ロッテルダム・フェン・ベルメゾン伯爵とギャバンが跪いていた。
ここは王の間である。
二人の前には満足げな表情を浮かべる国王と、その脇には執事が控えていた。
その執事はどことなくギャバンに似ている。
それはその筈で、この二人は兄弟である。
仕える者は違えど、兄弟揃って執事であるとは因果なものだ。
でも当の二人は、それを誇りに感じているのだから文句などあろうはずもない。
「ベルメゾン伯爵よ、遠路はるばるご苦労である」
国王から伯爵に労いの言葉が掛けられた。
凛とした緊張感が場を覆っている。
「滅相も御座いません」
恐縮した顔で受け答えするベルメゾン伯爵。
「そう畏まらずともよい、面を上げよ」
「はっ」
その言を受けて立ち上がったベルメゾン伯爵と、その後ろに控えるギャバン。
未だ緊張は解れていない。
「急に呼び立ててすまなかったな、ベルメゾン伯爵よ」
「いえ、お構いなく」
軽く顎を引く伯爵。
「それにしても飛ばしてきたようだな、随分と早いではないか」
当然の質問を国王は投げかけていた。
というのも、書簡が届けられてからまだ二週間も経っていないからだ。
メイデン領から二週間以内で王城に登城するなど異例の話である。
「はっ、マリオ商会の馬車は乗り心地が良く、休憩の回数が減りましたゆえ」
これまでの馬車では振動が激しい為、二時間に一度の休憩を行わないと体力が持たなかったからである。
それの回数が劇的に減ったのだ。
早く来れたことも頷ける話であった。
「なるほど、マリオ商会の馬車か・・・評判は聞いておるぞ」
「サスペンションとかいう部品を装着したことで、車輪が受ける振動がスムーズになりました」
マリオ商会の馬車は、丈二から教えられたサスペンションが備わっている為、長旅には向いている。
「ほう、そうであったか。その様な物、よく思いついたものだ」
マリオは口が堅い。
丈二からサスペンションを教えられたことを誰にも話してはいない。
信頼が全ての商人のマリオが、丈二との約束を違えることはないだろう。
丈二がマリオにサスペンションの知識をお披露目した時に同席していたシルビアは、サスペンションの事などとっくに忘れている。
あの時のシルビアは、どうやって自分をアンジェリで雇って貰う様に丈二に話そうかと、頭がいっぱいだったからである。
隣で話を聞いてはいたが、心ここにあらずだったのである。
後日完成したサスペンション付きの馬車に乗った際には、そんな話があったなと思い出す事すらもなかった。
だが、シルビアがもし覚えていたとしても他言はしなかったであろう。
シルビアが師匠を裏切る事はあり得ないからだ。
「ええ、大したものです」
国王は鷹揚に頷く。
そして首を傾げると視線を改める。
本題に入ろうかと軽く顎を上げる。
「フム、してベルメゾン伯爵よ。メイデン領の現状を先ずは教えて貰おうか?」
「承知いたしました、ギャバン」
後ろに控えるギャバンが伯爵の横に並ぶ。
ギャバンは一度兄に視線を走らせてから、今一度下を向いた。
国王を直視することは失礼に当たるとその態度が物語っている。
そこに兄であるシュバルツが声を掛けた。
「弟よ、そう畏まるな。今は我々しかいないのだ。遠慮は無用だ。そうですよね?国王様」
前以ってシュバルツは国王から仰せつかっていたのだろう。
普通ではあり得ない対応だ。
格式ばった王城の中ではこういった対応はあり得ないからだ。
「そうであるぞ、ギャバンよ」
国王が後押しをする。
心得ましたと態度を改めたギャバン。
「はっ!・・・兄上、お久しぶりで御座います」
兄のシュバルツに目礼を捧げた後に、国王を直視するギャバン。
それと同時にベルメゾン伯爵も国王を見定める。
軽く顎を引くシュバルツ。
先を話せとギャバンに目線で訴えかけている。
「先ずは国王様におかれましては、ご健勝にお過ごしのことと存じます。この度はお呼びたて頂きまして、感謝申し上げます」
「フム」
「メイデン領の現状をお話させて頂きます」
「聞こうか」
「お陰様を持ちまして、メイデン領は領収も安定し、領民の生活も潤いつつあります」
「そうであるか」
「特に最近では大きな変化も有り、この先の展望は大きく発展していくものと考えております」
「ほう」
「何より先ずは、第二夫人の謀略にて伯爵様が長年に渡って患っておりました御病気も、改善傾向にあります」
「第二夫人の謀略?」
眉間に皺を寄せる国王。
「はっ、第二夫人の元フェリアッテ夫人は、長年に渡ってチャームの魔法で伯爵様を魅了し、伯爵様を意のままに扱ってきておりました」
「フム、チャームの魔法とな?」
