夜の賄いの時間。
「どんな屋台を出店するおつもりですか?」
シルビアちゃんから無遠慮に質問が飛んでくる。
どうしてこんな質問を受ける事になったのやら・・・どうしてこうなった?
「・・・どうしよっか?」
「私、あれがいいです!今川焼!」
はいはい、そう言うと思ってましたよ。
「それはシルビアちゃんが食べたいだけだろう?」
「エヘヘ・・・分かっちゃいました?」
分かるに決まっているでしょうが、シルビアちゃんは甘味中毒ですからね。
「でも屋台となれば、どうしても食事の提供になってしまうのではないでしょうか?」
クリスタルちゃんから至極当然の提案がなされる。
「でもねえ・・・家は確かに夜にはバーの営業はしているけどさ。本業は美容院だよ?」
「ですよね・・・」
「美容院の屋台ですか?」
マリアンヌさんも首を傾げている。
「それがいまいちピンとこないんだよね・・・」
シルビアちゃんが手を挙げる。
「シャンプーをするのはどうですか?」
「シルビアちゃん・・・屋台でどうやってシャンプーをするのさ、シャンプー台は持ち運べないし、店内で行うとしたらそれはもう只の通常営業だよ」
「・・・やっぱり」
この子ワザとふざけてんな。目が笑いっぱなしじゃねえか。
ライゼルの悪い影響を受けて無いだろうな?
甚だ疑問だ。
「困ったなー」
何ともしがたい。
美容院が屋台って、何が出来るのだろうか?
そんな話、聞いたこともないよ・・・
本日の営業中のこと。
昼過ぎに我が物顔で店内に入ってきたギルドマスターのバッカスは、いきなりこう告げた。
「ジョニー!営業中にすまねえな!」
遠慮も無くズカズカと店内に踏み込んでくる。
「すまないと思うなら帰って下さい、施術中ですよ」
視線すらも合わせる事無く追い帰そうとするジョニー。
其処には遠慮など存在しない。
お店の営業を邪魔するなら排除も辞さないと、ジョニーの無言のプレッシャーが撒き散らされていた。
「うっ!・・・そこを何とか」
鏡越しにバッカスを睨みつけるジョニー。
両手を合わせて首を窄めるバッカス。
肩を降ろして、しょうがないなと顎を引いて、どうぞ話して下さいと訴えるジョニー、でも視線はお客さんの髪に向き直っている。
集中を切らすことなく、カットの施術を継続していた。
「実はな、2週間後から3日間お祭りを開催する事が決定してな」
「へえー、何処でですか?」
他人事の様に受け答えしている。
「そりゃあこの温泉街ララに決まってるだろう」
「はあ?」
鏡越しにバッカスをチラ見するジョニー。
「このお祭りは、領民に対して温泉街ララのお披露目も兼ねてるって事だ、伯爵からも盛大にやってくれと太鼓判を押されている」
「・・・」
眉を顰めて嫌そうな顔をするジョニー。
「そこでだ、お祭りといったら屋台だ」
「でしょうね・・・」
「美容院『アンジェリ』も屋台を出店してくれ」
「否です」
間髪入れずに返事をするジョニーにたじろぐバッカス。
「二言返事で断るなよ・・・」
「だって、二週間後なんて予約で埋まってて、屋台の営業なんて出来る筈無いじゃないですか、美容院舐めてます?」
当然の事と切り捨てるジョニー。
髪を切るハサミは止まらない。
「そこを何とかさ、知恵と工夫でどうにかしてくれるよな?」
「・・・簡単に言いますね」
鏡越しに睨みつけるジョニー。
流石のギルマスもこの視線には堪えられそうもない。
視線を外すと徐に話し出すバッカス。
ここは引くわけにはいかないと、一矢報いようと必死になっていた。
「実際の処、お前はこの温泉街の顔役だ、『アンジェリ』が出店しないなんて、そんなつまらん祭りはねえだろう?街の皆のテンションが駄々下がっちまうぞ」
どうだろうかとジョニーの表情を伺うバッカス。
「俺が街の顔役?いい加減にしてくださいよ」
吐き捨てるジョニー。
まだだと諦めないバッカス、随分と肝が据わっている。
流石はギルマスだとここは褒めておこう。
「なんだ?ジョニー、お前自覚は無いのか?温泉街ララの最古参が美容院『アンジェリ』なんだぞ、それが顔役じゃないって方が可笑しいじゃねえか」
してやったりのバッカス、口元が緩んでいる。
ジョニーの気性を逆手に寄った発言だった。
というのも、ジョニーは連帯感や空気を読む傾向にある。
それを逆撫でするバッカスは天晴だった。
こうなると引くに引けないジョニー。
「うっ・・・確かに・・・」
一本取られたと悔しがっていた。
「と、言う事で宜しく頼むわな」
ここが瀬戸際と、手を挙げると早々と踵を返すバッカス。
「ッチ!・・・」
バッカスは最後に振り替えるとこう言い放った、
「そうだ、クロムウェルの旦那には、もう了承を得ているからな」
「はい?」
「まあ、そう言う事で」
バッカスは自分の要件だけを伝えると颯爽と逃げ帰っていった。
もうこれ以上ここに居てはいけないと、本能的に察している様だった。
その選択は正しい。
そもそも俺は美容院が屋台を出店したなんて話は、これまで日本でもあまり聞いたことがない。
だって美容院が屋台だよ?ほど遠く無いかい?
