貨幣事件に驚いている処に声を掛けられた。
「ところでジョニー店長、このシャンプーの使い方は分かりましたが、このリンスの使い方をご教授下さいませんでしょうか?」
そうだった、これはいけない。
お客さんを置き去りにしていては美容師の名折れだ。
説明いたしましょう。

「こちらのリンスですが、シャンプーで髪を洗った後に、髪に沁み込ませる様に揉み込みます、その後洗い流して貰います。それだけで構いませんよ」

「なるほど、よく分かりました」
シルビアちゃんが答える。

「それで、ジョニー店長、ジャポンという国を私は聞いたことが有りませんが、どういう国なのでしょうか?」

「それは・・・苦い思い出がありますので、余り話したくはないですね」
嘘です。
許して下さい。

「これは申し訳ない、そうでしたね。それにしてもこのお店は素晴らしい!」

「はい!私もそう思います!」
シルビアちゃんも続く。
ハハハ。
褒められて悪い気はしないな。
罪悪感は募るばかりだが・・・

「ありがとうございます」

「ではまた伺います、このお店の事は必ず広めてみせます!モニターの責務を全う致します!」

「私もです!」
そう力まんでもいいですよ。
でも助かります。
じゃんじゃん口コミして下さいな。
ここは商人のネットワークに期待だな。

「そうだ!ジョニー店長、一度私のお店に来てみませんか?この国を知る事にもなるでしょうし」

「おおっ!それは助ります!宜しいので?」

「勿論です!」
これは嬉しい申し入れだ。

「私のお店はここから歩いて15分程度です」

「分かりました。さっそく明日にでも伺いますよ」
やった!
やっとこの世界を俺は知る事が出来るみたいだ。

「じゃあ店長、私が迎えに来ますね」

「ありがとう、シルビアちゃん」
二人は楽しそうに帰っていった。
この世界の道具屋か・・・面白そうだな。
って、俺もお気楽だな。
ちょっとだけお店の繁栄が見えてきたな。
心許ない糸だが、手繰り寄せる事が出来るのだろうか?
まあ、所詮他人任せだが・・・



翌日を待たずして、また来客があった。
遠慮も無くお店の扉が開けられる。
一人の男性がお店の中に入ってきた。
明らかに戦士風の出で立ちだ。
腰に帯剣している。
その顔には、興味本位で寄らせて貰ったよと書いてあった。
お調子者な雰囲気がその表情から分かった。
でも何故だか高貴な雰囲気が見え隠れしている。
こいつはいったい?

「いらっしゃいませ!」
一先ず声を掛けてみた。
客とは思えないが念の為ね。

「やあ、突然すまないな」
手を挙げて、ずかずかと踏み込んでくる。
なんなんだこいつは?

「何か御用でも?」

「いや!特には無いんだ、突然こんな所にお店が出来上がったと噂になっていてな。どんなお店なのか覗きにきたんだ」
ニコニコした顔で答えている。
随分余裕だな。
何者だ?
にしてもこいつ・・・粗削りに見せているが・・・何となく高貴に感じるな。
気の所為か?

「はあ・・・」

「で!ここは何のお店なんだ?」

「ああ・・・ここは髪結い屋さんだよ」
本当は美容院です!
声を大にして言いたい!

「へえー、髪結い屋かー、男性が髪結いさんなんて珍しいじゃないか」
そうなのか?
この世界では男性の美容師は少ないみたいだな。

「にしても、何でこのお店はこんなに明るいんだ?」

「ああ・・・それは、髪色をしっかりと見定める為だよ」
照明には拘らせて貰いましたよ。

「なるほどな・・・あと、こんなに立派な鏡は見た事ないぞ!凄いな!店主!」
そうなんだ・・・鏡すらもオーバーテクノロジーなのか?
でお前は誰なんだ?

