美容院『アンジェリ』は今日も大盛況だ。
本日も予約で埋まっている。
大変助かるよ。
おそらく今日も昼飯は真面に食えないだろうなあ。
はあ、今日もかー。
これぞ嬉しい悲鳴だな。
予定表を見る限り、フロアーを離れられないだろうね。
隙をみておにぎりを齧るぐらいはできるかもしれないけれども・・・
この世界で美容院を開業してから早くも10カ月。
そろそろ一年を迎えそうだよ。
早いのかやっとなのか?
さっぱり訳が分からない・・・
売上は絶好調、連日大賑わいだ。
嬉しくもあるのだが・・・未だに未練はある。
やっぱり日本で美容院を開きたかったな・・・
はあ・・・愚痴は言うまい・・・
でもさあ・・・これは尾を引くな・・・今後も・・・
最近ではシルビアちゃん達の修業も熱を帯びたものになっている。
何故かというと、それはロッド巻を行っているからだ。
美容師にとってパーマは欠かせない練習となる。
ここは美容師になる上では通らなければいけない道だ。
要は避けては通れないということだよ。
パーマは美容院において様々な意味を持っている。
ある意味パーマを極めたら天下を取れるというぐらい、パーマは奥が深いからだ。
パーマを舐めてはいけないよ。
様々な髪形に繋がるからね。
また日を改めて説明はさせて貰おうかな。
これは長い話になりそうだよ。
そこで軽くパーマの説明をするとこうなる。
簡単な説明になるのだが聞いておくれよ。
本当に簡単だよ。
触り中の触りだからね。
先ずはオールパーパスだ。
オールパーパスとは、美容学校で一番初めに学ぶパーマのことである。
通称おばちゃんパーマだ。
今ではそんな通称は腐れてしまっていると思うけどね。
未だにそう呼ばれていたら少々感慨深くなるよ。
俺が美容学校に通っていた頃って・・・何年前だ?
数えませんけどね!
ていうか数えたくはないな。
パーマはロッドに寄って行われる作業だ。
これ無くしてはパーマは行えない。
ストレートパーマは別だけどさ。
細かいことは今はどうでもいいか?
基本を話そうか。
ロッド巻は頭の形を10ブロックに分けて、ロッド幅でスライスを取る。
スライスとは髪を分け取る行為の事だ。
そしてスライスで分け取った髪を上に135度で持ち上げる。
利き手の反対の手の人差し指と、中指で髪とペーパーを掴む。
その髪とペーパーをロッドに巻き込む。
この時に肘が床に対して並行になっていないといけない。
脇は空いた儘である。
ここで要らない力を加えると並行がブレてしまう。
そして身体がお客さんの頭に対して真正面である事が必須となる。
そんな基本を披露しつつも、俺はパーマを3人の弟子に教えていた。
ロッド巻の練習となれば基本はウィックを使う。
でもここではそれを必要としない。
どういうことかと言うと、ウィックは一人での練習には欠かせない物だ。
因みに俺は自分のウィックを花子さんと呼んでいる。
今はまだお披露目する機会はないのだが・・・
花子さんの事は今はいいだろう。
というのも、俺の弟子の3人はモニターに事欠かないからだ。
であれば作り物よりもリアルで練習は行うべきだろう。
なによりもこの作り物とリアルの差は大きい。
人の髪の毛は均等に生えているようで、実はそうでは無いからだ。
ある程度の統一感はあるにはある。
でも・・・実際に触れてみると違うのである。
であるならば、練習はリアルなモニターで行うべきだ。
まあモニターさんには、慣れないロッド巻で髪を引っ張られて痛い思いをさせてしまうかもしれないが、それはご愛敬として貰おう。
ちゃんと最後には無料でシャンプーを受けられるのだからご勘弁願いたい。
練習台とはそんなものである。
