を取り戻したが、119番通報した後に、猛ダッシュで家に帰り、驚く親父を車に押し込んでバス停に向かった。
バス停に着くと、そこには壁に衝突した市バスがあり、バスに乗っていた乗客達どうしていいか分からずに、ウロウロとしていた事を覚えている。
誰かが通報してくれたんだろう、遠くにパトカーのサイレンの音がしたよ。
ララは息をしておらず、隣で泣き続ける美幸、ララの遺体を俺は両手に抱えて、親父の車に乗り込み、動物病院に向かった。
本当は実況見分等の当事者としての責務があったのだろうが、そんな事にはかまっていられない。
もうララは息を引き取っている事は分かってはいたが、諦めきれなかったからだ。
状況を聞き終え、ララを触診した動物病院の先生からは。
「君達の命の恩人だ、手厚く葬ってくれよ」
やり切れない一言を言われてしまった。
その一言が俺の心を締めつけた。
そして俺は誓ったのだ、もうペットは飼わないと・・・
こんな悲しい別れは、もう二度としたくない。
また、愛する者が逝ってしまった・・・
ララ・・・ありがとう・・・助けてくれて・・・でも・・・寂しいよ・・・ララ・・・会いたいよ・・・もう・・・会えないんだな・・・
分かりづらい部分は都合よく話をすり替えて、俺は参加者達にララとの事を語った。
全員が真剣に話を聴いていたよ。
あのライゼルも相槌を打つだけで、黙って話を聴いていた。
そして数名は泣いていた・・・
「そのララがフェアリーバードに転生して、俺とライゼルの前に現れたってことだ」
転生という部分が引っかかるのか、数名は首を傾げている。
「転生?・・・」
「そうですか・・・」
「生まれ変わったってことかしら?」
それを無視して俺は話を進めた。
「ララがそう言っていたから間違いはない」
「そうですか・・・」
「ここで嘘は無いよな」
「それにしても・・・」
「俺に分かる事はこれぐらいだ、後は・・・そうだな、ララが言うにはまだ魂と身体が馴染んでないから、長居は出来ないという話だ」
伯爵がぐいっと前に出てきた。
「ジョニー店長、一生のお願いだ!フェアリーバード様に会わせてくれないか!」
ほうらきた!そう来ると思ってたんだよね!
そうはいきません、たとえ伯爵でもねえ!
ララとの再会は俺にとっては崇高な出来事なんだ、誰にも邪魔はさせませんよ。
俺との時間が最優先なんですよ!
ここは譲りませんからね!
「伯爵・・・それは相手のある事ですので、聞いてはみますが・・・期待はしないで下さい・・・」
「なっ!・・・そうか・・・そうであるな・・・いやすまぬ・・・」
「でもライゼルさんは会ったんですよね?いいなー」
シルビアちゃんが羨ましそうにしている。
「フフ、羨ましいだろう・・・俺はフェアリーバード様と話もしたしな!」
「ええーー!いいなー!」
偉そうに胸を張るライゼル。
この後はライゼルがララの見た目や威厳について語り出した。
ふう・・・やっと飯にありつけそうだよ。
ああ・・・ララ・・・早く会いたいよ。
ララが現れる日は、朝起きた時に毎回予感があった。
朝起きたら嬉しい一報があるなんて最高だな。
朝からブチ上がるよ。
天界から見ていたのか、ララは俺がお供えをする時に着付け室の中に転移してきた。
有難い気遣いだ。
女神様にお願いしておいて正解だったな。
因みに今日のお供えはイチゴのホールケーキである。
やっぱり甘味は最強だね。
(イヤッホィーーー!!!)
女神様は、それはそれは喜んでいたよ。
始めの時みたいに店先だったら大騒ぎになる。
今は常に誰かしらが居るからね。
警護は二十四時間体制だ。
全く、いい加減にして欲しいよ。
でもまあ、伝説の聖獣が現れたんだからそうなるわな。
日本でいう処の、ある日突然ファニックスが現れたみたいな?
