ようリックだ。
どうやら俺にお鉢が回ってきたみたいだな。
いいぜ、話してやるぜ。
ああっ!
随分余裕だなだって?
まあな、別にどうってことねえよ。
話ぐらいよ、どうってことねえだろう。

それにしても、何を話そうか・・・
結局の所あれだろ?
俺の素性はバレてるんだろ?
どうせジョニーがライゼルの事を勘づいて。
ライゼルが俺の事を話しちまったってことだろ?
・・・だと思ったぜ。
全く・・・ジョニーの野郎は・・・
いつかはバレるだろうとは思っていたが、関心するぜ。
あいつは無茶苦茶鋭いな。
何者なんだよ・・・

でもジョニーには感謝だ。
本当にありがたいと思っているぜ。
ライゼルの野郎は・・・アホだからな。
あれが元皇太子だなんて思えねえだろ?
俺とは腐れ縁みたいなものだな。
ライゼルは俺にとっては護衛対象でもあるが、あいつは腕っぷしだけは半端ねえからな。
護衛の必要なんてねえだろう。
全くよう。
でもそれ以外がからっきしあいつは駄目だからな。
結局俺が付いて無いと話にならない。
世間知らずの坊やだからな、あいつは。
世話が焼けるぜ。
ほんとによう。

ジョニーのお陰でライゼルは国王様に再会できた。
俺は胸を撫で降ろしたぜ。
にしてもジョニーは何を考えているんだよ。
美容師は凄えな。
感動したぜ、全くよう。
これは誰にも出来ない芸当だな。
それを簡単にやってのけやがった。
ありがとうよ・・・ジョニー・・・
感謝するぜ。



俺は今では美容院『アンジェリ』の夜の部の責任者だ。

なんでもジョニーに言わせると、
「リックが指揮ってくれるなら、夜のバーの営業は認めるが、ライゼルには任せられん」
らしいぜ。

笑っちまったぜ!
どうやら俺も一目置かれているみたいだな。
有難いことだぜ。
でもよう、この夜のバーの営業は結構楽しいんだぜ。
とは言っても好き放題って訳にはいかねえ。
そこは常識ってもんがあるからな。
そりゃあ非常識なライゼルには任せられんわなあ。
笑っちまうぜ。
ガハハハ!

でも俺も始めの頃はこのお店の異常さにはビビったぜ。
想像の斜め上をいっていたからな。
ライゼルに乗っかって、無遠慮に踏み込んでみたが、余りの不思議さにどうにかなっちまいそうだったぞ。
こんな摩訶不思議なお店は外では見たこともねえ。
もう慣れちまったけどな。
非常識が過ぎるぜ。
全くよう。

なによりまずはその魔道具の豊富さだ。
あの電子レンジやエアコンなんて物は聞いたことがねえぞ。
他にも聞いたことが無い魔道具のオンパレードだ。
自分の眼や耳を疑っちまったぜ。
そりゃあライゼルが嵌っちまう訳だ。
この店はまるでビックリ箱だからな。
今では俺も魔道具の扱い方は分かっているぜ。
まったくよう。
特に電子レンジの扱いはお手のものなんだぜ。
他にも湯沸かし器なんかもな。



俺の髪形はスパイキーショートの金髪だ。
そうジョニーが言っていた。
結構気に入ってるんだぜ。
毎朝、髪を纏めて立たせるのも慣れてきた。
俺はそれなりに気用なもんでな。
モリゾーの髪形が変わった時には唸ったものだ。
そういった髪形はこれまで見たことがなかったからな。
センセーショナルだったぜ。
美容師の底知れない腕前に戦慄を覚えたぞ。

俺は元々身綺麗にしてきた自負はある。
でも、このお店の所為で更に磨きがかかったと思っている。
洗顔しかり、ヘアースプレーしかり。
俺もお洒落は気遣いたいからな。
それにそれなりにモテたいからよ。



なあ、ちょっと自慢させてくれよ。
俺の注ぐ生ビールは芸術品だぜ。
そんじょそこらでは味わえねえ。
ジョニーに始めは教わったが、今では俺の方が上手く注ぐ事ができる。
泡の加減が絶妙だとジョニーも褒めてくれたぜ。
ああ、旨いってよ!

