そこで人知れず『チームアンジェリ』が招集された。
こうなってくると俺一人で出来ることは限られてくる。
ここは情報収集とチームの力を結集しなければならない。
そのメンバーは美容院、バー、温泉宿、職人のメイン処である。
そして何故だか、呼んだ覚えは無いのにも関わらず、屋台、マリオ商会からも集まっていた・・・
おい!
そもそも呼んでないんだけど・・・なんでいるの?誰から聞いたの?
さてはシルビアちゃん・・・ゲロったな・・・というより嬉しくなって、勝手に言い周ったな・・・まあ、いいだろう。
大いに越したことはないからね。
それなりの大所帯になってしまった為、急遽会場を温泉宿の宴会場に移動した。
この宴会会場では主に朝食が振舞われることと、団体客の食事会場に使われている。
因みに朝食は俺の発案でビュッフェ式になっている。
これ目当てに訪れるお客さんも多いんだとか・・・
日本では普通のサービスなんだけどね。
食べ放題が受けているらしい。
皆な食いしん坊だな。
何かを感じ取ってか全員の眼が座っている。
どうして臨戦態勢?
国家転覆を企む反逆組織の集まりかと疑うぐらい、緊張感のある秘密の会合は開始されたのだった。
誰が始めたのかは知らないが、悪ふざけ感が半端ない。
でも・・・嫌いじゃないんだよね・・・こんな悪ふざけがさ・・・
俺もノリがいいねえ。
結構好物だったりもする。
「皆さん、お集り頂き感謝する」
いつもよりも低い声で話し掛ける。
無言で頷く一同。
場は緊張感が支配していた。
「では会合を始めます」
小さく拍手をしようとしたシルビアちゃんをマリオさんが窘める。
それを見て頷く一同。
そんな雰囲気では無いと意識を共有している。
プッ!だからなんでなんだよ!
この不要な緊張感はどうしてなんだい?
でも俺も悪ふざけに便乗してみようと思う。
だって楽しくなってきちゃったからね。
要らない虫が騒ぎだしているな、ハハハ。
「今やこの領地では、美容院は無くてはならないお店になっているのは、皆さん知っているだろうか?」
ここは敢えて疑問を投げかける事から始めた。
大衆を先導する一つの技術である。
ウンウンと頷く一同。
クロムウェルさんがガバっと立ち上がり、黒板に向かって書記を始めた。
なんという気遣い、流石はプロの執事だ。
頭が下がります。
クロムウェルさんが達筆な文字で何かを書き始めた。
残念ながらこの文字を俺は読むことが出来ない。
たぶん美容院は無くてはならないとでも書いているのだろう・・・
「俺はこの国で最初の美容院を立ち上げた」
「ああ・・・知っているさ・・・」
ライゼルが呟く。
それに頷く一同。
「俺達の今の最大のミッションは美容院『アンジェリ』以外の美容院を造る事にある」
首を傾げる者が数名いた。
そこにマリアベルさんが小さく手を挙げた。
俺は顎を引いて発言を許す。
「それはどうしてなのかしら?」
俺は腕を組んでマリアベルさんを視線に捉える。
席を立って、意味深に歩き周ってみた。
俺の次の発言に注目が集まっている。
「いくつか理由がありますが、敢えてこう言っておきましょう・・・」
決め顔で溜を造ると、誰かが唾を飲み込む、ごくりという音がした。
緊張感は高まっている。
「俺は、この国を美容大国にしたい!」
一瞬の静寂の後に、この発言に慄く一同。
「おおー!」
「なんと!」
「壮大な計画だ!」
「美容大国!凄い!」
あれ?やり過ぎたか?大袈裟だった?まあいいや。
相当な反応だぞ。
いいや、ここはもっと煽ってやれ。
今更悪乗りは止められないしね。
なんだか楽しくなってきちゃったよ。
「この国には今や美容文化が根付き始めている」
ウンウンと頷く一同。
「であれば、これをこの領地独自の文化として発展させる!美容と言えばメイデン、メイデンと言えば美容!そう呼ばれる日は近い!」
俺の煽りに騒ぎ出す一同。
「おおー!」
「いいぞ!ジョニー!」
「有りですわね!」
「素晴らしい!」
俺は手を挙げて場を制する。
この仕切り感も楽しい!