そんな感じなんだろうね。
俺にとっては最愛のララでしかないけれど。
嬉しい事に滞在時間も徐々に伸びていた。
五回目ともなると、三十分に伸びていたよ。
ララも魂を身体に馴染ませようと頑張っているみたいだ。
そのほとんどの時間を、頬をスリスリしたり、ハグをして過ごしていた。
俺はララを、ララは俺を満喫していた。
良いじゃないか、本人達がそうしたいんだからさ。
そしてララからこんなリクエストがあった。
(ジョ兄!犬飯が食べたい!)
(えっ!犬飯?ララは穀物が食べられるのか?)
(うん・・・たぶん・・・)
(よっしゃ!準備しておくよ!)
(やったーーー!!!あれ大好物なんだー!)
(そうだったな、ハハハ!)
犬飯とはなにかと言うと、味噌汁ご飯である。
常温の味噌汁に常温のご飯を混ぜた物だ。
今では行儀の悪い食べ物である、でもあの当時は普通に食していた。
本当は塩分が高いから犬には良くはないのだろうけど・・・
ララはドッグフードなんて食べなかったからな。
というより、当時はドッグフードはそれなりに高価な物だったような気がする。
ララは賢いから食べてはいけない物は食べないだろうと、適当に食事の残り物なんかを出していたな。
実際揚げ物なんかは食べなかったし・・・
随分と適当だった・・・まあ家の親父なんてそんなもんだろう・・・
そして俺はリクエストに応えて犬飯を用意した。
ララに差し出すと、がっつく様に食べだしたララ。
おおー!それなりに早食いだ。
ちゃんと噛んでるのか?
(美味しいよ!ジョ兄!美味しい!!!)
口の周りに飛沫を飛ばしながらガツガツと食べていた。
あらまあ、御行儀の悪い事・・・でもいいや、ララだし。
(他に食べたい物は無いのか?)
無我夢中で食べているララ、これは・・・耳に届いてないな・・・
そんなに食べたかったんだ・・・
よし!お替りを準備しよ。
なぜか嬉しい・・・
ひっそりとそのミーティングは行われていた。
場所は社員寮の一角。
そこにはジョニーの姿は無かった。
それもその筈で、このミーティングはジョニーには内緒なのである。
参加者はジョニーの弟子の三人とライジングサン一行である。
ミーティングのお題はいかにしてフェアリーバードに会うかである。
全員が本気でフェアリーバードに会いたがっていた。
全員がジョニーに会わせて欲しいと全力でお願いしていたが。
「駄目だ!ララは今は俺にしか会わない!」
そう言ってはララを独占していた。
ライゼルにとってはこれが許せなかった。
ライゼルは他の者達と違って、一度ララと出会っている。
であるからこそ、その想いは募るばかりなのである。
だが、他の者達も負けてはいない。
相手はあの伝説の聖獣なのだ。
その存在はお伽噺でしかない。
しかし実際に顕現したのである。
そんな存在が手に届く位置にいるのだ。
会いたいに決まっている。
ライゼルは全体を見渡すと話し出した。
「分かっているとは思うが、ララ様はジョニーに独占されている・・・」
「独占って・・・でもそれはしょうがねえだろ?ジョニーとの深い絆はお前も聞いただろう?」
リックからのツッコミが入る。
「そうだ・・・だが、俺も会いたいんだよ。だって言葉を交わしたんだ、俺の頭に直接話し掛けてくれたんだよ!ララ様が!」
首を振るリック。
「気持ちは分かるが、そもそもフェアリーバード様が今は駄目だと仰ってるんだ、無理を言うな!」
これを斜に構えるライゼル。
「それだがな・・・俺は怪しいと思っている・・・」
「ん?どういうことですか?」
シルビアからの質問だ。
「ジョニーの嘘だと俺は睨んでいる・・・」
