俺が国王に持参したお土産は複数枚の写真だった。
被写体は勿論ライゼルだ。
ポラロイドカメラで撮った写真。
沢山の想いの詰まった代物だ。

店先の植物を愛でるライゼル。
愛剣のリリスを勇ましく構えるライゼル。
生ビールを飲んで顔を真っ赤に染めるライゼル。
シルビアちゃんの施術を受けるライゼル。
カレーライスにがっつくライゼル、そしてリックが何気に見切れている。
様々な表情のライゼルが、その写真には存在した。
どのライゼルも活き活きとしている、まるで動き出しそうな程に。

「こ、これは何なのだ?なんでフェルンがこの中に?・・・」

「ジョニー店長・・・これは、いったい・・・」
今度は驚きで眼を丸くする二人。
そして説明を求めてくる。

「これはポラロイドカメラという魔道具から生まれる写真という物です」

「「写真?」」
この世界には写真は無いみたいだ。
そんな事だろうとは勘ぐってはいたけどね。
伯爵邸では絵画の類は見かけたが、写真は無かったからね。

「そうです、簡単にいうと、その時の光景を紙に転写する魔道具で、その特別な紙が写真です」

「そんな魔道具が・・・素晴らしい・・・」
何度も頷くシュバルツさん。
驚愕の儘の国王、顔が引き攣っている。

そして俺は写真の裏側を見せた。
其処にはライゼルから王妃に向けたメッセージが書かれていた。
メッセージ入りの写真は他にも2枚。
この写真はライゼルの兄と弟に向けた物だ。
表情を改めた国王は、写真の裏側に見入っている、真剣な表情を浮かべて。

「ああ・・・これは素晴らしい・・・最高のお土産ではないか」
一転、瞳を濡らす国王、感極まっていた。
ライゼルのメッセージを読んで、何度も何度も頷いていた。

「ジョニー店長・・・」
シュバルツさんも涙を流していた、言葉になっていない。

「ありがとう・・・ジョニー店長」
国王が呟く様に囁いた。

「ジョニー店長、感謝致します」
深々と頭を下げるシュバルツさん。
写真を手にし、嬉し涙を流す国王。

俺は王妃に対して、どんなお土産が良いかと考えた時に、王妃が一番喜ぶのはライゼルの現在の様子を知りたいだろうと考えたのだ。
それがありありと分かる事が望ましいと。
そしてライゼルもそれを伝えたいだろうし、想いを筆に乗せれればなと。
廃嫡された息子とは言えど、王妃にとっては愛する息子に変わりは無い。
兄弟達にとっても想いは一緒の筈だ。
豪華なアクセサリーや金銀財宝を渡すよりも、こちらの方が嬉しいだろう。
ライゼルから聞いた人物像からだとそうなる。
それにこれがあれば国王も土産話が出来るだろうしね。
そんな考えから俺はお土産を写真にしたのだ。
ライゼルは照れていたけどね。

ここで部屋の扉をノックする音がした。

「どうやら国王様へのお土産が到着したみたいです」
俺は笑顔でそう告げた。

「ん?余へのお土産?はて?」
涙を拭うと俺をぼんやりと眺める国王。
そこにノックした者が名乗りを上げる。

「国王様!ライゼルにて御座います!」

「おお!フェルン!」
俺は国王に向けて、口に人差し指を当ててみせた。

「ああ・・・そうだった・・・」
シュバルツさんがしまったと立ち上がり、国王の後ろに控えた。
ほんとしっかりしてるよ。

それを確認した後に、
「ライゼル!入ってこいよ!」
その声を受けて元気よくライゼルが部屋に入って来る。
「庭師ライザル参上!」
いつものお調子者のライゼルだ。
万遍の笑顔で部屋に入ってくる。

俺は前もってライゼルに写真を国王に手渡すことを告げていた。
そして裏にメッセージを書いておけと。
晩餐会のどこかのタイミングで国王に渡すから、その後合流する様にと。
ライゼルはその提案を照れと共に受け入れていた。
すまないなと嬉しそうにもしていた。

ライゼルの手にはポラロイドカメラが握られている。
俺は立ち上がって、ライゼルからポラロイドカメラを受け取った。

「ライゼル、国王様の隣に」

「ああ、最高の一枚を頼むぜジョニー。国王様、失礼します!」
ライゼルは遠慮も無く、国王の隣に座り込む。

「国王様、もっと近くへ。ライゼル、お前も」
肩が触れる程に近づく二人。
再び涙を拭う国王。
そして万遍の笑顔でライゼルの肩を抱く。
ライゼルも嬉しそうだ。

「じゃあ、此処をみて下さいね」
にやけるライゼル。
良い笑顔じゃねえか。

「ハイ!ポーズ!」
俺はシャッターを切った。
カシャリと音を立てて、写真が現れてくる。
そしてゆっくりと画が浮かび上がってきた。
これは魔法だな。
朧げな写真が幻想的に色を強くしていく。
そしてじわじわとその正体が現れる。