「その為には美容院『アンジェリ』一店舗では、余りにもの足りない!そう思わないか?諸君よ!」
俺も乗って来たぞ!
無茶苦茶面白い!
「メイデン領に来れば、そこら中に美容院があり、そしてその美容院で可愛くなり、美しくなり、そしてカッコよくなる。時代の最先端!流行の発信地!それがメイデン領だ!」
「「「おおー!!!」」」
全員が拳を突きあげていた。
「時代を先どる温泉街ララ!」
俺も拳を突きあげる。
「「「おおーー!!!!」」」
「そうなるべきでは無いだろか?!!!」
大声で扇動する。
「「「おおーーー!!!!!」」」
最大級の拍手を貰ってしまった。
全員が笑顔で微笑ましい。
中にはフンス!と気を入れている者もいた。
モリゾーだけは訳も分からずあたふたしていた。
うん、お前はそれでいいよ。
ていうかお前はこの会合に必要かい?
俺は一度大きく頷くと、意味ありげに視線を漂わせる。
俺の挙動に騒めき立つ一同。
ライゼルに至っては、
「どうしたジョニー!腹でも痛いのか?」
等と頓珍漢なことを言っていた。
俺は当然無視する。
アホかライゼル・・・
眉間に皺を寄せると意味深な表情を浮かべる。
「だが・・・ここで俺達は大きな壁にぶち当たっているのを理解しているか?・・・」
俺の発言に戸惑う者がいた。
数名は頷いている。
「?」
「それはいったい?」
「壁?はて?」
どうやら現状を理解していない者もいるみたいだ。
ここは説明が必要だな。
「どうやら分かっていない者もいるな、ヤンレングスさんお願いします」
俺の指名を受けて立ち上がるヤンレングスさん。
照れているのか、ちょっと顔が赤らんでいる。
頭を掻いて気を紛らわせていた。
「いいか皆なよ、簡単に言うとあれだ。魔道具の仕組みだ、どうやって魔道具が造られて、どうして魔法が発動するのかってことだ」
数名が頷いていた。
合点がいったと手を叩いている者もいた。
「ああ・・・」
「それか・・・」
「それは・・・」
バツが悪そうに頭を掻くヤンレングスさん。
「どうしても美容院の設備には魔道具が必要なんだ、俺みたいな鋳掛屋は、魔道具は造れない、シャンプー台の側は造る事が出来るさ、でもお湯を造りだすことができねえんだ・・・どうしてもよう・・・」
ヤンレングスさんは項垂れている。
「そういうことか・・・」
「水では駄目なのか?」
「そりゃあ駄目だろう」
「でも魔道具の造り方って・・・」
俺は両手を挙げて場を制する。
今日の会合の本番はここからだ。
さあ気合を入れようか。
「分かって貰えるだろうか?これが壁だ!魔道具の造り方、いわばこのトップシークレットを解明しない限り、この国は美容大国にはなれない!」
俺の発言に動揺を隠さない一同。
「なっ!・・・」
「そんな・・・」
「トップシークレット・・・」
考え込みだした一同。
どうしたものかと頭を抱えている者もいた。
その時すまなさそうに小さく手を挙げるクロエちゃんがいた。
ん?・・・
俺に視線で促されて訥々と話しだしたクロエちゃん。
随分と気まずそうにしている。
「あの・・・私・・・魔道具の仕組み・・・知ってます・・・」
その発言に場が凍り付いた。
あの冷静沈着なユリメラさんまで、劇画タッチの驚き顔になっていた。
ライゼルに至っては椅子からずり落ちていた。
「「「エエエーーー!!!」」」
この言葉と共に全員が椅子から転げ落ちていた。
ドリフかよ・・・
次行ってみよう!