「ええー、それは無いでしょう?」
シルビアは横目でライゼルを見ていた。
「いや・・・あいつは手段を選ばない奴だ。本当にララ様が俺達に会いたくないとは思えない・・・」
「ちょっと待て!そうは言ってないだろう?会いたくないなんて言ってないだろう?それに何なんだその自信は?会って貰って当然とでも言うのかお前は?」
「そうですよ!ジョニー店長は、今は駄目だと言ってただけですよ?」
シルビアが追随する。
思わぬ反撃にシュンとなるライゼル。
「うう・・・まあな・・・」
「まあなじゃねえ!」
本気で咎めるリック。
「でも気持ちは分からなくは無いわよ」
今度はメイランがライゼルを擁護する。
「だろ?」
援護射撃があり、一瞬にして復活するライゼル。
「私もフェアリーバード様に会いたいわ、でも、もし仮に嘘だとしても、相手はあのジョニーよ?籠絡出来る相手じゃないわよ、あんたにジョニーを籠絡出来るっての?無理でしょうが・・・」
「確かに・・・」
顎に手を置くライゼル。
「でもねえ、ジョニーのことだからタイミングが来たらちゃんと会わせてくれるわよ、間違い無いわ」
メイランはジョニーに信頼を寄せているみたいだ。
「だといいが・・・」
ここで徐にクリスタルが手を挙げた。
それを見たライゼルが顎を引く。
「私・・・聞いちゃったんです・・・」
眉を顰めるライゼル。
「何をだい?クリスタルちゃん・・・」
「それは・・・あの開かずの部屋から声がしたんです」
「!!!・・・あの部屋か?・・・」
一同に戦慄が走る。
ライゼルは手を挙げて、驚きを隠そうともしなかった。
あの部屋とはいったい・・・
「はい・・・楽しそうに話すジョニー店長の声を聞きました・・・ララって・・・」
「まじか・・・」
「やっぱりか・・・」
「あの部屋は・・・」
一際モリゾーが血相を変えていた。
「ライゼル、あの部屋はヤバいだで!いけねえだで!」
ワナワナと震えるモリゾー。
分かっていると頷くライゼル。
「私・・・前に聞いたことがあるんです・・・」
今度はマリアンヌがぼそぼそと話し出した。
「何をだい?マリアンヌさん・・・」
全員が身構えている。
「この部屋は何の部屋なのかと・・・」
参加者全員が驚いていた。
「凄い・・・よく聞けたな・・・」
「勇気があるなあ・・・」
「私には無理です・・・」
全員が聞く事すらも憚られていたみたいだ。
それぐらいあの部屋は恐れられていた。
そうあの部屋とは着付け室である。
ジョニーが誰も立ち入らせないとした部屋である。
その理由は真面に語られてはいない。
しかし・・・
「ジョニー店長は仰ったんです・・・」
「何を?」
「・・・」
ごくりと唾を飲む音がした。
全員が次の言葉を待っていた。
「あの部屋には・・・人ならざる者がいると・・・」
引いている者、顔を引き攣らせている者が大半だった。
「なっ!」
「人ならざる者?」
「それはいったい・・・」
「分かりません・・・ただ・・・」
「ただ?・・・」
「ジョニー店長は入室を許可されているからいいんですが、そうでない者があの部屋に入ると・・・」
誰かが唾を飲み込む音がした。
「私が思うに・・・呪われるかもしれません・・・」
「嘘だろ?」
「あり得ねえ・・・」
「マジかよ・・・」
全員が絶句していた。
「確かにあの部屋からは異様な存在を感じるしな・・・」
「でも、そもそもあの部屋は鍵で硬く閉ざされてて、入れませんよ」
「いや、実は入る方法はあるんだ・・・」
「えっ!どういうことですか?」
ライゼルが全員を一睨みする。