一度だけ斬新だなと感じたのは、音楽フェスの屋台で、カットを行っているのを拝見した事があるぐらいだ。
商魂逞しいなと思ったものだよ。
そんなに宣伝がしたいのかと・・・
でもそれは今回には当て嵌まらないと思う、だって只の通常営業の延長線じゃんよ。
そうはいかないよね。
只の延長営業は屋台じゃないよね?
俺はそう考えるのだが・・・
「そもそもさあ、お店で俺達は手が離せない訳じゃない、どうしろってんだよ。なんで屋台を出店しないといけないの?」
「じゃあ援軍を頼みましょう」
シルビアちゃんが事も無げに言う。
「援軍?」
「家の父と母なんてどうでしょうか?」
「いやいや、マリオさんもイングリスさんも忙しいでしょうよ」
「いいえ、そうでもありません」
「どういうこと?」
「兄が返ってきてから現場の指揮は兄が取っていますので、父と母は案外暇だと零していました」
へえー、そうなんだ・・・てかそうなると、あの人達は暇してお店に遊びに来そうなんだけど・・・それもどうなのよ・・・
「そうなの?でもさあ・・・イングリスさんなら未だしも、マリオさんに美容師って無く無いか?」
だってあのマリオさんだよ?禿げを克服したマリオさんだよ?
「それは父には夜のバー『アンジェリ』の屋台を手伝ってもらうとか?」
俺はここに違和感を感じた。
「ん?ちょっと待って!えっ!俺達は美容院とバーと両方屋台を出店しないといけないってこと?」
どんだけ働かせるつもりなんだよ。
ふざけんな商人ギルド!
訴えるぞ!
「あれ?違うんですか?クロムウェルさんは温泉宿と美容院とバーの屋台が出店する事になっているって言ってましたよ」
増えてんじゃんよう!
ふざけやがって、あのおっさん!
勝手に安ウケあいしやがったな!
しれっと背後おじさん!
「はい?」
周りを見渡すも、こういう時に限ってあの人は居ないんだよね。
都合の良い事だよ。
何を勝手に請け負ってくれてんのさ!クロムウェルさんよう!
どうしろってんだよ、全く。
無茶ぶりが過ぎるでしょうが?くそぅ!・・・
「・・・ちょっと考えさせて貰えるかな?」
これは本当に困ったぞ・・・
「母と父にはなんと言っておけばいいですか?」
「そうだな・・・力をお借りしますとだけ伝えといてくれるかな?」
はあ・・・どうしようか・・・
「畏まりました」
こうしてこの日の屋台の会話は終了した。
もう、練習しようよ、練習をさ。
屋台の事は忘れたいよ・・・ふう・・・
頭を捻って色々と考えてみた結果、何とかなりそうなプランが出来上がったが、問題は人員の少なさだった。
でもその問題は物の見事に解決してしまった。
人脈って凄いね。
「母が後二人援軍を用意できたと言っていました!」
おお!これは助かる。
これで援軍は四人となる。
本当はもう二人は欲しいが、この際だ、文句は言わまいよ。
イングリスさんとその知り合いであろう二人と、ドM眼鏡ことアイレクスさんである。
ドM眼鏡は俺の応援要請に、眼を蘭々とさせていた。
何でなのかはよく分からない。
まあ、こちらとしては助かるのだが。
というか絶対に必要な戦力である。
髪結いさんは必要でしょうよ。
そして都合四名の応援部隊が一週間後の営業時間後に、アンジェリに集まっていた。
なんとその顔触れは、イングリスさん、ドM眼鏡、マリアベルさん、クロエちゃんだった。
どうして伯爵の第一夫人が混じってんのさ・・・あんたお転婆が過ぎるでしょうが・・・何かあっても俺は知らねえぞ!
一番やる気に満ちているのは気の所為か?
現に肩を回しているのだが・・・
いつもの町娘スタイルで、お店のスタッフ全員とハイタッチしているし。
あれまあ、どうにもお転婆ですねえ。
心強いですけれども・・・もういいや・・・
俺はこの急造の弟子達の特訓を開始した。
スイッチを入れて気合を入れましたよ。
とある施術をこの四人には覚えて貰うことになる。
ここは相手が誰であっても俺は一切手を抜かない。
俺の気迫に緊張の面持ちの四人。
では始めようか。
特訓開始!