こうして事も投げに魔道具のトップシークレットは解明されていくことになった。
身近にアウトローな魔導士がいたじゃんよ!
上手く行き過ぎじゃない?
この会合は開いて正解だったのかな?
どうだろうか?
これって棚ぼただよね?・・・
魔道具の仕組みは案外簡単だった。
結局はそんな物なのかもしれない。
疑問となるのは、なぜトップシークレットになっているのかということだ。
何かしらの理由があるのだろうが、俺にはいまいちその理由がよく分からなかった。
ずばり言うと、魔道具の仕組みの肝は魔鉱石と魔法陣だった。
魔鉱石とはその名の通り、魔法の石だ。
魔鉱石には魔力が詰まっているらしい。
聞く所によると、この魔鉱石はそれなりに万能だった。
魔鉱石は結構そこら中に存在するのだが、その存在を知られていない為、適当に扱われているみたいだ。
その価値を知らなければ、そうなるのだろう。
適当に道端に転がっていることも儘あるらしい。
この価値を知ったならば・・・経済力を得る者もいるのだろうね。
出来れば恵まれない子達に教えてあげたい。
それぐらいの仏心は俺も持っている。
要らない世話だろうか?
魔鉱石は魔力が閉じ込められているらしく、それに触れたり、接触する事によって魔法が発動できるらしい。
つまり、魔力を持っていなくても魔法が発動できるという話だ。
だから魔道具は誰でも使えるということになる。
単的にに言うと家電とあまり違いはない。
どうしてそんな事が起きるのかは、魔導士でもいまいち解明できていないらしい。
俺ならそこが気になって仕方がないのだが・・・
魔導士さん達よ、ちゃんと研究しなさいよ・・・
此処を解明しないとさ・・・
魔法には呪文を唱えて発動する方法と、魔法陣を用いて発動する方法がある。
簡単な話として魔法陣に魔法を封じ込めることが可能とのこと。
まあ異世界物でよくある話だよね。
魔法陣って・・・本当にあるんだね。
興味深々だよ俺は。
俺も魔法が使いたいなー。
俺の想像としては、魔鉱石は云わば電池みたいな物ではないかと思われる。
というのも、使用上限があるらしく、ある一定の使用回数を超えると魔法が発動出来無くなるらしい。
要は魔力切れだね。
その為、魔鉱石は指向性を持たせた電池であると考えられた。
多少強引な理屈ではあるが、そう考えると話が早い。
そして魔法その物を閉じ込めているのが魔法陣だ。
魔道具には外から見えない箇所に、魔法陣が仕込まれているらしい。
その魔法陣に触れる形で魔鉱石が組み込まれている。
知ってしまえばどうってことない仕組みだった。
懐中電灯で例えるならば、懐中電灯その物の構造は魔法陣、そして電池が魔鉱石だ。
スイッチを入れれば光が発せられる。
そんな仕組みに他ならない。
因みに魔法陣は魔力を持たない一般の者が描いた場合、魔法は封じ込められないらしい。
ここは魔導士にしか出来ない芸当の様だ。
とても残念だ・・・
俺も魔法陣を覚えたかったよ・・・
そうクロエちゃんが教えてくれた。
でもこれはある意味大きな意味があると俺は気づいてしまった。
当のクロエちゃんはそれに気づいていない様子。
どう言う事かというと、魔力があるか無いかをこれで判別できると俺は悟ってしまったのだ。
要は魔法陣を書かせれば、その人に魔法の適性があるのかを判別できることになるからだ。
簡単な理屈だがそうなることに変わりは無いだろう。
ここは敢えて踏み込まないでおこうと思う。
俺はどうなんだろうか?