「ジョニーは毎朝必ずあの部屋に入るんだ、そこを狙う事は可能だと俺は思う・・・」
「・・・不味く無いか?それは?」
「だが、あの一瞬がチャンスなのは間違いないんだ」
「でもなあ・・・俺は呪われなくないぜ」
「私も・・・」
「いや・・・呪われると私が思っているのであって・・・確信はありませんよ・・・」
「だろ?」
何故か自慢げな顔のライゼル。
「だろ?じゃねえ!」
「確か、その人ならざる者の名は・・・ハナコサン・・・」
全員が集中していた。
「ハナコ・・・サン?」
「不思議な名だな」
「そうですね・・・」
こうして不毛なミーティーングは終わりを告げた。
不毛なミーティングの影で、世界は大きく動き出していた。
世界は聖獣フェアリーバードの出現にて、大きく舵を切り出したのだった。
世界は大きな変換点を迎えていた。
誰もこの世界の今後を見通す事等出来なかった。
あれは俺が高校生、美幸が中学生の時だった。
いつもの如く俺達について来ようとするララを親父が咎めて、ララは家に居る事になったかと思ったが、そうは成らなかった。
その時の出来事を俺は今でも、鮮明にありありと覚えている。
思い出したくなんてないのに・・・
高校には俺がバス通学であった為に、俺はバス停で市バスを待っており、美幸はその見送りで一緒に市バス待っていた。
見送りなんてしなくてもいいと、何度も美幸には言ったのだが、通り道だからと毎回バス停で二人して時間を潰すことになっていた。
毎朝の恒例の行事だ。
いつも通りバス停にバスが止まるかと思いきや、この時は様子が違った。
後々知ったのだが、市バスの運転手は脳梗塞を発症し、意識の無い状態でバスを運転していたらしい。
その市バスが、バス停に速度を緩める事無く突っ込んできたのだ。
一切ブレーキを踏むことなく、真っすぐに俺と美幸に向かって来た市バス。
急な出来事に何も出来ずに固まっていた俺達。
其処に俺達を跳ね除けて飛び込んできたララ。
俺と美幸はララの体当たりで吹き飛ばされていた。
そのお陰で俺達は市バスの突撃を受ける事はなかったが、ララは・・・俺達の身代わりとなってしまったのだった。
市バスの突撃を一身に受け、その命を散らすことになってしまったララ。
俺達はララが飛び込んでこなければ、おそらくは死んでしまっていたことだろう。
それぐらい衝撃が凄かった。
吹き飛ばされたララは、五メートル以上は吹き飛ばされていた。
ララに助けられた事に驚きを覚えると共に、あっさりとララが逝ってしまった現実に心が付いていけなかった。
どうすればいいのかも分からず、俺は茫然としてしまっていた。
心と身体がフリーズしてしまっていたのだった。
ララの片隅で泣きじゃくる美幸を見て俺は我を取り戻したが、119番通報した後に、猛ダッシュで家に帰り、驚く親父を車に押し込んでバス停に向かった。
バス停に着くと、そこには壁に衝突した市バスがあり、バスに乗っていた乗客達どうしていいか分からずに、ウロウロとしていた事を覚えている。
誰かが通報してくれたんだろう、遠くにパトカーのサイレンの音がしたよ。
ララは息をしておらず、隣で泣き続ける美幸、ララの遺体を俺は両手に抱えて、親父の車に乗り込み、動物病院に向かった。
本当は実況見分等の当事者としての責務があったのだろうが、そんな事にはかまっていられない。
もうララは息を引き取っている事は分かってはいたが、諦めきれなかったからだ。
状況を聞き終え、ララを触診した動物病院の先生からは。
「君達の命の恩人だ、手厚く葬ってくれよ」
やり切れない一言を言われてしまった。
その一言が俺の心を締めつけた。