「まあな・・・結構高かったからね」
嘘である。
ビューティー●レージでそれなりに、安く仕入れました。
イーゼル型の鏡だ。
戦士風の男性は無遠慮に、どっしりと待合のソファーに腰をかける。

「俺はライゼルだ、よろしくな!して、店主は何て言うんだ?」
こいつは・・・お客扱いは不要だな。
こういう輩には遠慮は要らない。
無作法に向かってくる輩には同じ対応をすべきだろう。

「俺はジョニーだ、そしてこのお店はアンジェリと言う、よろしくな」
言葉使いなんて気にしない。
それでいいだろう。

「へえー、それで、何だってこんな所にお店を造ったんだ?」

「それは・・・まあいろいろあってな」
ほんとに遠慮がないな、こいつ。
づかづか踏み込んで来やがる。

「答えたくは無いか・・・」
ライゼルは詮索する視線を俺に向けてくる。

「まあ・・・複雑な事情があってな」
適当に躱すでいいだろう。

「ふーん、訳ありってことなのか?」

「まあそんな処だ、それでライゼルは戦士なのか?」
逆に聞いてみよう。
ペースを奪わせる訳にはいかない。

「俺か?俺は戦士と言うよりあれだ、冒険者だ」
冒険者?
出たよ、異世界物あるあるじゃないか。
確かにそう言われてみればそう見えなくも無いな。
にしてもお店の中で帯剣されるのはどうかな?
ちょっと考えものだな。
店内で暴れられたら俺はぶち切れるだろうな。
まあこいつに引けは取らない自信はあるのだが。
因みに俺は空手の黒帯です。
十代後半にはそれなりに・・・まあいいか。

「なあライゼル、悪いがこのお店では帯剣を許していないんだ。すまないが腰から外して貰えないか?」

「そうか!それはすまない!」
ライゼルはあっさりと腰から鞘ごと剣を外して俺に差し出してきた。
ごめんと軽く頭を下げている。
案外言えば分かる奴かもしれない。
もしかして帯剣を認めないお店が他にあるということなんだろうか?
考えられるな。
それにしても無茶苦茶従順なんだが・・・悪気は一切ないということかな?
俺は剣を鞘ごと受け取った。
受付カウンターの横にあるクローゼットに剣をしまう。

「で、ジョニー、こんな立派なお店を急に造ってしまうなんて、もしかしてお前、魔導士か?」
またこの手の会話か、少々嫌になるな。
まあでも答えるしか無いよな。

「俺は髪結いさんで、魔導士ではないよ」

「そうなのか?」

「ああ、俺の親友が大魔導士で、親友に無理を言って造って貰ったんだよ」

「へえー、凄いな」

「まあな」
にしてもこいつ馴れ馴れしい奴だな。
嫌いじゃないけど。

「それで、冒険者ってどんな事をするんだ?」

「ジョニーは冒険者を知らないのか?」
知る訳ないだろう。

「ああ、知らないなあ、俺はこの国の出では無いからな」

「そうなのか?冒険者ってのはな、その名の通り冒険を生業としている者の事を言うんだ。とは言ってもそのほとんどは雑用だったりが多いが、俺は狩り専門だな」

「狩りか、魔物でも出るのか?」

「魔物なんて滅多にいないぞ、昔には居たみたいだけどな。今の狩りは主に獣だな」
よかったー!
魔物は居ないみたいだ。
魔物にお店を壊されたら、ドラゴン相手でも俺は戦ってやるけどね。
けどそんな心配は不要みたいだ。

「どんな獣がいるんだ?」

「獣とは言ってもいろいろだ、ラビットやボア、バイソンがこの辺では多いけどな」
兎や猪や猛牛ってことだな。
それなりに大物だよな?
たぶん・・・

「後は鳥だな、この辺は結構狂暴な鳳が多いからな」
鷹とかかな?
もしかしてガチョウとかいたりして。

「なあジョニー、すまないが水をくれないか?」

「ああいいぞ、ちょっと待っててくれ」
俺は調合室にある水道で水をコップに入れる。
こいつには水道水で充分だろう。

「ほら、飲みな」

「すまないな」
コップを受け取ると、ライゼルは一気に飲み込んだ。

「旨い!なんて澄んだ水なんだ!」
はあ?・・・水道水だぞ。
マジかこいつ!