「素晴らしい!」
シュバルツさんが思わず声を挙げていた。
ライゼルと国王は二人並んで写真を確認していた。
この異世界にはない技術だ。
二人にとっては摩訶不思議な魔法だと映っているのだろう。
まじまじと写真を見入っている。

「おお・・・この様にして浮かび上がってくるとは・・・摩訶不思議である」

「これは不思議な魔道具ですよね?」
賛同を求めるライゼル。

「まったくである・・・」

「ジョニー!良い写真だよな?!」
ライゼルは無邪気な子供の笑顔だ。
うんうん、最高の写真だと思うぞ。

「国王様、この写真は一度預からせて下さい。裏にメッセージを添えてからお渡しさせてください」
ライゼルは国王にそう告げた。

「庭師ライゼル、良きに計らえ」
国王はひと際歓喜に満ちた笑顔で、そう答えていた。
メッセージを添えてくれることが相当嬉しいのか、今日一の笑顔であった。

「ハッ!ありがたき幸せ!」

「さあ!今度はシュバルツさんも混じりましょう!」
この発言に驚きを隠さないシュバルツさん。

「滅相も御座いません!私が国王様とお坊ちゃんと一緒だなんて!」
ああ・・・お坊ちゃんって言ってるよ。
流石のこの人も驚きの連続でテンパってんだろうね。

「シュバルツよ、そう堅い事を申すな・・・」

「そんな・・・」
困ったなと引き攣った顔のシュバルツさん。

「これは王命であるぞ」

シュバルツさんは一度項垂れると、
「・・・畏まりました」
観念したのか受け入れる返事をしていた。

「ちゃんとライゼルの隣に腰かけよ。よいな?」

「ハッ!」
遠慮気味にライゼルの隣に座るシュバルツさん。
今度はライゼルが国王とシュバルツさんの肩に手を回した。

「ハイ!ポーズ!」
俺は再びシャッターを切った。
音を立てて写真が履き出されてくる。
その写真を手渡すと、ライゼルと国王が繁々と眺めていた。

シュバルツさんが立ち上がると、俺に座る様に促してきた。
今度は俺の出番ということだ。
俺はシュバルツさんに、簡単なポラロイドカメラの使い方を教え、シュバルツさんが座っていた座席に腰掛ける。
調子に乗ったライゼルが俺の肩に手を回してきた。
俺もライゼルの肩に手を回す。
にやけ顔のライゼルが俺を見つめる。

「国王様も!」

「そうであったな」
嬉しそうにライゼルの肩を抱く国王。
三人揃ってポラロイドカメラのレンズを凝視する、全員が決め顔だ。

「では、はい!ポーズ!」
シュバルツさんがシャッターを切った。
写真が音を立てて造られていく。
その一枚を大事そうに、掌に載せるシュバルツさん。

ここからは何枚も、被写体を変えて写真を撮った。
最後の方は国王自身がシャッターを切りたいと、ポラロイドカメラに興味深々だった。
そこで、こんな事になるだろうと俺はこう切り出した。

「国王様、ポラロイドカメラを差し上げますよ。ある条件付きでね・・・」
ポラロイドカメラを大事に抱えながら、こちらを振り向く国王。

「条件とな?」
好奇な視線を投げかけている。

「はい、何枚もの国王様と王妃様、そしてライゼルのお兄様と弟君の写真を撮って、ライゼルに送って下さい。できれば裏にメッセージを添えて」
この発言に驚きを隠そうともしないライゼル。

「おい!良いのかよ?ジョニー!」

「ああ、構わんさ」

「そんな条件でよければ、いくらでも・・・ああ・・・なんとお礼を言ったらよいのやら・・・そうである。こうしよう!お返しとして、ジョニー店長に褒美を取らそう!そうよな!シュバルツよ!」

「良い考えにて御座いますね」
またこれかよ、褒美なんて要らねえよ!
なんでこの世界のお偉いさんは、こうも褒美を取らそうとするのかね?
要らない世話だよ。
でも、ここははっきりと言おう。

「否!褒美は要りません!これは謙遜でも遠慮でも無く!」

「そう言ってくれるなジョニー店長!連れないでは無いか!」
ガツンと言われて滲み寄ろうとする国王。
はっきりと言い過ぎたか?国王は衝撃で再び泣き出しそうだ。

「そうで御座いますよ!ジョニー店長!」
珍しくシュバルツさんも強く押してくる。
だからマジで要らないんですよ。
こちとら温泉で懲りていますのでね。
こうなる予想は出来ていたのでこうしましょうか。

