嬉しくなって俺はララを抱きしめた。
その魂の鼓動を全身で感じる。

ララも嬉しそうに、
(ジョ兄ー!ジョ兄ー!!!)
と叫んでいた。

でもここはそろそろ冷静に成らなければいけない。
聞きたいことが山ほどあるのだから。
俺はララを引き剥がすと、目を覗き込んだ。

「ララ、聞きたいことが山ほどあるんだ!」

(うん、そうだろうね。僕も色々と説明しないといけないんだ)

「そうか」
ここで横槍が入る。

「ちょっと待ってくれ!!!ジョニー、お前何やってやがるんだ?!フェアリーバード様だぞ?!頭が高すぎるだろ?」
フェアリーバードってあの伝説の聖獣とやらか?
だからなんだ?ララはララだぞ!
面倒臭い奴だな!再会を祝う俺達を邪魔すんなよ!

「ララはフェアリーバードなのか?」

(うん、そうだよ)

「ライゼル、フェアリーバードだかなんだか知らないが、こいつはララだ!俺の相棒だぞ!」
俺の発言に顔を顰めるライゼル。

「はあ?・・・相棒?・・・お前何言ってやがる?・・・」

「その儘だ、なあ・・・今はお前に構ってられないんだ、後でいいか?」
嘘だろという視線で俺を見つめるライゼル。

「なっ!・・・」
それを無視して俺はララに向き直る。
ララは俺の肩を離れて、鳥小屋の屋根に留まった。
優しい視線を俺に向けている。

「悪いなライゼル・・・で!ララ、今話にでたけど、何でフェアリーバードなんだ?」

(それわね、本当は人に生まれ変わってジョ兄に会いたかったんだけど、神様が駄目だって言うんだよ)

「どうしてだ?」

(僕は徳が溜まってるから人にはなれないんだって、それにジョ兄はもうペットは飼わないって誓ってたから・・・)

「そうなんだ・・・」
徳が溜まるって・・・まあ何となくは分かるが・・・
と言うことは人は徳が薄いと・・・今はいいか・・・

(それに地球にはもう戻れないって・・・)
だろうね、こんな鳳が地球に現れた日には大騒ぎだ。
SNSを席巻するぞ。

そんな事はいいとして、俺はこの時点で何となく悟ってしまった。
そういうことなんだと・・・
やっと理由が分かったよ・・・

「ああ・・・そういうことか・・・」

(ごめんね・・・ジョ兄・・・・)

「いや・・・いい・・・こうしてお前に会えたんだから」
本心からそう想った、嘘偽りなく。
本当に俺はララに会いたかったからだ。

(ありがとう・・・)
ララはすまなさそうにした。
鳳のくせに表情豊かなことだ。
人と変わらないぐらいだよ。

これはどういうことかと言うと、俺のお店が異世界に繋がったのは、ララが俺に会いたかったからという事に他ならない。
つまり俺の美容院『アンジェリ』を異世界と繋げた理由は、ララに再会する為だったということだ。
ララは人にはなれない、そして地球にはもう戻れない。
だから俺の店は異世界と繋がった。
自然とそう言う事になる。

であれば俺には感謝でしかない。
ララに会えることは何よりも望んでいた事だからだ。
ララに会いたい・・・そう何度も想っていた。
夢に見る程に・・・それが叶うならば俺の夢なんて歪んでもいい。

その所為で俺のお店が日本で営業出来無くても全く構わない。
それだけ望んでいたことだからだ。
ああ・・・これは奇跡だ・・・でも・・・これで吹っ切れそうだな。
もう未練は無くなりそうだ・・・
それにやっと異世界と繋がった理由が分かったよ。
ふう・・・前もって教えておいてくれよな。
全く・・・女神様よう・・・

「よかった、お店が・・・異っ・・・」
おっと、ライゼルがいるんだったな。
危ない危ない。
口が滑るところだったよ。
ライゼルといえど、俺が異世界人だとは明かせないな。
今はまだな・・・

「こうやって会えたんだ、それで充分だよ。ララ・・・」

(ジョ兄ならそう言ってくれると思っていたよ、ありがとう・・・)
パッと明るい表情に変わるララ。

「ララって、こんな声なんだな」

(えっ!そこ!)
だって気になったんだもん。
ララの声は中性的な高い声をしていた。
性別の違いが分かりづらいからね。

「で!なんで僕なんだ?お前メスだったよな?」
そう以前のララはメス犬だった。
付いて無かったからね、あれが。

(だって、今回はオスなんだもん)

「そうなのか?」
へえー、そうなんだ。
フェアリーバードにも性別はあるらしい。

(そうだよ)
胸を張って主張しているが、シンボルはよく分からなかった。

「うーん、オスとメスの違いが分からん・・・」
鳥の性別ってどうやって見抜けばいいんだ?
さっぱり分からん・・・

(フフフ・・・それはいいとして、説明しておくとね・・・)

「なんだ?」

(まだ僕の魂は、この身体に完全に馴染んで無いから、この世界に居て良い時間は限られているんだ・・・)
余りこの世界には居られないってことか?