「はっ、チャームの魔法とは魅惑の魔法にて御座います。元フェリアッテ第二夫人は、そのチャームの魔法を用いて伯爵様を魅了し、そして意のままに操り続けてきたので御座います。見抜けなかったのは、一重に私の不服の至る所でございます」
ギャバンは今にも発狂しそうな程の怒りを押し留めていた。
その表情は無念でいっぱいであった。
「なるほど・・・して、それがどうして判明したと?」
「それは・・・実はとあるお店が関係しております」
ギャバンはここに来て歯切れが悪い。
美容院『アンジェリ』の話して良いものかと逡巡が伺える。
「とあるお店とな?」
国王は言い寄る手を緩めない。
国王からの質問に答えるしかないギャバンが、
「はっ、その名も『アンジェリ』この国初の美容院で御座います」
こう答えていた。
ギャバンの発言を聞いて、国王とシュバルツが意味ありげに視線を重ねる。
「美容院・・・『アンジェリ』・・・」
それを捉えてギャバンが質問を投げかける。
ギャバンは二人の挙動をしっかりとその視野に捕らえていた。
「お二人は、もしかして『アンジェリ』を御存じなのですか?」
同時にほっとした表情も浮かべていた。
二人が知っているのであるならば『アンジェリ』の事も話しやすい。
シュバルツが国王に、ここは私がと目配せをする。
「ふむ、知っておる」
「それはどうしてでしょうか?」
「詳細の経緯は教えられん、密偵も放っているからな」
「密偵ですか?兄上」
意外であるとギャバンの表情が語っていた。
国王が密偵を放つともなれば、重大な事案となる。
それは国王がそこまでの興味を美容院『アンジェリ』に向けている証佐となる。
ギャバンにとっても美容院『アンジェリ』は異質なお店ではあるが、国王が興味を持つほどの事であるとは思ってもみなかったみたいだ。
少々意外であるとその表情が物語っていた。
「そうだ、連日報告が挙げられているが、第二夫人の事はまだ報告は挙がってきてはいない」
「それは・・・まだ事件から数週間しか経っておらず、書簡を頂いてから我等も急いでこちらに向かいましたので・・・」
「なるほどのう・・・」
ここで国王が口を挟む。
「お主達は随分とそのお店と関わり合いがある様子だな?違うか?」
「はい、それはもう。私のこの髪型も『アンジェリ』のジョニー店長によってカットされておりますゆえ・・・」
ギャバンが自らの髪に触れる。
「ほう」
「私もで御座います」
今度は伯爵が自らの髪に触れた。
そして決め顔をしている。
我物顔なのが目に付く。
「おおー」
シュバルツが声を漏らす。
「なんと、そうでありましたか。実に奇抜でかつ大胆な髪形だと思っておりました」
「であるな、余もそう感じておったよ」
国王は蓄えられた顎髭を満足そうに擦っていた。
「フェリアッテの一件以降、我等も『アンジェリ』に来店し、懇意にさせて貰っております」
「そうであったか、して店主はいかような者であるか?」
「ジョニー店長におかれましては、出自はよく存じ上げませんが、信頼のおける人物かと存じます」
「だな、かの者は信頼に値する」
「ほう、伯爵もお墨付きを与えるとは」
シュバルツが差し込む。
「では国王。お召しになるで宜しいですか?」
「そうであるな」
ギャバンが手を挙げる。
「それはお止めになった方が宜しいかと・・・」
意外であるとシュバルツが訝しむ。
国民にとっては王城に呼ばれる事は光栄な事である。
それだけでは無く召し上げるともなれば、無上の喜びとなる。
これをしない方が良いとは常識からは外れた見解だ。
シュバルツは弟に絶大の信頼を寄せている。
そしてギャバンには人を見る目があることも分かっている。
その弟が見解を間違うとは思えなかった。
だがしかし、
「ん?どうしてであるか?」
国王にとっても意外な見解であった様子。
その理由を教えろということだ。
「ジョニー店長のお店は数ヶ月先まで予約でいっぱいの状況です。あの御人がお客さんを他っておいて招集に応じるとは思えませぬ」
まだ納得していないのは一目瞭然だ。
二人の表情は変わってはいない。
「ムム・・・それは王命であってもか?」
視線でそうであると訴えているギャバン。
「はい、それに私が知るに、あの美容院に足を運んでこそ意味があります。なによりシャンプー台やオゾン装置などはジョニー店長曰く、あの店の中でしか使用できない魔道具であるとのことで御座います」
「なんと・・・」
「行くしかないのか・・・」
ここでやっと腑に落ちた二人。
眉を歪めて考えて出していた。
「そこまでしなくとも、シャンプーやリンスであれば、既にお使いになられているかと存じますが?それにお抱えの髪結いさんの腕は確かなのでは?」