そして俺は誓ったのだ、もうペットは飼わないと・・・
こんな悲しい別れは、もう二度としたくない。
また、愛する者が逝ってしまった・・・
ララ・・・ありがとう・・・助けてくれて・・・でも・・・寂しいよ・・・ララ・・・会いたいよ・・・もう・・・会えないんだな・・・
分かりづらい部分は都合よく話をすり替えて、俺は参加者達にララとの事を語った。
全員が真剣に話を聴いていたよ。
あのライゼルも相槌を打つだけで、黙って話を聴いていた。
そして数名は泣いていた・・・
「そのララがフェアリーバードに転生して、俺とライゼルの前に現れたってことだ」
転生という部分が引っかかるのか、数名は首を傾げている。
「転生?・・・」
「そうですか・・・」
「生まれ変わったってことかしら?」
それを無視して俺は話を進めた。
「ララがそう言っていたから間違いはない」
「そうですか・・・」
「ここで嘘は無いよな」
「それにしても・・・」
「俺に分かる事はこれぐらいだ、後は・・・そうだな、ララが言うにはまだ魂と身体が馴染んでないから、長居は出来ないという話だ」
伯爵がぐいっと前に出てきた。
「ジョニー店長、一生のお願いだ!フェアリーバード様に会わせてくれないか!」
ほうらきた!そう来ると思ってたんだよね!
そうはいきません、たとえ伯爵でもねえ!
ララとの再会は俺にとっては崇高な出来事なんだ、誰にも邪魔はさせませんよ。
俺との時間が最優先なんですよ!
ここは譲りませんからね!
「伯爵・・・それは相手のある事ですので、聞いてはみますが・・・期待はしないで下さい・・・」
「なっ!・・・そうか・・・そうであるな・・・いやすまぬ・・・」
「でもライゼルさんは会ったんですよね?いいなー」
シルビアちゃんが羨ましそうにしている。
「フフ、羨ましいだろう・・・俺はフェアリーバード様と話もしたしな!」
「ええーー!いいなー!」
偉そうに胸を張るライゼル。
この後はライゼルがララの見た目や威厳について語り出した。
ふう・・・やっと飯にありつけそうだよ。
ああ・・・ララ・・・早く会いたいよ。
ララが現れる日は、朝起きた時に毎回予感があった。
朝起きたら嬉しい一報があるなんて最高だな。
朝からブチ上がるよ。
天界から見ていたのか、ララは俺がお供えをする時に着付け室の中に転移してきた。
有難い気遣いだ。
女神様にお願いしておいて正解だったな。
因みに今日のお供えはイチゴのホールケーキである。
やっぱり甘味は最強だね。
(イヤッホィーーー!!!)
女神様は、それはそれは喜んでいたよ。
始めの時みたいに店先だったら大騒ぎになる。
今は常に誰かしらが居るからね。
警護は二十四時間体制だ。
全く、いい加減にして欲しいよ。
でもまあ、伝説の聖獣が現れたんだからそうなるわな。
日本でいう処の、ある日突然ファニックスが現れたみたいな?
そんな感じなんだろうね。
俺にとっては最愛のララでしかないけれど。
嬉しい事に滞在時間も徐々に伸びていた。
五回目ともなると、三十分に伸びていたよ。
ララも魂を身体に馴染ませようと頑張っているみたいだ。
そのほとんどの時間を、頬をスリスリしたり、ハグをして過ごしていた。
俺はララを、ララは俺を満喫していた。
良いじゃないか、本人達がそうしたいんだからさ。
そしてララからこんなリクエストがあった。
(ジョ兄!犬飯が食べたい!)
(えっ!犬飯?ララは穀物が食べられるのか?)
(うん・・・たぶん・・・)
(よっしゃ!準備しておくよ!)
(やったーーー!!!あれ大好物なんだー!)
(そうだったな、ハハハ!)