「そうなのか・・・ということは馴染んだらずっと居られるってことか?」

(うん、そうだよ)
よし!ララと居られるぞ!
ララと暮らせる・・・こんな嬉しいことはないぞ!
よし!よし!!!

「差し当って今はどれぐらい居られるんだ?」

(うーん、十分ぐらいかな?)
ウッソ・・・短か過ぎだろう・・・

「そんなに短いのか?」
せめてもうちょっと一緒に居たいんだけど。

(うん・・・)

「そうか・・・」

(ごめんね)
すまなさそうに上目遣いで俺を見るララ。

「いいや、謝る事じゃない・・・早く馴染むといいな」

(うん、頑張るよ!)

「ああ」

(ということで、また来るね)
もう行っちゃうんだ・・・でもまた直ぐに会えるだろう。

「分かった・・・」

(ジョ兄!またね!)
ララは俺に向かって翼を振っていた。
可愛いな・・・ララ・・・
それに答えて俺も手を振った。
フュン!そんな音がしたとたん、ララは消えていた。
・・・ああ・・・もう寂しい・・・



ララが消えた後に、俺はライゼルから質問攻めにあった。

「どういう関係なんだ!」

「何を話していたんだ?」

「どうしてこんなことになってんだ?」
今回の事をライゼルは言いふらすだろう。
そうなると、どうせ家のスタッフからも同様の話があると思った為、夜に皆の前で説明すると俺はライゼルを追いやった。
同じような話を何度もするのは面倒臭いからね。
それに・・・真面に説明することは敵わない。
どうしたものか・・・
ここは真実に近い嘘で誤魔化すしかないだろうな・・・
にしても、またこれか・・・困ったな・・・
もう罪悪感は無くなっているな・・・やれやれだよ・・・
考えもんだな・・・



ライゼルがお店を去ると、俺は神棚に向かった。
神様とも話をしなくてはならないよね。
やっと見えてきたからね、この世界に繋がった理由がね。

着付け室に入ると向うから話し掛けてきた。

(丈二や、よかったやえ)
とても優しい声音だ、正に女神の福音だった。

(はい、ありがとうございます・・・)
心の底からそう思えた。
感謝以外何もないよ。

(ララは何よりもお主に会いたかった・・・分かるやえ?少々強引な方法ではあったが、許してたもれ・・・)
ええ・・・最初は勝手に異世界に繋げられて、少々許せなかったですが。
今は・・・もう・・・ありがとう御座います。

(はい・・・大丈夫です)
今と成ってはどうでもよくなってきているのは本音だ。
こちらの世界でやる事が増えたし、責任もあるしね。
実際遣り甲斐も感じている。
もう今と成っては放り投げることなど出来ないぐらい、俺はこの世界に染まっている。
それに愛着も沸いているしね。
困ったものだよ・・・
だってもう三年目だよ?
そうなるでしょうよ・・・

(さあ、どこから話そうかえ?)

(こちらからお聞きしてもいいでしょうか?)

(構わぬ、何が聞きたい?)

(まず確認になるんですが、俺のお店がこの異世界に繋がったのは、ララが俺に再会したかったからですよね?)

(そうやえ、ララがそれを望み、お主もそう望んでおると知っておったからな、それにお主はもうペットは飼わぬと心に誓っておったやえ?じゃから日本には送りこめなんだやえ)

(そうですか・・・ありがとう御座います。でも教えてくれていてもよかったのでは?)
俺はそう思うのだが。

(そうはいかんやえ、物事には順番があるでなあ)

(はあ・・・)
順番って何?

(前もって知っておる事で、ララがそちらに行けん可能性もあったからやえ)

(というと?)

(説明に困るのだが・・・そう例えばご縁やえ!)

(ご縁ですか?)

(そうやえ、お主が温泉街にララの名を付けた事がご縁なのやえ、それに鳥小屋を造ったことも)

(うーん、いまいち分からないですね・・・)

(ご縁が出来てやっと道が繋がる、そういうものやえ、分からぬか?)