魔法陣を書いてみようかな?
たぶん無理だと思う・・・
それにしても、余りにあっさりとクロエちゃんが魔道具の仕組みを教えてくれたことには正直驚いている。
どうしてなんだろうか?
少々不用心にも感じるけど。
折角だからその疑問をクロエちゃんにぶつけてみた。
「ねえクロエちゃん、こんなに簡単に教えちゃって大丈夫なの?ちょっと心配なんだけど・・・マリアベルさんもよろしいので?」
ある意味保護者のマリアベルさんにも尋ねてみた。
「はい、一向に構いません!」
クロエちゃんは何かを決心した眼をしていた。
「私はクロエに任せますわよ」
マリアベルさんはクロエちゃんに一任している模様。
この二人の信頼感は絶大だからね。
「そうなの?」
俺はクロエちゃんに問いかける。
「ええ、そもそもこの魔道具の仕組みを公開されていない事に私は思う処があったんです」
立ち上がると、演説でも始めるかの様にウロウロと歩きだしたクロエちゃん。
随分と積極的だなあ。
どうしたどうした?
「というと?」
「魔道具の利権を魔導士達が抱え込んで離さないことがどうにも許せないのですよ!私は!」
「なるほど・・・」
要は利権の独占だな、言いたいことは分かる。
「利権を独占しても良いことなんてありませんよ!一部の者達だけが得を得る、実につまらないです!」
クロエちゃんは拳を握りしめていた。
おお!この子ってこんな一面があったんだね。
情熱的でいいじゃないか。
俺は好きだよこういうの。
「だからジョニー店長の競合を造ろう作戦を、私は大いに賛同しています、公明正大で素晴らしいです!」
いや・・・ちょっと違うと思うよ。
俺は自分本位で競合を造りたい事に変わらないからね。
でもここは乗っかっておこう・・・
「ハハハ!ありがとう!」
顔が引き攣って無い事を祈ろう。
「それに私は魔導士ですけど、領で召抱えられている魔導士達が本当に好きではありません!」
「へえー、そうなんだ」
クロエちゃんは相当鬱憤が溜まっているのか、三白眼をしていた。
「あいつらは自尊心が高くて、傲慢で、強欲で、はっきり言ってムカつくんですよ!その癖自己顕示欲の塊!あー、ムカつく!」
今にも頭から湯気が立ち昇りそうだ。
「まあまあ、落ち着いて、ね?」
宥めるしかないな、ここは。
「ええ!・・・何にしても私は口を噤みませんよ!魔道具の仕組みを教えますし、なんなら魔法陣の書き方もお話しますよ!」
「いや、魔法陣の書き方を教わっても意味が無いんじゃないの?」
ちょっと勢いが過ぎるよね・・・冷静になろうよ。
「・・・そうでした」
はっと我に返るクロエちゃん。
「何にしても助かるよ」
「それと・・・ご相談があります・・・」
意味深に俺を見つめるクロエちゃん。
俺達のやり取りを黙って見守る一同。
「相談とは?」
「実は野良の魔導士や、魔法が使用できる様になっても、それを隠している者はそれなりにいます」
「ほう・・・」
これは風向きが変わりかねないね。
なんでそれを知っているのかという疑問も同時に浮かんできたが、今はそこはいいだろう。
「そこで国王様にも一目置かれているジョニー店長からの提言であれば、法律を変えることが出来ないかと思うのですが、如何でしょうか?」
法律の改定か・・・
これは大ごとだぞ・・・
「俺が?」
なんだか面倒臭い話になってきたな。
クロエちゃんの隣でマリアベルさんも頷いていた。
まあ話ぐらいは出来るけどさ・・・
俺がやらなきゃ駄目なのか?