「ジョニー、もう一杯くれ!」
ライゼルは俺にコップを押し付けてきた。
水道水ぐらいいくらでも飲んでくれ。
俺はもう一度水道水をコップに注いだ。

「ほら、飲めよ」
コップを受け取るともう一度一気に飲み干した。
どれだけ喉が渇いていたんだか。

「ふう・・・旨い。さて帰るとするか」

「そうか」

「じゃあまたな、ジョニー!」
ライゼルはにこやかな顔をして帰っていった。
結局こいつは何しに来たんだ。
よく分からん・・・
てか・・・あの馬鹿・・・剣を忘れてやがる。

俺は店を出てライゼルを探したが、どこかに行ってしまったみたいだ。
何やってんだライゼル・・・お前の商売道具だろうが・・・
しょうがない、預かろうか。
にしても・・・

俺はライゼルの剣を抜いて眺めて見た。
それなりの重みを感じる。
振り易そうな剣だな。
それに鷹が翼を広げている様な紋章が鞘の部分に刻まれていた。
これは業物だな。
だがこれは手入れが成っていない。
錆が浮いている訳ではないが、刃こぼれが数カ所。
しょうがない、ちょっと手を貸してやるか。
これも何かの縁だしな。
まあ俺の趣味だな。

俺は研ぎ石を準備した。
これはハサミを研ぐ代物だ。
俺のハサミは実は特注だ。
やはり道具には拘る必要がある。
特に美容師にとってのハサミは命と同義だ。
相棒とも言える。

ハサミの研ぎは美容材料屋に任せるのが美容師の基本なのだが。
でもそれにはいくつかの問題点がある。
先ず、なにより研ぎに時間が掛かる為、手元に帰ってくるまでの間、違うハサミを使わなければならない。
所謂二軍のハサミだ。
正直カットの満足度が落ちる。
素人には分からない違いだろうがね。
でもここは拘らないといけない。
それに研ぎ職人によってその完成度が大きく違う。
ここも拘る部分だ。
好みと言われるとそれまででもある。

そういう事もあって、俺は自分のハサミを自分で研ぐという選択肢を選んだのだ。
今ではハサミの研ぎには結構自信がある。
それなりに修業をしたからね。
何本か高価なハサミを駄目にしてしまったが、これは勉強代と割り切ることにした。
先輩には拘り過ぎだと怒られてしまったが。
でも余りの仕上がりの良さに、後日俺が先輩のハサミを研ぐ事になってしまった。
まあ良い小遣い稼ぎになったと言っておこう。

そして研ぎには精神を落ち着かせるという副次効果がある事も実感した。
集中すると神経が落ち着くのだ。
どうやら俺は集中すると止まらない質の様だ。

研ぎ石を準備してライゼルの剣を研いだ。
なかなか面白い体験だった。
気が付くと3時間以上研ぎを行っていた。
よし!良い仕上がりだ。
ライゼルの剣を鞘に納めてクローゼットに戻した。
ふう、良い息抜きになったな。



翌日。
約束通りシルビアちゃんが俺を迎えに来た。
今日も赤髪が優雅に舞っている。
にっこり笑顔のシルビアちゃん、実に楽しそうにしている。

「ジョニー店長!お待たせしました!」

「いや、たいして待ってないから大丈夫だよ」

「では早速行きましょうか?」

「ちょっと待ってくれ」
俺は優雅にコーヒーを飲んでいる最中なのだ。
お気に入りのノリタケのカップに口を付ける。

「シルビアちゃんも一息つきなよ」

「いいんですかー?」
俺はバックルームに入って、オレンジジュースを準備した。
受付カウンターの前で期待の眼差しでシルビアちゃんが待っていた。

「はい、どうぞ」

「ありがとう御座います!」
嬉しそうにオレンジジュースを受け取るシルビアちゃん。
ゆっくりとオレンジジュースを飲んで楽しんでいる。
シルビアちゃんは目を細めていた、相当気に入ってくれたみたいだ。
こんなにオレンジジュースを喜んでくれるとはな。
カ●メさん、喜んでくださいね。
異世界でも好評ですよ。

俺達は一息ついてからお店を出た。
シルビアちゃんと二人、この世界を見て周った。
こうして歩くと、この世界を感じることが出来る。
文明度が低いのはもう分かっている。
でもこの世界の空気は旨いと感じてしまう。
なんだろうこの感覚は・・・
昔懐かしいとまでは言わないが、世界は自然とマッチしているのだと思えた。
自然との調和。
今の日本では感じられない感覚だった。
それを俺は嬉しく思えた。
そうこうしているとマリオさんの道具屋に辿り着いていた。