その為、美容院『アンジェリ』には、裏予約表なる物が存在する。
これがモニター用の予約表である。
早朝と営業時間終了後の時間も、今の美容院『アンジェリ』には重要な時間だ。
ある意味では営業時間内よりも熱を帯びている。
マリアンヌさんとクリスタルちゃんも、ロッドを使うパーマは行った事が無い為、一からの勉強になっている。
この世界ではロッド代わりに竹筒を使っているらしい。
うーん、コメントに困るな。
美容商材の発展が進んでいないとこうなるのか・・・
分からなくはない・・・
そしてこの二人はシャンプーの練習も同時に行っている。
本当によく頑張っていると思うよ。
3人は競い合う様に練習に明け暮れていた。
お互いにとって、いい刺激になっている様である。
師匠の俺としては満足しているよ。
鼻が高いってね。
良い弟子が取れたと俺も胸を撫で降ろしているよ。
そういった現状の為、今は席数が3席以下になる事はまずない。
通常ではあり得ない事だ。
というもの、美容院の予約にはコアタイムがある。
どういうことかというと、美容院の平日は予約が薄い。
更に日中は特にその傾向にある。
特に水曜日や木曜日は顕著だ。
予約が集中するのは決まって週末だ。
理由は語らなくとも分かろうというものだろう。
週末は手が止まることはよっぽどない。
逆に言えば週末に手が止まる様では、経営は上手くいっていないことになる。
『アンジェリ』では、平日の日中でも、5席とも全て埋まっているなんてこともざらにある。
そういった側面もあってか、俺はお店全体に気を配らなければならない。
何処で誰が何を行っているのか?
どの様な施術を行っているのか?
次の予約は何のか?
前以っての準備は何が出来るのか?
お客さんの表情や動きまで。
気にかける事は山ほどある。
俺は店長である。
お店の長なのだ。
当たり前のことに変わりは無いのだが、これが結構疲れる。
何度も俺がもう一人いればと思ったことか・・・
そんな事を出来る魔法は無いものだろうか?
魔法が使えない俺には無理なことだけどね。
異世界を知ってしまったが故の願望なのだが・・・
お客さんの比率も変わりつつある。
最近では6割は女性で、4割は男性になっていた。
でも相変わらず禿げたおっさん達もよく来店してくれるんだけどね。
その理由は、育毛剤が一部のおじさん達に効果を発揮したからだった。
フサフサとまでは言わないが、明らかに毛量が増していた。
マリオさんに至っては、その効果が顕著に表れていた。
もう天辺が黒一色に染まっていたのだ。
まあマリオさんは、しょっちゅうオゾンシャンプーを受けていたからね。
裏予約表で何度名前を見かけた事か・・・
しつこいぐらいだったよ。
そして年齢層だが、大人が大半だ。
残念ながらキッズルームでは閑古鳥が鳴いているよ。
小さなお子さんを抱えた主婦の方に、気軽にカットやカラーを受けて欲しいと準備したのだが、小さな子供を連れてやってくるお客さんは殆どいない。
理由はよく分からない。
もしかしたら子育てに忙しくて、其れ処ではないのかもしれないな。
いや、このお店にキッズルームがある事を知らない事のほうがあり得そうだな。
まあ、いつか広がるだろう。
ここは気長に考えよう。
無理に宣伝する必要も感じないしね。
そのキッズルームだが、ふざけたライゼルが積み木のおもちゃで遊んでいた時には、頭を引っ叩いてやろうかと思ったよ。
あの馬鹿が!
いい加減にしろ!
でも笑えたのはモリゾーが、アン●ンマンの絵本を読んで泣いていた事だった。
何で泣けたんだろうね?
そんな話では無かったと思うのだけど・・・
単純に悪い事をするバ●キンマンを懲らしめる話だったと思うのだが?・・・
違ったか?