そうなんでしょうね・・・
まあやるだけやってみましょうかね。
こうなったからには引けないしね。
はあ・・・しょうがねえな・・・
こうなってくると俺一人で出来ることは限られてくる。
ここは情報収集とチームの力を結集しなければならない。
そのメンバーは美容院、バー、温泉宿、職人のメイン処である。
そして何故だか、呼んだ覚えは無いのにも関わらず、屋台、マリオ商会からも集まっていた・・・
おい!
そもそも呼んでないんだけど・・・なんでいるの?誰から聞いたの?
さてはシルビアちゃん・・・ゲロったな・・・というより嬉しくなって、勝手に言い周ったな・・・まあ、いいだろう。
大いに越したことはないからね。
それなりの大所帯になってしまった為、急遽会場を温泉宿の宴会場に移動した。
この宴会会場では主に朝食が振舞われることと、団体客の食事会場に使われている。
因みに朝食は俺の発案でビュッフェ式になっている。
これ目当てに訪れるお客さんも多いんだとか・・・
日本では普通のサービスなんだけどね。
食べ放題が受けているらしい。
皆な食いしん坊だな。
何かを感じ取ってか全員の眼が座っている。
どうして臨戦態勢?
国家転覆を企む反逆組織の集まりかと疑うぐらい、緊張感のある秘密の会合は開始されたのだった。
誰が始めたのかは知らないが、悪ふざけ感が半端ない。
でも・・・嫌いじゃないんだよね・・・こんな悪ふざけがさ・・・
俺もノリがいいねえ。
結構好物だったりもする。
「皆さん、お集り頂き感謝する」
いつもよりも低い声で話し掛ける。
無言で頷く一同。
場は緊張感が支配していた。
「では会合を始めます」
小さく拍手をしようとしたシルビアちゃんをマリオさんが窘める。
それを見て頷く一同。
そんな雰囲気では無いと意識を共有している。
プッ!だからなんでなんだよ!
この不要な緊張感はどうしてなんだい?
でも俺も悪ふざけに便乗してみようと思う。
だって楽しくなってきちゃったからね。
要らない虫が騒ぎだしているな、ハハハ。
「今やこの領地では、美容院は無くてはならないお店になっているのは、皆さん知っているだろうか?」
ここは敢えて疑問を投げかける事から始めた。
大衆を先導する一つの技術である。
ウンウンと頷く一同。
クロムウェルさんがガバっと立ち上がり、黒板に向かって書記を始めた。
なんという気遣い、流石はプロの執事だ。
頭が下がります。
クロムウェルさんが達筆な文字で何かを書き始めた。
残念ながらこの文字を俺は読むことが出来ない。
たぶん美容院は無くてはならないとでも書いているのだろう・・・
「俺はこの国で最初の美容院を立ち上げた」
「ああ・・・知っているさ・・・」
ライゼルが呟く。
それに頷く一同。
「俺達の今の最大のミッションは美容院『アンジェリ』以外の美容院を造る事にある」
首を傾げる者が数名いた。
そこにマリアベルさんが小さく手を挙げた。
俺は顎を引いて発言を許す。
「それはどうしてなのかしら?」
俺は腕を組んでマリアベルさんを視線に捉える。
席を立って、意味深に歩き周ってみた。
俺の次の発言に注目が集まっている。
「いくつか理由がありますが、敢えてこう言っておきましょう・・・」
決め顔で溜を造ると、誰かが唾を飲み込む、ごくりという音がした。
緊張感は高まっている。
「俺は、この国を美容大国にしたい!」
一瞬の静寂の後に、この発言に慄く一同。
「おおー!」
「なんと!」
「壮大な計画だ!」
「美容大国!凄い!」
あれ?やり過ぎたか?大袈裟だった?まあいいや。
相当な反応だぞ。
いいや、ここはもっと煽ってやれ。
今更悪乗りは止められないしね。
なんだか楽しくなってきちゃったよ。
「この国には今や美容文化が根付き始めている」
ウンウンと頷く一同。
「であれば、これをこの領地独自の文化として発展させる!美容と言えばメイデン、メイデンと言えば美容!そう呼ばれる日は近い!」
俺の煽りに騒ぎ出す一同。
「おおー!」
「いいぞ!ジョニー!」
「有りですわね!」
「素晴らしい!」
俺は手を挙げて場を制する。
この仕切り感も楽しい!