犬飯とはなにかと言うと、味噌汁ご飯である。
常温の味噌汁に常温のご飯を混ぜた物だ。
今では行儀の悪い食べ物である、でもあの当時は普通に食していた。
本当は塩分が高いから犬には良くはないのだろうけど・・・
ララはドッグフードなんて食べなかったからな。
というより、当時はドッグフードはそれなりに高価な物だったような気がする。
ララは賢いから食べてはいけない物は食べないだろうと、適当に食事の残り物なんかを出していたな。
実際揚げ物なんかは食べなかったし・・・
随分と適当だった・・・まあ家の親父なんてそんなもんだろう・・・
そして俺はリクエストに応えて犬飯を用意した。
ララに差し出すと、がっつく様に食べだしたララ。
おおー!それなりに早食いだ。
ちゃんと噛んでるのか?
(美味しいよ!ジョ兄!美味しい!!!)
口の周りに飛沫を飛ばしながらガツガツと食べていた。
あらまあ、御行儀の悪い事・・・でもいいや、ララだし。
(他に食べたい物は無いのか?)
無我夢中で食べているララ、これは・・・耳に届いてないな・・・
そんなに食べたかったんだ・・・
よし!お替りを準備しよ。
なぜか嬉しい・・・
ひっそりとそのミーティングは行われていた。
場所は社員寮の一角。
そこにはジョニーの姿は無かった。
それもその筈で、このミーティングはジョニーには内緒なのである。
参加者はジョニーの弟子の三人とライジングサン一行である。
ミーティングのお題はいかにしてフェアリーバードに会うかである。
全員が本気でフェアリーバードに会いたがっていた。
全員がジョニーに会わせて欲しいと全力でお願いしていたが。
「駄目だ!ララは今は俺にしか会わない!」
そう言ってはララを独占していた。
ライゼルにとってはこれが許せなかった。
ライゼルは他の者達と違って、一度ララと出会っている。
であるからこそ、その想いは募るばかりなのである。
だが、他の者達も負けてはいない。
相手はあの伝説の聖獣なのだ。
その存在はお伽噺でしかない。
しかし実際に顕現したのである。
そんな存在が手に届く位置にいるのだ。
会いたいに決まっている。
ライゼルは全体を見渡すと話し出した。
「分かっているとは思うが、ララ様はジョニーに独占されている・・・」
「独占って・・・でもそれはしょうがねえだろ?ジョニーとの深い絆はお前も聞いただろう?」
リックからのツッコミが入る。
「そうだ・・・だが、俺も会いたいんだよ。だって言葉を交わしたんだ、俺の頭に直接話し掛けてくれたんだよ!ララ様が!」
首を振るリック。
「気持ちは分かるが、そもそもフェアリーバード様が今は駄目だと仰ってるんだ、無理を言うな!」
これを斜に構えるライゼル。
「それだがな・・・俺は怪しいと思っている・・・」
「ん?どういうことですか?」
シルビアからの質問だ。
「ジョニーの嘘だと俺は睨んでいる・・・」
「ええー、それは無いでしょう?」
シルビアは横目でライゼルを見ていた。
「いや・・・あいつは手段を選ばない奴だ。本当にララ様が俺達に会いたくないとは思えない・・・」
「ちょっと待て!そうは言ってないだろう?会いたくないなんて言ってないだろう?それに何なんだその自信は?会って貰って当然とでも言うのかお前は?」
「そうですよ!ジョニー店長は、今は駄目だと言ってただけですよ?」
シルビアが追随する。
思わぬ反撃にシュンとなるライゼル。
「うう・・・まあな・・・」
「まあなじゃねえ!」
本気で咎めるリック。
「でも気持ちは分からなくは無いわよ」
今度はメイランがライゼルを擁護する。
「だろ?」
援護射撃があり、一瞬にして復活するライゼル。