でもこの絵本は何気に人気が高い。
放置時間に大人が真剣に見入っているのを何度も見かけた。
おそらくそういった文化が無いのかもしれないね。
現にリックに言わせると、
「こんな高精度の絵画は見かけないぞ」
とのこと・・・
絵本が絵画になってしまうみたいだ。
それに絵本であれば、日本語が読めなくてもニュアンスで話が伝わるのだろう。
そうなると人気があるのも頷ける。
数名の目聡い商人からは、買い取らせてくれと言われたが、当然お断りさせて貰った。
売り物では無いからね。
俺から言わせるとおもちゃとたいして変わらない。
少し話は変わるが、両手では数え切れない程の商人達から、シャンプーやリンスを仕入れさせてくれとお願いされていた。
勿の論でお断りさせていただいたよ。
こう言っては何だが全くメリットがない。
もし卸すとしたらマリオ商会以外はあり得ない。
俺はどれだけマリオさんにお世話になっているのか。
商人ならそれぐらいの噂は掴んでいてくださいよ。
ある意味マリオさんとはズブズブの関係なんだからさ。
あんた達が割り込む隙は無いって話だよ。
話を戻すと『アンジェリ』には待合に漫画や雑誌、新聞等は置いていない。
異世界に繋がる前には読み放題タブレットを準備しようと考えていた。
作品は限定されるのだが、漫画や雑誌が読み放題のアイパッドだ。
月額の料金は数千円で済み、更にはアイパッドも無料で提供される。
街の本屋さんに、お店用の雑誌や週刊誌を仕入れるとなると一万円は降らない。
でもここは異世界である。
読み放題タブレットは断念したよ。
だってどう考えてもハイテクノロジーだし、いくら漫画でも、文字が読めなければ面白くはないだろうしね。
ストーリーが頭に入って来ないに決まっている。
そんな事もあって、キッズルームに絵本を置いているだけなのである。
後は本と呼べる物はヘアーカタログぐらいだ。
カツラのカタログはタックスリーさん専用である。
今も着付け室で眠っているよ。
そういえば、タックスリーさんは今ではカツラを3つ所持している。
彼はその日の気分でカツラを変えている様子。
タックスリーさんはヅライフを堪能しているみたいだ。
先日、髪色の違うカツラを購入しようとしていたから、流石にそれはカツラとバレますよと説得しておいた。
タックスリーさんは金髪のズラを被りたかったみたいだ。
止めておきなさいっての・・・
なんの為のヅラなんだか・・・バレては意味がないでしょうよ・・・
同じ髪の長さのズラを揃えた意味ないじゃん。
手作りのヅラを被っていた頃を思いだしなさいよ。
隠そうと必死でしたよね?
もう忘れましたか?
初心に帰ってくださいな。
店販商品の仕入れカタログも存在するのだが、これは俺しか見ることはない。
それにしてもこのカタログは相当読みごたえがある。
特にタカラ●ルモント社のカタログは電話帳ぐらい分厚い。
ラインナップの豊富さには頭が下がる思いだよ。
大変助かっています。
そしてお店には常にBGMが流れている。
本当はジャスダックを警戒して、書作権フリーの音楽を流そうと思っていたのだが、そんな必要は無くなった。
ここは異世界、ジャスダックなんて存在しない。
その為、俺の好きな音楽が自由に流れている。
ジャンルは様々で、ロックがかかっていたり、インストルメンタルの曲であったり、R&Bであったり、ジャズであったり。
俺は音楽に関してはジャンルに拘りが無い。
いいと感じた音楽はジャンル抜きにいいということだ。
時にこのBGMには拘りがあり、スピーカーはBO●E製だ。
スピーカーが天上に埋め込まれており、高温から低音まで音域広く店内に響き渡っている。
このBGMは何人ものお客さんから、何の音楽だと尋ねられたことがあった。
俺は説明に困ってしまい、
「俺の母国の音楽です」
と適当に答えている。
全くもって嘘である。
だって普通に洋楽をかけているのだから。
嘘以外の何物でもない。
でも不思議なもので、
「そうですか・・・ノリがよくていいですね」
「軽快なリズムが心躍りますね」
「言葉の意味は分からないけど、泣けてきます」
そんなコメントを頂いた。
なんでこの世界の人達はこうも寛容なんだろうか?
俺なら色々疑うけどね。
これもお店チートなのかもしれないね。
俺はお店チートに関しては全く詳細を分かってはいない。
結局の所、俺に都合が良いという事だと安易に受け止めている。
だってそれ以外受け止めようがないからさ。
そろそろ女神様に説明を求めようかな?
たぶんはぐらかされるだろうな。
お供え物を多くしたら教えてくれるだろうか?
まあ、今は特に聞かなくてもいいか?