因みに施術を受けるモニターは、家のスタッフに加えて、クリスタルちゃんのお母さんだ。
クリスタルちゃんのお母さんの名はベリクルーズさん。
今では病気は完治し、精力的に働いてくれている。
クロムウェルさんに言わせると、欠かせない戦力なのだとか。
始めて会った時の命の灯が消えてしまいそうな、心許なさは全く感じない。
温泉宿『アンジェリ』でバリバリと働く給仕長である。
この四人のモニター相手に、技術の習得に励む急造の弟子達。
俺は腕を組んで鬼軍曹と化していた。
やはりここは髪結いさんのドM眼鏡が抜きに出ていた。
でも他の三人も立派なものだ、それなりに熟していた。
良し!これならばなんとかなるだろう。
そして俺はリックとライゼルと協議を重ねた。
夜のバー『アンジェリ』としてどんな屋台にすべきかと。
喧々諤々と話し合いを行い。
試食や試飲を重ねて。
時にはどうでもよくなって酩酊したりもした・・・
要はグダグダだ。
これはお決まりだな。
まあ楽しい時間を過ごすことに成ったよ。
あー、でも、二日酔いは勘弁して欲しいよ・・・
頭が痛い・・・それに気持ち悪い・・・ライゼルの馬鹿め、アホ程飲ませやがって・・・
まあ逆に潰してやったけどね・・・
あのアホめ・・・庭先で吐いてやがったな・・・
バー『アンジェリ』の屋台はこうなった。
提供するのはワインとピザである。
生ビールは屋台で提供するのは難しく、今回は断念した。
そしてピザはなんと、ピザ窯を用意することになった。
とは言っても、レンガを組み立てる様な本格的なピザ窯ではない。
ここは簡易的な物を扱う事になった。
それはロ●スのピザ窯だった。
それを四台準備した。
バーベキュー好きの人は知っているかもしれないが、バーベキューコンロとして、ピザ窯があるのだ。
それを購入し、試行錯誤を重ねてピザの提供が出来るまでに至った。
それなりの出費になってしまったよ、全く・・・
まあ今後もバーで使うからいいけどもさ・・・
そしてピザの提供だけに留まらない。
それはピザ窯の上部に、ダッジオーブンを設置し、同時に調理できる仕組みになっているのだ。
そのダッジオーブンで造られる料理はカレーである。
ライゼルが愛して止まないカレーライスが提供されるのだ。
そのお米も飯盒で炊かれている。
最早これ以上のキャンプ飯があるのかと自慢できる一品となった。
詰まる所、ピザとカレーライスを提供する屋台であった。
具材等は出来る限り、この異世界で準備した。
残念ながらカレールウだけは無理だった。
ここは後日、暇が有ったらトライしてみたい。
でもこれは時間が掛かりそうだな・・・
カレーを一から造るのって・・・絶対日本では連れ合いの女性から嫌がられるだろうな。
まあ、いないからいいけど・・・
ピザ生地に関しては少々妥協するしかなかったが、提供できるレベルにはなった。
小麦と大麦が手に入ったからね。
温泉街ララの八百屋さん、お肉屋さん、そして食品の卸問屋さんから、本当にこんなに要るの?というぐらいたくさん食品の仕入れを行った。
残ったら当分の間、夜の賄いはピザだな。
それでいいでしょうよ、人気が高い賄い飯だしね。
リック達は連日ピザの仕込みに大忙しだった。
ピザ生地は寝かせないといけないからね。
更にピザ窯でピザを焼く特訓を行っていた。
なにがなんでも繁盛させると、ライゼルの鼻息は荒かった。
モリゾーもなんとかついて行こうと必死になっていたが、こいつが戦力に成ったのかは定かではない。
だって、今も何をしていいのか分からずに、右往左往しているし・・・足だけは引っ張るなよ。
クロムウェルさんがどんな屋台を出店するのかを俺は知らない。
特に相談されなかったし、勝手に屋台の出店を請け負っていたからね。
手伝う必要なんかないでしょう、あの人なら無難にやり切る筈だ。
いつも通りの完全な丸投げですよ。
それでいいでしょうよ。
バー『アンジェリ』チームの屋台は、ライジングサン一同、プラスマリオさんに加えて、マリオ商会から数人の協力者を加えた、ちぐはぐチームが結成されていた。
でも実際の屋台の営業を見ていると、ちぐはぐ感は全く無かった。
やはりマリオさんは熟練の商人だ。
その接客技術を活かして、常にフロントに立って屋台をコントロールしていた。
お客の呼び込みから誘導まで、何でも熟していた。
そして事実上のリーダーのリックは、全体を見まわして的確な指示を行っていた。
屋台全体が調和の取れた統制された動きをしている。
モリゾーは・・・敢えて言うまい。
結果的にいうと、これが恐ろしく売れていた。
実際の処、この屋台の売上ランキングはぶっちぎりの一位だった。
ピザとカレーライスが飛ぶ様に売れていた。
ピザの提供が間に合わず、リックが美容院の営業中にも関わらず、ピザを抱えてバックルームでオーブントースターを使う事態になり。
挙句の果てには米の炊き上がりが間に合わず、サ●ウのご飯をレンチンしている始末。
それでも何とかやり切ったと、ライゼルは偉そうにしていた。
お前が頑張った訳じゃねえだろうが!リックとマリオさんを敬え!