当然の疑問とベルメゾン伯爵は口を挟む。
「確かに腕はよいが、聞き及ぶ限りそのジョニー店長には適わんだろう。それにな・・・」
国王は意味ありげに言葉尻を切った。
「どういうことでしょうか?」
「ベルメゾン伯爵、それにギャバンよ、心して聞くがよい」
国王の態度が急変する。
姿勢を正し、大きく息を吸い込んだ。
場に緊張が伝播する。
一気に風船が膨らんだかの様だ。
国王に倣って、背筋を伸ばすベルメゾン伯爵とギャバン。
そして国王からあり得ない言葉が告げられる。
「余が被っている王冠には・・・呪いが掛けられておるのだ」
目を見開くベルメゾン伯爵とギャバン。
想像の枠を超えた発言であったからだ。
「なっ!」
「まさか・・・」
シュバルツがフォローに入る。
「これは本当の話で御座います、他言無用ですぞ」
二人は驚きを通り越して無言になっていた。
「「・・・」」
場の時間が止まる。
なんとか持ち直したギャバンが静寂を打ち破る。
「それにしても、その王冠の呪いと美容院『アンジェリ』にどういった関係が・・・」
「それは・・・言えぬ・・・王冠の呪いは王家の秘密なのだ」
「なんと・・・」
「そして、どうすると・・・」
伯爵が結論を訊ねた。
「行くしかなるまい・・・美容院『アンジェリ』に」
こうして国王が美容院『アンジェリ』に向かう事が決定した。
呪われた王冠と共に。
果たして美容院『アンジェリ』の運命や如何に。
ここは王の間である。
二人の前には満足げな表情を浮かべる国王と、その脇には執事が控えていた。
その執事はどことなくギャバンに似ている。
それはその筈で、この二人は兄弟である。
仕える者は違えど、兄弟揃って執事であるとは因果なものだ。
でも当の二人は、それを誇りに感じているのだから文句などあろうはずもない。
「ベルメゾン伯爵よ、遠路はるばるご苦労である」
国王から伯爵に労いの言葉が掛けられた。
凛とした緊張感が場を覆っている。
「滅相も御座いません」
恐縮した顔で受け答えするベルメゾン伯爵。
「そう畏まらずともよい、面を上げよ」
「はっ」
その言を受けて立ち上がったベルメゾン伯爵と、その後ろに控えるギャバン。
未だ緊張は解れていない。
「急に呼び立ててすまなかったな、ベルメゾン伯爵よ」
「いえ、お構いなく」
軽く顎を引く伯爵。
「それにしても飛ばしてきたようだな、随分と早いではないか」
当然の質問を国王は投げかけていた。
というのも、書簡が届けられてからまだ二週間も経っていないからだ。
メイデン領から二週間以内で王城に登城するなど異例の話である。
「はっ、マリオ商会の馬車は乗り心地が良く、休憩の回数が減りましたゆえ」
これまでの馬車では振動が激しい為、二時間に一度の休憩を行わないと体力が持たなかったからである。
それの回数が劇的に減ったのだ。
早く来れたことも頷ける話であった。
「なるほど、マリオ商会の馬車か・・・評判は聞いておるぞ」
「サスペンションとかいう部品を装着したことで、車輪が受ける振動がスムーズになりました」
マリオ商会の馬車は、丈二から教えられたサスペンションが備わっている為、長旅には向いている。
「ほう、そうであったか。その様な物、よく思いついたものだ」
マリオは口が堅い。
丈二からサスペンションを教えられたことを誰にも話してはいない。
信頼が全ての商人のマリオが、丈二との約束を違えることはないだろう。
丈二がマリオにサスペンションの知識をお披露目した時に同席していたシルビアは、サスペンションの事などとっくに忘れている。
あの時のシルビアは、どうやって自分をアンジェリで雇って貰う様に丈二に話そうかと、頭がいっぱいだったからである。
隣で話を聞いてはいたが、心ここにあらずだったのである。
後日完成したサスペンション付きの馬車に乗った際には、そんな話があったなと思い出す事すらもなかった。
だが、シルビアがもし覚えていたとしても他言はしなかったであろう。
シルビアが師匠を裏切る事はあり得ないからだ。
「ええ、大したものです」
国王は鷹揚に頷く。
そして首を傾げると視線を改める。
本題に入ろうかと軽く顎を上げる。
「フム、してベルメゾン伯爵よ。メイデン領の現状を先ずは教えて貰おうか?」
「承知いたしました、ギャバン」
後ろに控えるギャバンが伯爵の横に並ぶ。
ギャバンは一度兄に視線を走らせてから、今一度下を向いた。
国王を直視することは失礼に当たるとその態度が物語っている。
そこに兄であるシュバルツが声を掛けた。
「弟よ、そう畏まるな。今は我々しかいないのだ。遠慮は無用だ。そうですよね?国王様」