それに国王様も俺の淹れる生ビールが好みだってよ。
嬉しい限りじゃねえか。
まさか生ビールで国王様に褒められるとはな。
笑っちまうぜ!
親父も喜んでくれるんだろうな。

俺にはこのバーの責任者が合っているのかもしれねえな。
ライゼルは冒険者を引退したら庭師になると言っていたが。
俺は冒険者を引退したら、バーのオーナーになるってのもいいかもしれないと、最近は真剣に考えている。
でもなー。
このお店の完成度に敵うお店は造れそうにねえからなあ。
此処ばっかりは悩みどころだ。

だってよう。
この生ビールやワインをどうやって仕入れたらいいんだ?
ジョニーにどうやって仕入れてるんだと聞こうにも、聞いてはいけないと無茶苦茶怖いプレッシャーがあるんだよな・・・
なんだろうこれは・・・
ジョニーからプレッシャーを感じているのとはちょっと違う。
違う何かが圧し掛かってくるんだ。
聴いたら最後。
俺は殺されるんじゃないかと思えてしまう・・・
それぐらいの危険ゾーンだ。
なんだろうこの嫌悪感は・・・
触れてはいけない何かがそこにはある。
そんな感じだ・・・
聴ける訳ねえだろう・・・

俺は間違ってもそれには踏み込めねえ。
そんな危険は冒せねえよ。
俺も死にたくはねえからな。

まあそんな事はさておき。
ジョニーのお陰で俺も好き勝手にさせてもらっているぜ。
常識の範疇でだけどな。
それを逸脱したら、たぶん俺はジョニーに締められちまう。
あいつを怒らせてはいけねえ。
一番怒らせてはいけないタイプだ。
あいつだけは敵に回したくはないな。
だってよう、ライゼルの愛剣のリリスは王家の紋章入りなんだぜ?
それを本気でぶん投げてやがる・・・
まあ毎回忘れるライゼルが悪いんだが・・・
あり得ねえだろう・・・
怖えよ・・・

実際あのフェリアッテでも敵わなかったからな。
俺は絶対ジョニーには逆らわねえ。
あれは天晴だったぜ!
胸がスッキリとしたぞ!

それに俺は『アンジェリ』が好きだ。
ここからは離れたくはねえ。
そう強く願う毎日だ。
ああ、充実した毎日を過ごしているぞ。

人生とは不思議なものだぜ。
こんな面白い奴に出会えたし、こんな不思議なお店に出会えたからな。
あのまま王城で過ごしていたら、こうはいかなかったんだろうな。
こう言っては何だが、ライゼルには感謝だな。
楽しい毎日を過ごしているぜ。
まだまだこのお店も、ジョニーも様々な出来事に巻き込まれるんだろうな。
そんな気がするぜ。
俺は近くで見学させて貰うさ。
これは特等席だな。
ナハハハ!
じゃあな!



えっ!私ですかな?
何故私が?・・・
ええ・・・タックスリーですが・・・なにか?
ななな、何と?
私が話してよいと?
本当に?・・・

ふーん・・・困りましたなあ。
どうしましょうか?・・・
いいでしょう・・・話しましょうかな。

私しタックスリーは税制徴収官で御座います。
この仕事は実に厄介です。
どうしてかと?
分かりませんかな?
誰もが税金なんて払いたくはないでしょう・・・
国民の義務だと分かってはいても・・・
たかが一割、されど一割でございますな。
この一割が大きなものである事を私も存じ上げております。

私も鬼ではありませんからな。
その気持ちは分かっておりますよ。
でもそうはいきませんな。
その為、私は舐められる訳にはいかないのです。
ここは演じるしかありません。
分かって貰えますかな?

フフフ・・・
私にとっては美容院『アンジェリ』は救世主です。
見てください!
この完成度の高いカツラを!
どうでしょう?本物そのものでしょ?
ええ、お気に入りですよ!
毎日被っておりますよ!
私はズライフを堪能しておりますな!

今では愛用のカツラを三つ持っております。
実に満足しておりますよ。
でも本当は・・・金髪のカツラが欲しかった・・・
分かっております。
そんなカツラを被った日には、私が禿げている事がバレてしまうと・・・
でも・・・ライゼル君の綺麗な金髪を見ていると・・・
憧れますなあ。

ライゼル君との出会いは私にとっては分岐点となりましたな。
ええ!感謝しておりますよ!
彼のあの無遠慮さが無ければ、こうはいかなかったですからな。
それに今ではライゼル君は飲み仲間です。
しょっちゅう一緒に飲ませて頂いておりますよ。