何となくそう思う。
さてそろそろお客さんを迎える時間だ。
今日も一日頑張ろう。
良い出会いと最高の笑顔に会えますようにってね。
本日も予約で埋まっている。
大変助かるよ。
おそらく今日も昼飯は真面に食えないだろうなあ。
はあ、今日もかー。
これぞ嬉しい悲鳴だな。
予定表を見る限り、フロアーを離れられないだろうね。
隙をみておにぎりを齧るぐらいはできるかもしれないけれども・・・
この世界で美容院を開業してから早くも10カ月。
そろそろ一年を迎えそうだよ。
早いのかやっとなのか?
さっぱり訳が分からない・・・
売上は絶好調、連日大賑わいだ。
嬉しくもあるのだが・・・未だに未練はある。
やっぱり日本で美容院を開きたかったな・・・
はあ・・・愚痴は言うまい・・・
でもさあ・・・これは尾を引くな・・・今後も・・・
最近ではシルビアちゃん達の修業も熱を帯びたものになっている。
何故かというと、それはロッド巻を行っているからだ。
美容師にとってパーマは欠かせない練習となる。
ここは美容師になる上では通らなければいけない道だ。
要は避けては通れないということだよ。
パーマは美容院において様々な意味を持っている。
ある意味パーマを極めたら天下を取れるというぐらい、パーマは奥が深いからだ。
パーマを舐めてはいけないよ。
様々な髪形に繋がるからね。
また日を改めて説明はさせて貰おうかな。
これは長い話になりそうだよ。
そこで軽くパーマの説明をするとこうなる。
簡単な説明になるのだが聞いておくれよ。
本当に簡単だよ。
触り中の触りだからね。
先ずはオールパーパスだ。
オールパーパスとは、美容学校で一番初めに学ぶパーマのことである。
通称おばちゃんパーマだ。
今ではそんな通称は腐れてしまっていると思うけどね。
未だにそう呼ばれていたら少々感慨深くなるよ。
俺が美容学校に通っていた頃って・・・何年前だ?
数えませんけどね!
ていうか数えたくはないな。
パーマはロッドに寄って行われる作業だ。
これ無くしてはパーマは行えない。
ストレートパーマは別だけどさ。
細かいことは今はどうでもいいか?
基本を話そうか。
ロッド巻は頭の形を10ブロックに分けて、ロッド幅でスライスを取る。
スライスとは髪を分け取る行為の事だ。
そしてスライスで分け取った髪を上に135度で持ち上げる。
利き手の反対の手の人差し指と、中指で髪とペーパーを掴む。
その髪とペーパーをロッドに巻き込む。
この時に肘が床に対して並行になっていないといけない。
脇は空いた儘である。
ここで要らない力を加えると並行がブレてしまう。
そして身体がお客さんの頭に対して真正面である事が必須となる。
そんな基本を披露しつつも、俺はパーマを3人の弟子に教えていた。
ロッド巻の練習となれば基本はウィックを使う。
でもここではそれを必要としない。
どういうことかと言うと、ウィックは一人での練習には欠かせない物だ。
因みに俺は自分のウィックを花子さんと呼んでいる。
今はまだお披露目する機会はないのだが・・・
花子さんの事は今はいいだろう。
というのも、俺の弟子の3人はモニターに事欠かないからだ。
であれば作り物よりもリアルで練習は行うべきだろう。
なによりもこの作り物とリアルの差は大きい。
人の髪の毛は均等に生えているようで、実はそうでは無いからだ。
ある程度の統一感はあるにはある。
でも・・・実際に触れてみると違うのである。
であるならば、練習はリアルなモニターで行うべきだ。
まあモニターさんには、慣れないロッド巻で髪を引っ張られて痛い思いをさせてしまうかもしれないが、それはご愛敬として貰おう。
ちゃんと最後には無料でシャンプーを受けられるのだからご勘弁願いたい。
練習台とはそんなものである。
その為、美容院『アンジェリ』には、裏予約表なる物が存在する。
これがモニター用の予約表である。
早朝と営業時間終了後の時間も、今の美容院『アンジェリ』には重要な時間だ。
ある意味では営業時間内よりも熱を帯びている。
マリアンヌさんとクリスタルちゃんも、ロッドを使うパーマは行った事が無い為、一からの勉強になっている。
この世界ではロッド代わりに竹筒を使っているらしい。
うーん、コメントに困るな。
美容商材の発展が進んでいないとこうなるのか・・・
分からなくはない・・・
そしてこの二人はシャンプーの練習も同時に行っている。
本当によく頑張っていると思うよ。
3人は競い合う様に練習に明け暮れていた。
お互いにとって、いい刺激になっている様である。
師匠の俺としては満足しているよ。
鼻が高いってね。
良い弟子が取れたと俺も胸を撫で降ろしているよ。
そういった現状の為、今は席数が3席以下になる事はまずない。
通常ではあり得ない事だ。
というもの、美容院の予約にはコアタイムがある。
どういうことかというと、美容院の平日は予約が薄い。
更に日中は特にその傾向にある。
特に水曜日や木曜日は顕著だ。
予約が集中するのは決まって週末だ。
理由は語らなくとも分かろうというものだろう。
週末は手が止まることはよっぽどない。
逆に言えば週末に手が止まる様では、経営は上手くいっていないことになる。
『アンジェリ』では、平日の日中でも、5席とも全て埋まっているなんてこともざらにある。
そういった側面もあってか、俺はお店全体に気を配らなければならない。
何処で誰が何を行っているのか?