(はあ・・・)

(まあ、いずれにしても前もって教えておくことは敵わなかったということに変わりは無いやえ)
声音から困っているのは充分に伝わった。
何かしらのルールがあるって事なんでしょうね・・・

(まあいいです、でも他にも俺のお店と異世界を繋げた理由があるんですよね?違いますか?)

(フム・・・それはお主も感じておるのだろうが、この世界を発展させる為やえ。感じておろう?)
やっぱりか・・・

(だと思いましたよ)

(地球とは違い、化学は皆無、しかし地球には無い魔法がある。魔道具が文明を支えておる。しかし余りに貧弱・・・)
確かに貧弱だった・・・だって発火木だったからね・・・

(ですね)

(この世界の発展には新たな視点が必要、美容器具など正にそれやえ!そして美容という娯楽が必須であるとな!)
ん?それはいったい・・・

(美容が娯楽?)

(わらわはそう捉えておる、違うかえ?)
なるほど、確かにそういう捉え方もある。
これは面白い!
俺は美容を娯楽と捉えたことはこれまで一度もなかった。
でも言われてみれば、頷ける部分もある。
着飾る事も同様だ、娯楽と捉える事も出来る。
美容に関しては、身だしなみという側面もあるから全面的に娯楽とは言いづらいが、髪形で遊ぶことや、髪色を変えることは娯楽と言われればそうとも思える。
そしてその娯楽が必要だったということか。
新しい娯楽の創出か・・・これは面白い!

(娯楽と言われてみれば、確かにそうかもしれませんね)

(であるなあ、それに価値観の変化を齎したかったやえ)
それは何となく分かっていた。
価値観というより、新たな意識、要は美意識だ。
簡単に例えると、朝に鏡の前に立って、髪形を整える。
髪形が上手く纏まると、それだけで気分が上がるのだ。
肌の調子がいい、これも同様に気分が上がる。
この気分が上がることは重要なことであると俺は捉えている。
同じ時間を過ごすのであれば、気分が乗っていた方が楽しいに決まっている。
当然気分が乗らない日もある、そんな事は分かっている。
折角暮らすのであるのならば、楽しい方が良い。
そんな人生を送りたい。
そこに疑いは全くない。

(その為には、美容院『アンジェリ』そしてお主が必要と考えたのやえ)

(・・・そうでしたか)

(実際、お主のお陰でこの世界は変貌を遂げておる、世界が大きく変わってきておるやえ。実感しておろう?)

(分かっています、俺は改革者ということですね?)

(改革者・・・フム・・・そんな者ではあるまい)

(というと?)

(変革者やえ!)
何か変態みたいな響きで嫌だな・・・

(変革者?)

(違うかえ?)

(何か・・・嫌です・・・)

(何でやえ!・・・)
こんなどうでもいい会話に成り下がっていた。
ここからはなし崩し的にどうでもいい会話にシフトしてしまっていた。
我ながら残念で仕方が無い・・・

(最後に、ララの現れる場所なんですが、この部屋にして貰えますか?)

(構わぬが、何故やえ?)

(今は余り人目につきたくないので・・・それにもっとたくさん俺との時間が欲しいので)

(ふむ・・・であれば・・・)

(分かっています!お供えは期待して下さい!)

(イヤッホィーーー!!!)
フフフ・・・勝ったな・・・
てかちょろいぞ・・・女神様よ・・・



フェアリーバード現る。
この一報はこの国、否、この世界に激震を走らせた。
その情報は瞬く間に世界に広がっていった。
目撃者であるライゼルは、我が物顔である。
今や時の人となっていた。
質問攻めの毎日を過ごしていた。
そして、人々が『アンジェリ』に殺到した。
誰もがフェアリーバードを一目見ようと集まり出したのであった。
ジョニーは頭を抱えていたが、最愛の相棒に再会できたことに喜ぶと共に、そんな無遠慮な者達にブチ切れていた。

「営業の邪魔だ!どっか行け!!!」
そう叫ぶ日々を過ごしていた。

一報を聞きつけたベルメゾン伯爵は、ジョニーの機嫌を察してか、警護の者達を手配し、常時十名近い警護がなされることに成った。
メルメゾン伯爵にとっては、何よりもフェアリーバードと親しくしているジョニーに気を使わなければならなかったからだ。
その気遣いは王家をも凌駕する。
これまでジョニーと関係を造ってこれたことに安堵したぐらいだった。
なんの事やらである。