でも彼の様に私しは飲めませんな。
冒険者とはあんなもんなのでしょうか?
無茶苦茶飲みますなあ・・・
ライジングサンの一同は皆な飲んべえだらけです。
でも、皆さんとは仲良くさせて貰っておりますよ。

最近の悩みは次に買うカツラをどんな髪形の物にするかですな。
正直に言うと、伯爵ヘアーにも憧れております。

でもこれもジョニー店長曰く、
「バレますよ・・・いいんですか?」
とのこと・・・困った物です。

びっしりの七三別け、六四別け、真ん中別け意外となると何がいいのでしょうか?
今度ジョニー店長に相談してみましょうか?
いや、ここはシルビア嬢ですかな?
ライゼル君は・・・止めておきましょうか。
実に悩み処ですな。
こんな話でよろしいですかな?
そろそろ税金の徴収がありますので、では・・・

それにしても・・・次はどんなカツラにしようかな・・・



ん?
俺?
いや・・・前に充分に話したと思うが?
その後が気になる?
しょうがねえなあ。
そう言われると答えるしかねえなあ。

よう、ライゼルだ。
俺の事は美容院『アンジェリ』の専属庭師のライゼルと呼んでくれ。
長いって?
いいじゃねえか・・・っちぇ!

こう言ってはなんだがよう・・・ジョニーには感謝しているぜ。
俺は父上には再会できないものだと思っていたからな。
それぐらい腹を決めていた。
でも本心は・・・会いたかった・・・
夢に見る程に・・・

それをジョニーの奴はあっさりと叶えてくれた。
ほんと不思議な奴だぜ、あいつはよう。
ありがとうな!ジョニー!
まだまだ世話になるぜ!

さて、ここ最近は毎日早朝に『アンジェリ』にやって来ては、父上と話をさせて貰っている。
勿論ライゼルとしてだぞ。
ここは間違う訳にはいかない。
でもこれが実は嬉しかったりもする。

父上もこの店先を好きになってくれたみたいだ。
とても誇らしいことだ。
この店先は半分が家庭菜園で、後は樹と花壇になっている。
飲食スペースは別だ。
ここは別物だと捉えてくれると助かる。

植物や花の苗や種は、最初はジョニーが準備してくれていたが、今ではこの庭先から摂れた物から出来上がっている。
それなりの自信作だ。
父上はよく花の種類や育てかたを尋ねてくれる。
俺は知りうる限りの事を話しているが、伝わっているだろうか?
どうにも俺は説明が苦手だ。

そういえば、先日ジョニーが植物図鑑という物をくれた。
文字はジョニーの母国の言葉だから読めないが、俺はこれが大のお気に入りだ。
世の中にはこんなにも植物に溢れているのかと嬉しくなる。
俺はこの図鑑を眺めているだけで幸せになれるんだ。
自然とはこんなにも雄大なんだと、心を鷲掴みされている。
これを読みながらの酒が進む、進む!
もう何杯でも飲めるぞ!
底なしだってな!
ガハハハハ!



まあなんにせよ。
俺は庭師になる事を目指している。
実は最近は狩りは殆ど行っていない。
日中は社員寮兼温泉宿の建設を手伝っているんだ。
要は大工だな。
冒険者ギルドにいったら、依頼が出ていたから満場一致でこの依頼を受けることになったんだ。
どうやらライジングサンは全員美容院『アンジェリ』の側にいたいみたいだ。
ハハハ!
笑っちまうぜ。
まあ夜のバーの営業もあるし、ちょうどいいんだけれどもな。
それに俺もあのお店の近くに居たいし。

俺はゴリオンズ親方に、この社員寮兼温泉宿の庭先を造らせてくれとお願いしている。
そして親方からは了解を貰っている。
でもここは給料は支払わないと言われている。
そんな事はどうだっていい。
俺が一から造れる庭園だ。
こんな嬉しい事はないだろう。
ジョニーからも好きにしろと言われている。
どんな庭園にしようかな?
ワクワクするな!
楽しくて仕方が無いぜ!
今日も図鑑を観ながら一杯だな。
嬉しくて溜まんないぜ!

そういえばこの社員寮に俺は住んでいいんだろうか?
図々しく紛れ込む気満々なんだけどな・・・
駄目かな?
リックからは流石に無理だろうと言われてはいるが・・・
どうだろうか?
ここはジョニーに相談だな。
駄目なら店先でテントを張ればいいだろう。
冬場はどうするって?
考えてなかった・・・
俺・・・凍死するかも・・・・