「私もフェアリーバード様に会いたいわ、でも、もし仮に嘘だとしても、相手はあのジョニーよ?籠絡出来る相手じゃないわよ、あんたにジョニーを籠絡出来るっての?無理でしょうが・・・」
「確かに・・・」
顎に手を置くライゼル。
「でもねえ、ジョニーのことだからタイミングが来たらちゃんと会わせてくれるわよ、間違い無いわ」
メイランはジョニーに信頼を寄せているみたいだ。
「だといいが・・・」
ここで徐にクリスタルが手を挙げた。
それを見たライゼルが顎を引く。
「私・・・聞いちゃったんです・・・」
眉を顰めるライゼル。
「何をだい?クリスタルちゃん・・・」
「それは・・・あの開かずの部屋から声がしたんです」
「!!!・・・あの部屋か?・・・」
一同に戦慄が走る。
ライゼルは手を挙げて、驚きを隠そうともしなかった。
あの部屋とはいったい・・・
「はい・・・楽しそうに話すジョニー店長の声を聞きました・・・ララって・・・」
「まじか・・・」
「やっぱりか・・・」
「あの部屋は・・・」
一際モリゾーが血相を変えていた。
「ライゼル、あの部屋はヤバいだで!いけねえだで!」
ワナワナと震えるモリゾー。
分かっていると頷くライゼル。
「私・・・前に聞いたことがあるんです・・・」
今度はマリアンヌがぼそぼそと話し出した。
「何をだい?マリアンヌさん・・・」
全員が身構えている。
「この部屋は何の部屋なのかと・・・」
参加者全員が驚いていた。
「凄い・・・よく聞けたな・・・」
「勇気があるなあ・・・」
「私には無理です・・・」
全員が聞く事すらも憚られていたみたいだ。
それぐらいあの部屋は恐れられていた。
そうあの部屋とは着付け室である。
ジョニーが誰も立ち入らせないとした部屋である。
その理由は真面に語られてはいない。
しかし・・・
「ジョニー店長は仰ったんです・・・」
「何を?」
「・・・」
ごくりと唾を飲む音がした。
全員が次の言葉を待っていた。
「あの部屋には・・・人ならざる者がいると・・・」
引いている者、顔を引き攣らせている者が大半だった。
「なっ!」
「人ならざる者?」
「それはいったい・・・」
「分かりません・・・ただ・・・」
「ただ?・・・」
「ジョニー店長は入室を許可されているからいいんですが、そうでない者があの部屋に入ると・・・」
誰かが唾を飲み込む音がした。
「私が思うに・・・呪われるかもしれません・・・」
「嘘だろ?」
「あり得ねえ・・・」
「マジかよ・・・」
全員が絶句していた。
「確かにあの部屋からは異様な存在を感じるしな・・・」
「でも、そもそもあの部屋は鍵で硬く閉ざされてて、入れませんよ」
「いや、実は入る方法はあるんだ・・・」
「えっ!どういうことですか?」
ライゼルが全員を一睨みする。
「ジョニーは毎朝必ずあの部屋に入るんだ、そこを狙う事は可能だと俺は思う・・・」
「・・・不味く無いか?それは?」
「だが、あの一瞬がチャンスなのは間違いないんだ」
「でもなあ・・・俺は呪われなくないぜ」
「私も・・・」
「いや・・・呪われると私が思っているのであって・・・確信はありませんよ・・・」
「だろ?」
何故か自慢げな顔のライゼル。
「だろ?じゃねえ!」
「確か、その人ならざる者の名は・・・ハナコサン・・・」
全員が集中していた。
「ハナコ・・・サン?」
「不思議な名だな」
「そうですね・・・」
こうして不毛なミーティーングは終わりを告げた。
不毛なミーティングの影で、世界は大きく動き出していた。
世界は聖獣フェアリーバードの出現にて、大きく舵を切り出したのだった。
世界は大きな変換点を迎えていた。
誰もこの世界の今後を見通す事等出来なかった。