何度かどうしようかと困って、手が止まっているのを見かけたぞ!
俺の眼は誤魔化せねえぞ!
国に帰れ!全く!
温泉街『アンジェリ』の屋台では、温泉卵と温泉グッズが販売されていた。
温泉グッズとはタオルとシャンプー、そしてリンスであった。
それを我物顔でにこやかに販売するクロムウェルさんに、思わず舌打ちをしてしまったよ。
でもこの温泉卵は美味しいだけでは無く、もしかしたら万病に効くのでは?
との噂が絶えない、実に総合感冒薬になってしまうのだが、それはご愛敬としておこう。
本当にこの温泉は規格外だな。
流石は異世界だ。
日本の常識を遥かに超えている。
にしても、温泉卵旨いんだよねー。
塩を振って食べると最高だよ。
醤油も欠かせない。
もう虜だよ・・・
そして美容院『アンジェリ』の屋台はというと・・・
髪を縛るヘアゴムとシュシュを販売する屋台を出店していた。
それもただ販売するだけでは無い。
別料金を払えば、その場で髪を縛って貰えるのだ。
要はシュシュを購入し、その場で購入したシュシュで髪をセットして貰える。
我ながら良い秘策を思いついたものだよ。
これならば美容院の屋台と言っても通用する。
だよね?間違っているかい?
そして俺はこれまでに店販商品として、何度かこのヘアゴムとシュシュの販売を検討したことがあったが、爆発的に売れる事は確信していた為、これまで取っておいたのだ。
通常営業でこれをやってしまっては、お店が周らなくなるのは一目瞭然。
美容商材屋に成り代わってしまう。
であればここぞとばかりに販売してしまおうと、ここでこのプランを採用することにしたのだ。
この異世界には圧倒的に無いものはゴムである。
ゴムを使った商品や商材を観た試しがない。
ゴムの木があってもそれを抽出する技術が無いのかもしれないし、そもそもゴムの木が無いのかもしれない。
それにゴムは石油由来の物もあるからね。
簡単には加工は出来ない代物なのだ。
この異世界では髪を縛るのは紐やリボンを使っている。
そうなると髪を縛るのも一苦労だろう。
そこで、応援部隊の四人には髪をセットするのと同時に、髪の縛り方もお客さんに教える事をミッションにしたのだ。
ヘアゴムやシュシュであれば、ちょっとコツを教えれば、簡単に髪を縛る事が出来る筈だ。
やって貰うだけでなく、その後もちゃんと使えるようにってね。
そしてセットする髪形は二つに限定した。
それはツインテールとポニーテールだ。
四人にはこれを一週間に渡って習得するだけでは無く、コツを教える指導の仕方も叩き込んだ。
ドM眼鏡は出来て当然、自慢げにしていたので弄ってやったら恍惚の表情を浮かべていた。
しまった・・・こういう奴だった。
マリアベルさんは手先が器用なのか直ぐに習得していた。
たいしたもんです。
イングリスさんは実は帰ってからも、シルビアちゃん相手に練習に励んでいたらしい。
真面目ですねえ、流石はシルビアちゃんの母親だね。
クロエちゃんはそもそも出来ていた。
何でだろうか?と思っていた所、実はクロエちゃんはマリアベルさんの髪結いを行っていたらしい。
なるほどと頷ける話であった。
でも確かクロエちゃんって、妹じゃなくて・・・護衛兼メイドじゃなかったっけ?・・・
まあいいや。
美容院『アンジェリ』の屋台は爆発的に売れた。
屋台の売上ランキングは、バー『アンジェリ』とワンツーフィニッシュだった。
実はヘアゴムとシュシュは大量に仕入れたにも関わらず、シュシュは初日に売り切ってしまい。
急遽美容商材屋の森君に無理をいって、倉庫内にあるシュシュを全部持って来てくれ!と緊急オーダーをすることになってしまっていた。
初日から俺達美容院『アンジェリ』のスタッフも、お店の営業時間終了後には、屋台を手伝う羽目になってしまった。
二日目からは数名の髪結い組合の会員さん達が手伝いに来てくれた。
本当に助かる。
それでも数名のお客さんは、待ち時間が無いと残念ながら下を向いて帰っていった。
申し訳ないがこれ以上は無理です。
完全にキャパオーバーです。
翌日、美容院『アンジェリ』に現れたバッカスさんの万遍の笑顔を見る限り、お祭りは大成功だったと思う。
もしかして来年も開催するのか?
次は辞退したい・・・無理だよね?