どの様な施術を行っているのか?
次の予約は何のか?
前以っての準備は何が出来るのか?
お客さんの表情や動きまで。
気にかける事は山ほどある。
俺は店長である。
お店の長なのだ。
当たり前のことに変わりは無いのだが、これが結構疲れる。
何度も俺がもう一人いればと思ったことか・・・
そんな事を出来る魔法は無いものだろうか?
魔法が使えない俺には無理なことだけどね。
異世界を知ってしまったが故の願望なのだが・・・
お客さんの比率も変わりつつある。
最近では6割は女性で、4割は男性になっていた。
でも相変わらず禿げたおっさん達もよく来店してくれるんだけどね。
その理由は、育毛剤が一部のおじさん達に効果を発揮したからだった。
フサフサとまでは言わないが、明らかに毛量が増していた。
マリオさんに至っては、その効果が顕著に表れていた。
もう天辺が黒一色に染まっていたのだ。
まあマリオさんは、しょっちゅうオゾンシャンプーを受けていたからね。
裏予約表で何度名前を見かけた事か・・・
しつこいぐらいだったよ。
そして年齢層だが、大人が大半だ。
残念ながらキッズルームでは閑古鳥が鳴いているよ。
小さなお子さんを抱えた主婦の方に、気軽にカットやカラーを受けて欲しいと準備したのだが、小さな子供を連れてやってくるお客さんは殆どいない。
理由はよく分からない。
もしかしたら子育てに忙しくて、其れ処ではないのかもしれないな。
いや、このお店にキッズルームがある事を知らない事のほうがあり得そうだな。
まあ、いつか広がるだろう。
ここは気長に考えよう。
無理に宣伝する必要も感じないしね。
そのキッズルームだが、ふざけたライゼルが積み木のおもちゃで遊んでいた時には、頭を引っ叩いてやろうかと思ったよ。
あの馬鹿が!
いい加減にしろ!
でも笑えたのはモリゾーが、アン●ンマンの絵本を読んで泣いていた事だった。
何で泣けたんだろうね?
そんな話では無かったと思うのだけど・・・
単純に悪い事をするバ●キンマンを懲らしめる話だったと思うのだが?・・・
違ったか?