「その為には美容院『アンジェリ』一店舗では、余りにもの足りない!そう思わないか?諸君よ!」
俺も乗って来たぞ!
無茶苦茶面白い!
「メイデン領に来れば、そこら中に美容院があり、そしてその美容院で可愛くなり、美しくなり、そしてカッコよくなる。時代の最先端!流行の発信地!それがメイデン領だ!」
「「「おおー!!!」」」
全員が拳を突きあげていた。
「時代を先どる温泉街ララ!」
俺も拳を突きあげる。
「「「おおーー!!!!」」」
「そうなるべきでは無いだろか?!!!」
大声で扇動する。
「「「おおーーー!!!!!」」」
最大級の拍手を貰ってしまった。
全員が笑顔で微笑ましい。
中にはフンス!と気を入れている者もいた。
モリゾーだけは訳も分からずあたふたしていた。
うん、お前はそれでいいよ。
ていうかお前はこの会合に必要かい?
俺は一度大きく頷くと、意味ありげに視線を漂わせる。
俺の挙動に騒めき立つ一同。
ライゼルに至っては、
「どうしたジョニー!腹でも痛いのか?」
等と頓珍漢なことを言っていた。
俺は当然無視する。
アホかライゼル・・・
眉間に皺を寄せると意味深な表情を浮かべる。
「だが・・・ここで俺達は大きな壁にぶち当たっているのを理解しているか?・・・」
俺の発言に戸惑う者がいた。
数名は頷いている。
「?」
「それはいったい?」
「壁?はて?」
どうやら現状を理解していない者もいるみたいだ。
ここは説明が必要だな。
「どうやら分かっていない者もいるな、ヤンレングスさんお願いします」
俺の指名を受けて立ち上がるヤンレングスさん。
照れているのか、ちょっと顔が赤らんでいる。
頭を掻いて気を紛らわせていた。
「いいか皆なよ、簡単に言うとあれだ。魔道具の仕組みだ、どうやって魔道具が造られて、どうして魔法が発動するのかってことだ」
数名が頷いていた。
合点がいったと手を叩いている者もいた。
「ああ・・・」
「それか・・・」
「それは・・・」
バツが悪そうに頭を掻くヤンレングスさん。
「どうしても美容院の設備には魔道具が必要なんだ、俺みたいな鋳掛屋は、魔道具は造れない、シャンプー台の側は造る事が出来るさ、でもお湯を造りだすことができねえんだ・・・どうしてもよう・・・」
ヤンレングスさんは項垂れている。
「そういうことか・・・」
「水では駄目なのか?」
「そりゃあ駄目だろう」
「でも魔道具の造り方って・・・」
俺は両手を挙げて場を制する。
今日の会合の本番はここからだ。
さあ気合を入れようか。
「分かって貰えるだろうか?これが壁だ!魔道具の造り方、いわばこのトップシークレットを解明しない限り、この国は美容大国にはなれない!」
俺の発言に動揺を隠さない一同。
「なっ!・・・」
「そんな・・・」
「トップシークレット・・・」
考え込みだした一同。
どうしたものかと頭を抱えている者もいた。
その時すまなさそうに小さく手を挙げるクロエちゃんがいた。
ん?・・・
俺に視線で促されて訥々と話しだしたクロエちゃん。
随分と気まずそうにしている。
「あの・・・私・・・魔道具の仕組み・・・知ってます・・・」
その発言に場が凍り付いた。
あの冷静沈着なユリメラさんまで、劇画タッチの驚き顔になっていた。
ライゼルに至っては椅子からずり落ちていた。
「「「エエエーーー!!!」」」
この言葉と共に全員が椅子から転げ落ちていた。
ドリフかよ・・・
次行ってみよう!