ハハハ・・・疲れたよ・・・
「どんな屋台を出店するおつもりですか?」
シルビアちゃんから無遠慮に質問が飛んでくる。
どうしてこんな質問を受ける事になったのやら・・・どうしてこうなった?
「・・・どうしよっか?」
「私、あれがいいです!今川焼!」
はいはい、そう言うと思ってましたよ。
「それはシルビアちゃんが食べたいだけだろう?」
「エヘヘ・・・分かっちゃいました?」
分かるに決まっているでしょうが、シルビアちゃんは甘味中毒ですからね。
「でも屋台となれば、どうしても食事の提供になってしまうのではないでしょうか?」
クリスタルちゃんから至極当然の提案がなされる。
「でもねえ・・・家は確かに夜にはバーの営業はしているけどさ。本業は美容院だよ?」
「ですよね・・・」
「美容院の屋台ですか?」
マリアンヌさんも首を傾げている。
「それがいまいちピンとこないんだよね・・・」
シルビアちゃんが手を挙げる。
「シャンプーをするのはどうですか?」
「シルビアちゃん・・・屋台でどうやってシャンプーをするのさ、シャンプー台は持ち運べないし、店内で行うとしたらそれはもう只の通常営業だよ」
「・・・やっぱり」
この子ワザとふざけてんな。目が笑いっぱなしじゃねえか。
ライゼルの悪い影響を受けて無いだろうな?
甚だ疑問だ。
「困ったなー」
何ともしがたい。
美容院が屋台って、何が出来るのだろうか?
そんな話、聞いたこともないよ・・・
本日の営業中のこと。
昼過ぎに我が物顔で店内に入ってきたギルドマスターのバッカスは、いきなりこう告げた。
「ジョニー!営業中にすまねえな!」
遠慮も無くズカズカと店内に踏み込んでくる。
「すまないと思うなら帰って下さい、施術中ですよ」
視線すらも合わせる事無く追い帰そうとするジョニー。
其処には遠慮など存在しない。
お店の営業を邪魔するなら排除も辞さないと、ジョニーの無言のプレッシャーが撒き散らされていた。
「うっ!・・・そこを何とか」
鏡越しにバッカスを睨みつけるジョニー。
両手を合わせて首を窄めるバッカス。
肩を降ろして、しょうがないなと顎を引いて、どうぞ話して下さいと訴えるジョニー、でも視線はお客さんの髪に向き直っている。
集中を切らすことなく、カットの施術を継続していた。
「実はな、2週間後から3日間お祭りを開催する事が決定してな」
「へえー、何処でですか?」
他人事の様に受け答えしている。
「そりゃあこの温泉街ララに決まってるだろう」
「はあ?」
鏡越しにバッカスをチラ見するジョニー。
「このお祭りは、領民に対して温泉街ララのお披露目も兼ねてるって事だ、伯爵からも盛大にやってくれと太鼓判を押されている」
「・・・」
眉を顰めて嫌そうな顔をするジョニー。
「そこでだ、お祭りといったら屋台だ」
「でしょうね・・・」
「美容院『アンジェリ』も屋台を出店してくれ」
「否です」
間髪入れずに返事をするジョニーにたじろぐバッカス。
「二言返事で断るなよ・・・」
「だって、二週間後なんて予約で埋まってて、屋台の営業なんて出来る筈無いじゃないですか、美容院舐めてます?」
当然の事と切り捨てるジョニー。
髪を切るハサミは止まらない。
「そこを何とかさ、知恵と工夫でどうにかしてくれるよな?」
「・・・簡単に言いますね」
鏡越しに睨みつけるジョニー。
流石のギルマスもこの視線には堪えられそうもない。
視線を外すと徐に話し出すバッカス。
ここは引くわけにはいかないと、一矢報いようと必死になっていた。
「実際の処、お前はこの温泉街の顔役だ、『アンジェリ』が出店しないなんて、そんなつまらん祭りはねえだろう?街の皆のテンションが駄々下がっちまうぞ」
どうだろうかとジョニーの表情を伺うバッカス。
「俺が街の顔役?いい加減にしてくださいよ」
吐き捨てるジョニー。
まだだと諦めないバッカス、随分と肝が据わっている。
流石はギルマスだとここは褒めておこう。
「なんだ?ジョニー、お前自覚は無いのか?温泉街ララの最古参が美容院『アンジェリ』なんだぞ、それが顔役じゃないって方が可笑しいじゃねえか」
してやったりのバッカス、口元が緩んでいる。
ジョニーの気性を逆手に寄った発言だった。
というのも、ジョニーは連帯感や空気を読む傾向にある。
それを逆撫でするバッカスは天晴だった。
こうなると引くに引けないジョニー。
「うっ・・・確かに・・・」
一本取られたと悔しがっていた。
「と、言う事で宜しく頼むわな」
ここが瀬戸際と、手を挙げると早々と踵を返すバッカス。
「ッチ!・・・」
バッカスは最後に振り替えるとこう言い放った、
「そうだ、クロムウェルの旦那には、もう了承を得ているからな」
「はい?」
「まあ、そう言う事で」
バッカスは自分の要件だけを伝えると颯爽と逃げ帰っていった。
もうこれ以上ここに居てはいけないと、本能的に察している様だった。
その選択は正しい。
そもそも俺は美容院が屋台を出店したなんて話は、これまで日本でもあまり聞いたことがない。
だって美容院が屋台だよ?ほど遠く無いかい?