「じゃあ、こうしましょう!その褒美を私に決めさせて下さい」

「ほう!褒美を受け取ってくれるのか?ではそうしてくれ」
ほっと胸を撫で降ろす国王とシュバルツさん。
俺が何を言う気なのかと気を揉んでいるライゼル。

「はい、褒美は家の庭師が一流の腕に成ったら、王城の庭園を触らせて貰えませんか?」

「ジョニー!お前!・・・」
ライゼルが血相を変える。

「そんな・・・」

「勿論、庭師ライゼルとしてですよ」
頭を抱える国王。

「ああ・・・何と言ってよいのやら・・・」
今度は狼狽えている。

「ジョニー店長には頭が上がりません・・・」
シュバルツさんが溢していた。

「こいつは私の親友ですので、私の褒美とさせて下さい。これぐらいの我儘、聞いて下さいますよね?いいですよね?」
逡巡した国王は、俺を見つめた。

「・・・分かった」
国王は再び涙を流していた。
ライゼルは強く決心を固めていた。
絶対に一流の庭師になると。
その眼に迷いは無かった。
これでいいよな?たぶん。



晩餐会の会場に戻ると家のスタッフ一同は、一心不乱に食事をしていた。
うん、俺もいい加減何か食わせてくれ。
違う意味ではお腹いっぱいだが、本当のお腹はペコペコなんだよ。
俺もスタッフに交じると、クロムウェルさんが食事を運んでくれた。

「ジョニー店長、お腹が空いているでしょう?」

「ええ、助かります」

「適当に選んでおきましたよ」

「ありがとう御座います」
フォークを手に、ラザニアらしき物を口に運ぶ。
フム、美味い。
日本のラザニアとは少し違うがこれはこれで美味しい。
というか今は何を食べても美味しいと感じる自信がある。
それほどまでに腹が減っていた。
今ならお茶漬けでも最高の一品に感じる。
いつ食べても充分にお茶漬けも美味しいけどね。

次に肉の香草焼きを口に運ぶ。
これまた旨い。
ああ、やっと一息つけそうだ。
そうしている合間にもクロムウェルさんが、食事と飲み物を運んでくれている。
正に熟練の執事の動きだ。
助かるわー、こうなると確かに俺の執事みたいだな。

俺は汁物にパンを浸してから食べる。
行儀が悪いのは見逃してくれ。
育ちが悪いのでね。
というより、この国のパンが硬すぎるんだよ。
隣でシルビアちゃんが同じ食べ方をしているから、たぶんセーフだ。
汁物は牛乳をベースにした何かだ。
野菜たっぷりなのが嬉しい。
肉は恐らく食感から羊だと思われる。

やっとお腹が落ち着き出した処にメイドが宣言した。
一瞬にして場の空気感が変貌する。

「美容院『アンジェリ』様からの手土産を振舞わさせて頂きます!皆さま!是非御賞味下さりませ!」
沢山の皿に盛られた手土産がテーブルに並べられていく。
参加者達が興味深げにそれを眺めている。

「『アンジェリ』の手土産とな?」

「期待が持てますなあ」

「何でしょうか?これは?」

「お菓子でしょうか?」
ここで国王達が会場に戻ってきた。

「ほう?これは何であろうか?」
目聡く手土産を見つけると歩み寄る国王。
そこに伯爵が近づく。

「国王様、これは美容院『アンジェリ』からの手土産で御座います」

「なんと?・・・ジョニー店長の手土産?・・・これが旨くない訳がなかろう!」
そう言うと遠慮も無く手掴みで手土産を手に取り、齧りつく国王。
ビクッと身体を震わせると、一心腐乱に食べ始めた。
その様子を目に収めた者達が戦慄く。

「国王様・・・」

「これは・・・無茶苦茶美味しいのではなかろうか?」

「どうなっているんだ・・・」

「無言の食事・・・凄まじい・・・」
不意に手を止めて呟き、零れる国王の一言が惨劇を生んでしまった。

「なんだこれは・・・美味し過ぎる・・・美味である!」
一瞬の静寂の後に駆け寄る一同。
速攻で大渋滞が出来上がり、我先にと大行列が出来上がってしまった。
俺が先だ、私が先だと騒動になりそうだ。
これは不味いと、伯爵と警備兵が駆け寄ってくる。

「皆の者よ!全員に行き渡るように、一人二個までとして頂きたい!よいであろうか!」

「そうであるぞ!皆の者よ、これは美味である。皆で味わおうぞ!」
万遍の笑みを浮かべた国王が昇天しそうな表情であった。

「おお!」

「国王様がそう言われるのであれば・・・」

「これは急いてしまったな・・・お恥ずかしい・・・」
その後騒ぎはゆっくりと終息していった。
しかしそれとは反比例して、俺達に期待の眼差しが集まってしまった。
あれ?やり過ぎた?
日本では定番の手土産ですが?



この手土産の正体はミ●タードーナツである。
手土産と言えばこれでしょう。
流石に買いに行く余裕が無かったから、ウー●ーイーツを利用させて貰いましたよ。
ウー●ーイーツはありがたい。
俺が住んでいる地方都市でも、ちゃんとあのバッグを背負ったチャリンコが走っているからね。
参加者は百名ぐらいと聞いていたから、都合二百個のドーナツが並べられている。
ハハハ、皆さん甘い物がお好きな様で。

家のスタッフ達は休憩時に既にご賞味済みである。
シルビアちゃんの興奮度はなかなかであった。
因みに俺はオール●ファッションが好きだ。
クリスタルちゃんはポン●リングがお気に入りらしい。
こんなお土産各種であった。
ミ●ド旨いよねー!