こうして事も投げに魔道具のトップシークレットは解明されていくことになった。
身近にアウトローな魔導士がいたじゃんよ!
上手く行き過ぎじゃない?
この会合は開いて正解だったのかな?
どうだろうか?
これって棚ぼただよね?・・・
魔道具の仕組みは案外簡単だった。
結局はそんな物なのかもしれない。
疑問となるのは、なぜトップシークレットになっているのかということだ。
何かしらの理由があるのだろうが、俺にはいまいちその理由がよく分からなかった。
ずばり言うと、魔道具の仕組みの肝は魔鉱石と魔法陣だった。
魔鉱石とはその名の通り、魔法の石だ。
魔鉱石には魔力が詰まっているらしい。
聞く所によると、この魔鉱石はそれなりに万能だった。
魔鉱石は結構そこら中に存在するのだが、その存在を知られていない為、適当に扱われているみたいだ。
その価値を知らなければ、そうなるのだろう。
適当に道端に転がっていることも儘あるらしい。
この価値を知ったならば・・・経済力を得る者もいるのだろうね。
出来れば恵まれない子達に教えてあげたい。
それぐらいの仏心は俺も持っている。
要らない世話だろうか?
魔鉱石は魔力が閉じ込められているらしく、それに触れたり、接触する事によって魔法が発動できるらしい。
つまり、魔力を持っていなくても魔法が発動できるという話だ。
だから魔道具は誰でも使えるということになる。
単的にに言うと家電とあまり違いはない。
どうしてそんな事が起きるのかは、魔導士でもいまいち解明できていないらしい。
俺ならそこが気になって仕方がないのだが・・・
魔導士さん達よ、ちゃんと研究しなさいよ・・・
此処を解明しないとさ・・・
魔法には呪文を唱えて発動する方法と、魔法陣を用いて発動する方法がある。
簡単な話として魔法陣に魔法を封じ込めることが可能とのこと。
まあ異世界物でよくある話だよね。
魔法陣って・・・本当にあるんだね。
興味深々だよ俺は。
俺も魔法が使いたいなー。
俺の想像としては、魔鉱石は云わば電池みたいな物ではないかと思われる。
というのも、使用上限があるらしく、ある一定の使用回数を超えると魔法が発動出来無くなるらしい。
要は魔力切れだね。
その為、魔鉱石は指向性を持たせた電池であると考えられた。
多少強引な理屈ではあるが、そう考えると話が早い。
そして魔法その物を閉じ込めているのが魔法陣だ。
魔道具には外から見えない箇所に、魔法陣が仕込まれているらしい。
その魔法陣に触れる形で魔鉱石が組み込まれている。
知ってしまえばどうってことない仕組みだった。
懐中電灯で例えるならば、懐中電灯その物の構造は魔法陣、そして電池が魔鉱石だ。
スイッチを入れれば光が発せられる。
そんな仕組みに他ならない。
因みに魔法陣は魔力を持たない一般の者が描いた場合、魔法は封じ込められないらしい。
ここは魔導士にしか出来ない芸当の様だ。
とても残念だ・・・
俺も魔法陣を覚えたかったよ・・・
そうクロエちゃんが教えてくれた。
でもこれはある意味大きな意味があると俺は気づいてしまった。
当のクロエちゃんはそれに気づいていない様子。
どう言う事かというと、魔力があるか無いかをこれで判別できると俺は悟ってしまったのだ。
要は魔法陣を書かせれば、その人に魔法の適性があるのかを判別できることになるからだ。
簡単な理屈だがそうなることに変わりは無いだろう。
ここは敢えて踏み込まないでおこうと思う。
俺はどうなんだろうか?