一度だけ斬新だなと感じたのは、音楽フェスの屋台で、カットを行っているのを拝見した事があるぐらいだ。
商魂逞しいなと思ったものだよ。
そんなに宣伝がしたいのかと・・・
でもそれは今回には当て嵌まらないと思う、だって只の通常営業の延長線じゃんよ。
そうはいかないよね。
只の延長営業は屋台じゃないよね?
俺はそう考えるのだが・・・
「そもそもさあ、お店で俺達は手が離せない訳じゃない、どうしろってんだよ。なんで屋台を出店しないといけないの?」
「じゃあ援軍を頼みましょう」
シルビアちゃんが事も無げに言う。
「援軍?」
「家の父と母なんてどうでしょうか?」
「いやいや、マリオさんもイングリスさんも忙しいでしょうよ」
「いいえ、そうでもありません」
「どういうこと?」
「兄が返ってきてから現場の指揮は兄が取っていますので、父と母は案外暇だと零していました」
へえー、そうなんだ・・・てかそうなると、あの人達は暇してお店に遊びに来そうなんだけど・・・それもどうなのよ・・・
「そうなの?でもさあ・・・イングリスさんなら未だしも、マリオさんに美容師って無く無いか?」
だってあのマリオさんだよ?禿げを克服したマリオさんだよ?
「それは父には夜のバー『アンジェリ』の屋台を手伝ってもらうとか?」
俺はここに違和感を感じた。
「ん?ちょっと待って!えっ!俺達は美容院とバーと両方屋台を出店しないといけないってこと?」
どんだけ働かせるつもりなんだよ。
ふざけんな商人ギルド!
訴えるぞ!
「あれ?違うんですか?クロムウェルさんは温泉宿と美容院とバーの屋台が出店する事になっているって言ってましたよ」
増えてんじゃんよう!
ふざけやがって、あのおっさん!
勝手に安ウケあいしやがったな!
しれっと背後おじさん!
「はい?」
周りを見渡すも、こういう時に限ってあの人は居ないんだよね。
都合の良い事だよ。
何を勝手に請け負ってくれてんのさ!クロムウェルさんよう!
どうしろってんだよ、全く。
無茶ぶりが過ぎるでしょうが?くそぅ!・・・
「・・・ちょっと考えさせて貰えるかな?」
これは本当に困ったぞ・・・
「母と父にはなんと言っておけばいいですか?」
「そうだな・・・力をお借りしますとだけ伝えといてくれるかな?」
はあ・・・どうしようか・・・
「畏まりました」
こうしてこの日の屋台の会話は終了した。
もう、練習しようよ、練習をさ。
屋台の事は忘れたいよ・・・ふう・・・
頭を捻って色々と考えてみた結果、何とかなりそうなプランが出来上がったが、問題は人員の少なさだった。
でもその問題は物の見事に解決してしまった。
人脈って凄いね。
「母が後二人援軍を用意できたと言っていました!」
おお!これは助かる。
これで援軍は四人となる。
本当はもう二人は欲しいが、この際だ、文句は言わまいよ。
イングリスさんとその知り合いであろう二人と、ドM眼鏡ことアイレクスさんである。
ドM眼鏡は俺の応援要請に、眼を蘭々とさせていた。
何でなのかはよく分からない。
まあ、こちらとしては助かるのだが。
というか絶対に必要な戦力である。
髪結いさんは必要でしょうよ。
そして都合四名の応援部隊が一週間後の営業時間後に、アンジェリに集まっていた。
なんとその顔触れは、イングリスさん、ドM眼鏡、マリアベルさん、クロエちゃんだった。
どうして伯爵の第一夫人が混じってんのさ・・・あんたお転婆が過ぎるでしょうが・・・何かあっても俺は知らねえぞ!
一番やる気に満ちているのは気の所為か?
現に肩を回しているのだが・・・
いつもの町娘スタイルで、お店のスタッフ全員とハイタッチしているし。
あれまあ、どうにもお転婆ですねえ。
心強いですけれども・・・もういいや・・・
俺はこの急造の弟子達の特訓を開始した。
スイッチを入れて気合を入れましたよ。
とある施術をこの四人には覚えて貰うことになる。
ここは相手が誰であっても俺は一切手を抜かない。
俺の気迫に緊張の面持ちの四人。
では始めようか。
特訓開始!