其処は異世界ならではの道具屋だった。
生活用品だけに留まらず、様々な物が列挙していた。
道具だけに留まらない。
防具や武具もあった。
中には薬草までも。

「マリオさん、凄い品ぞろえですね」

「お褒め頂き光栄です!」
自慢気なマリオさん。
それはそうだろう。
大店とまではいかないが、これは立派なお店だ。
実に見応えがある。
特に目を引いたのは陶磁器だった。
とは言っても、流石にノリタケに敵う一品ではないが。
でも充分に認められる程の仕上がりだ。
いくつか購入しようかな?
でも金貨は1枚しか無いけど。

「なにかジョニー店長のお店に役立ちそうな物があればいいのですが・・・」

「どうでしょうかね?」
そういえばコートラックが買って無かったな。

「マリオさん、コートラックはありますか?」

「ふむ、コートラックですね。確かこちらに」
俺はマリオさんに付いて行くことにした。

「こちらなんていかがでしょうか?」
差し出されたのは木製のコートラックだ。
木目に渋みがある一品だ。
ほお、悪くない。
て言うか、アンティーク感があっていいじゃないか。

「因みにおいくらでしょうか?」

「金貨5枚になりますが、ジョニー店長にはシルビアがお世話になりましたし、昨日は最高のおもてなしをして頂きましたので、金貨1枚でどうでしょうか?」
ありがとうございます。
って、マリオさんサービスし過ぎでしょうよ。
8割引きって・・・
でもここは甘えておこう。
どうやらコンビニ傘が、素敵なコートラックに変わってしまったみたいだ。
これは助かるな。

「では購入させて頂きます」

「お買い上げありがとうございます」
お礼を言いたいのはこちらですよ。

そしてマリオさんからご婦人を紹介された。
「ジョニー店長、妻のイングリスです」

「あら?あなたがジョニーさんですね、話は聞いておりましてよ。シルビアがお世話になりました。ありがとうございます」
頭を下げられてしまった。

「いえいえいえ、気にしないで下さい。これも何かのご縁ですよ」

「そう言って頂けますと嬉しいです。それにあのシャンプーとリンスです!最高ですわ!髪はサラサラになるし、艶も出ましたわ!見てくださいこの髪を!」
おお!ぐいぐい来るな。
結構顔を寄せられている。

「ハハハ!良い艶髪ですね」

「でしょ?もうお気に入りですわ!」
ちょっと顔が近いのですが・・・
いや髪をみせたいのか?
ちょっと失礼して。

「髪に触れてもいいですか?」

「どうぞどうぞ!」
頭を押し付けられてしまった。
やっぱり髪を見て欲しかったのね。
髪に触れてみる。
うん、少し癖のある髪質をしているな。
髪は太めだ。
イングリスさんの顔立ちはシュっとした顎のライン、特徴的な耳をしている。
要は福耳だ。
耳朶がデカい。
鼻は低く、口びるは薄め。
髪は伸ばし放題を纏めただけだ。
これは勿体ない。
多少毛先を丸めてはいるが、いまいち顔の輪郭にマッチしていない。
この人にはストレートヘアーが似合うだろうに。
それに髪の長さも肩より少し長めぐらいがいいだろうな。
おっと!職業病が全開だな。
これはいけない。

「ああ!すいません。見とれてしまいました」

「本当ですか?熟練の職人の様な眼をしておりましたよ?」
しまった、バレバレだったみたいだ。

「ハハハ、バレましたね」

「それでどんな見立てですか?」
イングリスさんに期待の眼差しで見つめられてしまった。
もしかしてそもそもそのつもりだった?
俺の事を髪結いさんだとどうせ聞いているだろうし、プロの意見を聞きたいということかな?
マリオさん辺りの仕込みかな?
実際、マリオさんとシルビアちゃんが耳をダンボにしているし。
何だか腕試しをされているみたいだな。
いや、そうではないか。
そもそもモニターとして二人はオゾンシャンプーを受けている。
俺の腕を高く評価しているということだろう。
であれば遠慮なく。