魔法陣を書いてみようかな?
たぶん無理だと思う・・・
それにしても、余りにあっさりとクロエちゃんが魔道具の仕組みを教えてくれたことには正直驚いている。
どうしてなんだろうか?
少々不用心にも感じるけど。
折角だからその疑問をクロエちゃんにぶつけてみた。
「ねえクロエちゃん、こんなに簡単に教えちゃって大丈夫なの?ちょっと心配なんだけど・・・マリアベルさんもよろしいので?」
ある意味保護者のマリアベルさんにも尋ねてみた。
「はい、一向に構いません!」
クロエちゃんは何かを決心した眼をしていた。
「私はクロエに任せますわよ」
マリアベルさんはクロエちゃんに一任している模様。
この二人の信頼感は絶大だからね。
「そうなの?」
俺はクロエちゃんに問いかける。
「ええ、そもそもこの魔道具の仕組みを公開されていない事に私は思う処があったんです」
立ち上がると、演説でも始めるかの様にウロウロと歩きだしたクロエちゃん。
随分と積極的だなあ。
どうしたどうした?
「というと?」
「魔道具の利権を魔導士達が抱え込んで離さないことがどうにも許せないのですよ!私は!」
「なるほど・・・」
要は利権の独占だな、言いたいことは分かる。
「利権を独占しても良いことなんてありませんよ!一部の者達だけが得を得る、実につまらないです!」
クロエちゃんは拳を握りしめていた。
おお!この子ってこんな一面があったんだね。
情熱的でいいじゃないか。
俺は好きだよこういうの。
「だからジョニー店長の競合を造ろう作戦を、私は大いに賛同しています、公明正大で素晴らしいです!」
いや・・・ちょっと違うと思うよ。
俺は自分本位で競合を造りたい事に変わらないからね。
でもここは乗っかっておこう・・・
「ハハハ!ありがとう!」
顔が引き攣って無い事を祈ろう。
「それに私は魔導士ですけど、領で召抱えられている魔導士達が本当に好きではありません!」
「へえー、そうなんだ」
クロエちゃんは相当鬱憤が溜まっているのか、三白眼をしていた。
「あいつらは自尊心が高くて、傲慢で、強欲で、はっきり言ってムカつくんですよ!その癖自己顕示欲の塊!あー、ムカつく!」
今にも頭から湯気が立ち昇りそうだ。
「まあまあ、落ち着いて、ね?」
宥めるしかないな、ここは。
「ええ!・・・何にしても私は口を噤みませんよ!魔道具の仕組みを教えますし、なんなら魔法陣の書き方もお話しますよ!」
「いや、魔法陣の書き方を教わっても意味が無いんじゃないの?」
ちょっと勢いが過ぎるよね・・・冷静になろうよ。
「・・・そうでした」
はっと我に返るクロエちゃん。
「何にしても助かるよ」
「それと・・・ご相談があります・・・」
意味深に俺を見つめるクロエちゃん。
俺達のやり取りを黙って見守る一同。
「相談とは?」
「実は野良の魔導士や、魔法が使用できる様になっても、それを隠している者はそれなりにいます」
「ほう・・・」
これは風向きが変わりかねないね。
なんでそれを知っているのかという疑問も同時に浮かんできたが、今はそこはいいだろう。
「そこで国王様にも一目置かれているジョニー店長からの提言であれば、法律を変えることが出来ないかと思うのですが、如何でしょうか?」
法律の改定か・・・
これは大ごとだぞ・・・
「俺が?」
なんだか面倒臭い話になってきたな。
クロエちゃんの隣でマリアベルさんも頷いていた。
まあ話ぐらいは出来るけどさ・・・
俺がやらなきゃ駄目なのか?
そうなんでしょうね・・・
まあやるだけやってみましょうかね。
こうなったからには引けないしね。
はあ・・・しょうがねえな・・・