因みに施術を受けるモニターは、家のスタッフに加えて、クリスタルちゃんのお母さんだ。
クリスタルちゃんのお母さんの名はベリクルーズさん。
今では病気は完治し、精力的に働いてくれている。
クロムウェルさんに言わせると、欠かせない戦力なのだとか。
始めて会った時の命の灯が消えてしまいそうな、心許なさは全く感じない。
温泉宿『アンジェリ』でバリバリと働く給仕長である。
この四人のモニター相手に、技術の習得に励む急造の弟子達。
俺は腕を組んで鬼軍曹と化していた。
やはりここは髪結いさんのドM眼鏡が抜きに出ていた。
でも他の三人も立派なものだ、それなりに熟していた。
良し!これならばなんとかなるだろう。
そして俺はリックとライゼルと協議を重ねた。
夜のバー『アンジェリ』としてどんな屋台にすべきかと。
喧々諤々と話し合いを行い。
試食や試飲を重ねて。
時にはどうでもよくなって酩酊したりもした・・・
要はグダグダだ。
これはお決まりだな。
まあ楽しい時間を過ごすことに成ったよ。
あー、でも、二日酔いは勘弁して欲しいよ・・・
頭が痛い・・・それに気持ち悪い・・・ライゼルの馬鹿め、アホ程飲ませやがって・・・
まあ逆に潰してやったけどね・・・
あのアホめ・・・庭先で吐いてやがったな・・・
バー『アンジェリ』の屋台はこうなった。
提供するのはワインとピザである。
生ビールは屋台で提供するのは難しく、今回は断念した。
そしてピザはなんと、ピザ窯を用意することになった。
とは言っても、レンガを組み立てる様な本格的なピザ窯ではない。
ここは簡易的な物を扱う事になった。
それはロ●スのピザ窯だった。
それを四台準備した。
バーベキュー好きの人は知っているかもしれないが、バーベキューコンロとして、ピザ窯があるのだ。
それを購入し、試行錯誤を重ねてピザの提供が出来るまでに至った。
それなりの出費になってしまったよ、全く・・・
まあ今後もバーで使うからいいけどもさ・・・
そしてピザの提供だけに留まらない。
それはピザ窯の上部に、ダッジオーブンを設置し、同時に調理できる仕組みになっているのだ。
そのダッジオーブンで造られる料理はカレーである。
ライゼルが愛して止まないカレーライスが提供されるのだ。
そのお米も飯盒で炊かれている。
最早これ以上のキャンプ飯があるのかと自慢できる一品となった。
詰まる所、ピザとカレーライスを提供する屋台であった。
具材等は出来る限り、この異世界で準備した。
残念ながらカレールウだけは無理だった。
ここは後日、暇が有ったらトライしてみたい。
でもこれは時間が掛かりそうだな・・・
カレーを一から造るのって・・・絶対日本では連れ合いの女性から嫌がられるだろうな。
まあ、いないからいいけど・・・
ピザ生地に関しては少々妥協するしかなかったが、提供できるレベルにはなった。
小麦と大麦が手に入ったからね。
温泉街ララの八百屋さん、お肉屋さん、そして食品の卸問屋さんから、本当にこんなに要るの?というぐらいたくさん食品の仕入れを行った。
残ったら当分の間、夜の賄いはピザだな。
それでいいでしょうよ、人気が高い賄い飯だしね。
リック達は連日ピザの仕込みに大忙しだった。
ピザ生地は寝かせないといけないからね。
更にピザ窯でピザを焼く特訓を行っていた。
なにがなんでも繁盛させると、ライゼルの鼻息は荒かった。
モリゾーもなんとかついて行こうと必死になっていたが、こいつが戦力に成ったのかは定かではない。
だって、今も何をしていいのか分からずに、右往左往しているし・・・足だけは引っ張るなよ。
クロムウェルさんがどんな屋台を出店するのかを俺は知らない。
特に相談されなかったし、勝手に屋台の出店を請け負っていたからね。
手伝う必要なんかないでしょう、あの人なら無難にやり切る筈だ。
いつも通りの完全な丸投げですよ。
それでいいでしょうよ。
バー『アンジェリ』チームの屋台は、ライジングサン一同、プラスマリオさんに加えて、マリオ商会から数人の協力者を加えた、ちぐはぐチームが結成されていた。
でも実際の屋台の営業を見ていると、ちぐはぐ感は全く無かった。
やはりマリオさんは熟練の商人だ。
その接客技術を活かして、常にフロントに立って屋台をコントロールしていた。
お客の呼び込みから誘導まで、何でも熟していた。
そして事実上のリーダーのリックは、全体を見まわして的確な指示を行っていた。
屋台全体が調和の取れた統制された動きをしている。
モリゾーは・・・敢えて言うまい。
結果的にいうと、これが恐ろしく売れていた。
実際の処、この屋台の売上ランキングはぶっちぎりの一位だった。
ピザとカレーライスが飛ぶ様に売れていた。
ピザの提供が間に合わず、リックが美容院の営業中にも関わらず、ピザを抱えてバックルームでオーブントースターを使う事態になり。
挙句の果てには米の炊き上がりが間に合わず、サ●ウのご飯をレンチンしている始末。
それでも何とかやり切ったと、ライゼルは偉そうにしていた。
お前が頑張った訳じゃねえだろうが!リックとマリオさんを敬え!