「先ず髪形が顔立ちにいまいちマッチしていないですね。ストレートヘアーの方が似合うと思いますよ。それに見たところ伸ばしっぱなしの様ですし、肩より下ぐらいでいいかと」

「なるほどですわね、でも私は生まれながらにして癖のある髪質です。ストレートヘアーには憧れますが・・・」
そうか、この世界にはストレートパーマは無いということだな。
そもそもパーマ自体が無さそうだ。
髪を巻く事ぐらいはあるだろうが。

「その憧れ、叶えられますよ」

「「「えっ!」」」
レイズ家の三人ともが驚いていた。

「それはどうやって・・・」

「それはほら、家の魔道具でストレートパーマをかけることが出来るからですよ」

「左様で御座いますか?」

「本当に?」
三人は目を見開いている。

「ええ、本当ですよ。今度お店にいらして下さい。ただストレートパーマは少々時間と料金がかかりますよ」

「因みにおくらで御座いますか?」
何故だかマリオさんまで興味深々だ。

「ストレートパーマは髪の長さに寄りますが、だいたい金貨2枚です、カット代金は別途銀貨50枚必要です。恐らく施術時間は髪質で変わりますが、2時間から3時間程度かと思います」
イングリスさんはうんうんと頷いている。

「それぐらいならどうにかなりますわ」

「あと残念ながらストレートパーマは永久的に続く訳では無いので、その点は御承知おき下さいね」

「どれぐらい持つものなんでしょうか?」

「個人差と施術後の手入れにもよりますが、半年ぐらいでしょうかね?」
イングリスさんの表情がパッと明るくなる。

「まあ!それは素晴らしい!」

「お母様、これはジョニー店長のお店に行くしかありませんわ!」

「まったくです、シルビアも髪を切って貰ったらよろしくて?」

「はい!ジョニー店長、よろしくお願いします!」

「ジョニー店長、私も宜しいでしょうか?」
マリオさんまで手を挙げていた。
ハハハ。
これは助かる。
早くも常連が出来てしまったみたいだ。
良い出会いに感謝だな。
良き隣人とは仲良くしないとね。
これはありがたい。



そうだ!忘れていた!
俺はリュックからお土産を取り出した。
三人にお土産を手渡す。

「すいません、忘れていました。お土産です、今から食べませんか?」

「おお!それはありがたい!」

「ジョニー店長のお土産って美味しいに決まっています!」

「そんなお気遣いなさらずとも」
お土産はコンビニで買ってきたシュークリームだ。
5個購入し、一つは神棚にお供えしておいた。
残りの4個を持参した訳だ。
色々と悩んだが、甘い物の方がウケるだろうと思えたからだ。
包装のプラが気になったが、無視することにした。
だってこの後もこういったやり取りが必要なら、いちいち気にしていられないだろうしね。
あとでゴミは持ち帰ればいい。
それだけのことだ。
それにそもそもシャンプーとリンスの容器もプラだしね。
もっと言うとプッシュ式だ。
オーバーテクノロジーであるかもしれないし。

俺は一つ一つを個包装から取り出して、三人に手渡した。
「これは私の居た国では有名なお菓子です、シュークリームと言います。この皮の中に甘いクリームが入っています」

「ほお、それは珍妙なお菓子ですね」

「そんなお菓子があるんでございますね」

「もう美味しそう!」
あれ?お菓子であってるのか?
スイーツって言っても伝わらないだろうからお菓子でいいのか。

「遠慮なく召し上がって下さい」

「ではありがたく」

「御馳走になります」

「いい匂い」
シュークリームに齧りつく三人。
それを見てから俺もシュークリームに齧りついた。
うん、安定の味だな。
三人の様子を見ると何故だか固まっていた。
ん?どうしてだ?
その後三人は目尻が緩むと、一気にシュークリームを頬張り出した。
ありゃりゃ、お気にめして貰えた様子。

「ああ・・・もう無くなってしまった・・・」

「甘くて美味しい・・・」

「これは・・・美味すぎる!」
楽しんで頂けたようで何よりです。
いきなりのシュークリームは刺激が強すぎただろうか?
シルビアちゃんが興奮してプルプルと震えていた。
これは・・・やっちまったか?
まあいいや。