でもこの絵本は何気に人気が高い。
放置時間に大人が真剣に見入っているのを何度も見かけた。
おそらくそういった文化が無いのかもしれないね。
現にリックに言わせると、
「こんな高精度の絵画は見かけないぞ」
とのこと・・・
絵本が絵画になってしまうみたいだ。
それに絵本であれば、日本語が読めなくてもニュアンスで話が伝わるのだろう。
そうなると人気があるのも頷ける。
数名の目聡い商人からは、買い取らせてくれと言われたが、当然お断りさせて貰った。
売り物では無いからね。
俺から言わせるとおもちゃとたいして変わらない。
少し話は変わるが、両手では数え切れない程の商人達から、シャンプーやリンスを仕入れさせてくれとお願いされていた。
勿の論でお断りさせていただいたよ。
こう言っては何だが全くメリットがない。
もし卸すとしたらマリオ商会以外はあり得ない。
俺はどれだけマリオさんにお世話になっているのか。
商人ならそれぐらいの噂は掴んでいてくださいよ。
ある意味マリオさんとはズブズブの関係なんだからさ。
あんた達が割り込む隙は無いって話だよ。
話を戻すと『アンジェリ』には待合に漫画や雑誌、新聞等は置いていない。
異世界に繋がる前には読み放題タブレットを準備しようと考えていた。
作品は限定されるのだが、漫画や雑誌が読み放題のアイパッドだ。
月額の料金は数千円で済み、更にはアイパッドも無料で提供される。
街の本屋さんに、お店用の雑誌や週刊誌を仕入れるとなると一万円は降らない。
でもここは異世界である。
読み放題タブレットは断念したよ。
だってどう考えてもハイテクノロジーだし、いくら漫画でも、文字が読めなければ面白くはないだろうしね。
ストーリーが頭に入って来ないに決まっている。
そんな事もあって、キッズルームに絵本を置いているだけなのである。
後は本と呼べる物はヘアーカタログぐらいだ。
カツラのカタログはタックスリーさん専用である。
今も着付け室で眠っているよ。
そういえば、タックスリーさんは今ではカツラを3つ所持している。
彼はその日の気分でカツラを変えている様子。
タックスリーさんはヅライフを堪能しているみたいだ。
先日、髪色の違うカツラを購入しようとしていたから、流石にそれはカツラとバレますよと説得しておいた。
タックスリーさんは金髪のズラを被りたかったみたいだ。
止めておきなさいっての・・・
なんの為のヅラなんだか・・・バレては意味がないでしょうよ・・・
同じ髪の長さのズラを揃えた意味ないじゃん。
手作りのヅラを被っていた頃を思いだしなさいよ。
隠そうと必死でしたよね?
もう忘れましたか?
初心に帰ってくださいな。
店販商品の仕入れカタログも存在するのだが、これは俺しか見ることはない。
それにしてもこのカタログは相当読みごたえがある。
特にタカラ●ルモント社のカタログは電話帳ぐらい分厚い。
ラインナップの豊富さには頭が下がる思いだよ。
大変助かっています。
そしてお店には常にBGMが流れている。
本当はジャスダックを警戒して、書作権フリーの音楽を流そうと思っていたのだが、そんな必要は無くなった。
ここは異世界、ジャスダックなんて存在しない。
その為、俺の好きな音楽が自由に流れている。
ジャンルは様々で、ロックがかかっていたり、インストルメンタルの曲であったり、R&Bであったり、ジャズであったり。
俺は音楽に関してはジャンルに拘りが無い。
いいと感じた音楽はジャンル抜きにいいということだ。
時にこのBGMには拘りがあり、スピーカーはBO●E製だ。
スピーカーが天上に埋め込まれており、高温から低音まで音域広く店内に響き渡っている。
このBGMは何人ものお客さんから、何の音楽だと尋ねられたことがあった。
俺は説明に困ってしまい、
「俺の母国の音楽です」
と適当に答えている。
全くもって嘘である。
だって普通に洋楽をかけているのだから。
嘘以外の何物でもない。
でも不思議なもので、
「そうですか・・・ノリがよくていいですね」
「軽快なリズムが心躍りますね」
「言葉の意味は分からないけど、泣けてきます」
そんなコメントを頂いた。
なんでこの世界の人達はこうも寛容なんだろうか?
俺なら色々疑うけどね。
これもお店チートなのかもしれないね。
俺はお店チートに関しては全く詳細を分かってはいない。
結局の所、俺に都合が良いという事だと安易に受け止めている。
だってそれ以外受け止めようがないからさ。
そろそろ女神様に説明を求めようかな?
たぶんはぐらかされるだろうな。
お供え物を多くしたら教えてくれるだろうか?
まあ、今は特に聞かなくてもいいか?
何となくそう思う。
さてそろそろお客さんを迎える時間だ。
今日も一日頑張ろう。
良い出会いと最高の笑顔に会えますようにってね。