何度かどうしようかと困って、手が止まっているのを見かけたぞ!
俺の眼は誤魔化せねえぞ!
国に帰れ!全く!
温泉街『アンジェリ』の屋台では、温泉卵と温泉グッズが販売されていた。
温泉グッズとはタオルとシャンプー、そしてリンスであった。
それを我物顔でにこやかに販売するクロムウェルさんに、思わず舌打ちをしてしまったよ。
でもこの温泉卵は美味しいだけでは無く、もしかしたら万病に効くのでは?
との噂が絶えない、実に総合感冒薬になってしまうのだが、それはご愛敬としておこう。
本当にこの温泉は規格外だな。
流石は異世界だ。
日本の常識を遥かに超えている。
にしても、温泉卵旨いんだよねー。
塩を振って食べると最高だよ。
醤油も欠かせない。
もう虜だよ・・・
そして美容院『アンジェリ』の屋台はというと・・・
髪を縛るヘアゴムとシュシュを販売する屋台を出店していた。
それもただ販売するだけでは無い。
別料金を払えば、その場で髪を縛って貰えるのだ。
要はシュシュを購入し、その場で購入したシュシュで髪をセットして貰える。
我ながら良い秘策を思いついたものだよ。
これならば美容院の屋台と言っても通用する。
だよね?間違っているかい?
そして俺はこれまでに店販商品として、何度かこのヘアゴムとシュシュの販売を検討したことがあったが、爆発的に売れる事は確信していた為、これまで取っておいたのだ。
通常営業でこれをやってしまっては、お店が周らなくなるのは一目瞭然。
美容商材屋に成り代わってしまう。
であればここぞとばかりに販売してしまおうと、ここでこのプランを採用することにしたのだ。
この異世界には圧倒的に無いものはゴムである。
ゴムを使った商品や商材を観た試しがない。
ゴムの木があってもそれを抽出する技術が無いのかもしれないし、そもそもゴムの木が無いのかもしれない。
それにゴムは石油由来の物もあるからね。
簡単には加工は出来ない代物なのだ。
この異世界では髪を縛るのは紐やリボンを使っている。
そうなると髪を縛るのも一苦労だろう。
そこで、応援部隊の四人には髪をセットするのと同時に、髪の縛り方もお客さんに教える事をミッションにしたのだ。
ヘアゴムやシュシュであれば、ちょっとコツを教えれば、簡単に髪を縛る事が出来る筈だ。
やって貰うだけでなく、その後もちゃんと使えるようにってね。
そしてセットする髪形は二つに限定した。
それはツインテールとポニーテールだ。
四人にはこれを一週間に渡って習得するだけでは無く、コツを教える指導の仕方も叩き込んだ。
ドM眼鏡は出来て当然、自慢げにしていたので弄ってやったら恍惚の表情を浮かべていた。
しまった・・・こういう奴だった。
マリアベルさんは手先が器用なのか直ぐに習得していた。
たいしたもんです。
イングリスさんは実は帰ってからも、シルビアちゃん相手に練習に励んでいたらしい。
真面目ですねえ、流石はシルビアちゃんの母親だね。
クロエちゃんはそもそも出来ていた。
何でだろうか?と思っていた所、実はクロエちゃんはマリアベルさんの髪結いを行っていたらしい。
なるほどと頷ける話であった。
でも確かクロエちゃんって、妹じゃなくて・・・護衛兼メイドじゃなかったっけ?・・・
まあいいや。
美容院『アンジェリ』の屋台は爆発的に売れた。
屋台の売上ランキングは、バー『アンジェリ』とワンツーフィニッシュだった。
実はヘアゴムとシュシュは大量に仕入れたにも関わらず、シュシュは初日に売り切ってしまい。
急遽美容商材屋の森君に無理をいって、倉庫内にあるシュシュを全部持って来てくれ!と緊急オーダーをすることになってしまっていた。
初日から俺達美容院『アンジェリ』のスタッフも、お店の営業時間終了後には、屋台を手伝う羽目になってしまった。
二日目からは数名の髪結い組合の会員さん達が手伝いに来てくれた。
本当に助かる。
それでも数名のお客さんは、待ち時間が無いと残念ながら下を向いて帰っていった。
申し訳ないがこれ以上は無理です。
完全にキャパオーバーです。
翌日、美容院『アンジェリ』に現れたバッカスさんの万遍の笑顔を見る限り、お祭りは大成功だったと思う。
もしかして来年も開催するのか?
次は辞退したい・・・無理だよね?
ハハハ・・・疲れたよ・・・