前以ってシュバルツは国王から仰せつかっていたのだろう。
普通ではあり得ない対応だ。
格式ばった王城の中ではこういった対応はあり得ないからだ。
「そうであるぞ、ギャバンよ」
国王が後押しをする。
心得ましたと態度を改めたギャバン。
「はっ!・・・兄上、お久しぶりで御座います」
兄のシュバルツに目礼を捧げた後に、国王を直視するギャバン。
それと同時にベルメゾン伯爵も国王を見定める。
軽く顎を引くシュバルツ。
先を話せとギャバンに目線で訴えかけている。
「先ずは国王様におかれましては、ご健勝にお過ごしのことと存じます。この度はお呼びたて頂きまして、感謝申し上げます」
「フム」
「メイデン領の現状をお話させて頂きます」
「聞こうか」
「お陰様を持ちまして、メイデン領は領収も安定し、領民の生活も潤いつつあります」
「そうであるか」
「特に最近では大きな変化も有り、この先の展望は大きく発展していくものと考えております」
「ほう」
「何より先ずは、第二夫人の謀略にて伯爵様が長年に渡って患っておりました御病気も、改善傾向にあります」
「第二夫人の謀略?」
眉間に皺を寄せる国王。
「はっ、第二夫人の元フェリアッテ夫人は、長年に渡ってチャームの魔法で伯爵様を魅了し、伯爵様を意のままに扱ってきておりました」
「フム、チャームの魔法とな?」
「はっ、チャームの魔法とは魅惑の魔法にて御座います。元フェリアッテ第二夫人は、そのチャームの魔法を用いて伯爵様を魅了し、そして意のままに操り続けてきたので御座います。見抜けなかったのは、一重に私の不服の至る所でございます」
ギャバンは今にも発狂しそうな程の怒りを押し留めていた。
その表情は無念でいっぱいであった。
「なるほど・・・して、それがどうして判明したと?」
「それは・・・実はとあるお店が関係しております」
ギャバンはここに来て歯切れが悪い。
美容院『アンジェリ』の話して良いものかと逡巡が伺える。
「とあるお店とな?」
国王は言い寄る手を緩めない。
国王からの質問に答えるしかないギャバンが、
「はっ、その名も『アンジェリ』この国初の美容院で御座います」
こう答えていた。
ギャバンの発言を聞いて、国王とシュバルツが意味ありげに視線を重ねる。
「美容院・・・『アンジェリ』・・・」
それを捉えてギャバンが質問を投げかける。
ギャバンは二人の挙動をしっかりとその視野に捕らえていた。
「お二人は、もしかして『アンジェリ』を御存じなのですか?」
同時にほっとした表情も浮かべていた。
二人が知っているのであるならば『アンジェリ』の事も話しやすい。
シュバルツが国王に、ここは私がと目配せをする。
「ふむ、知っておる」
「それはどうしてでしょうか?」
「詳細の経緯は教えられん、密偵も放っているからな」
「密偵ですか?兄上」
意外であるとギャバンの表情が語っていた。
国王が密偵を放つともなれば、重大な事案となる。
それは国王がそこまでの興味を美容院『アンジェリ』に向けている証佐となる。
ギャバンにとっても美容院『アンジェリ』は異質なお店ではあるが、国王が興味を持つほどの事であるとは思ってもみなかったみたいだ。
少々意外であるとその表情が物語っていた。
「そうだ、連日報告が挙げられているが、第二夫人の事はまだ報告は挙がってきてはいない」
「それは・・・まだ事件から数週間しか経っておらず、書簡を頂いてから我等も急いでこちらに向かいましたので・・・」
「なるほどのう・・・」
ここで国王が口を挟む。
「お主達は随分とそのお店と関わり合いがある様子だな?違うか?」
「はい、それはもう。私のこの髪型も『アンジェリ』のジョニー店長によってカットされておりますゆえ・・・」
ギャバンが自らの髪に触れる。
「ほう」
「私もで御座います」
今度は伯爵が自らの髪に触れた。
そして決め顔をしている。
我物顔なのが目に付く。
「おおー」
シュバルツが声を漏らす。
「なんと、そうでありましたか。実に奇抜でかつ大胆な髪形だと思っておりました」
「であるな、余もそう感じておったよ」
国王は蓄えられた顎髭を満足そうに擦っていた。
「フェリアッテの一件以降、我等も『アンジェリ』に来店し、懇意にさせて貰っております」
「そうであったか、して店主はいかような者であるか?」
「ジョニー店長におかれましては、出自はよく存じ上げませんが、信頼のおける人物かと存じます」
「だな、かの者は信頼に値する」
「ほう、伯爵もお墨付きを与えるとは」
シュバルツが差し込む。
「では国王。お召しになるで宜しいですか?」
「そうであるな」
ギャバンが手を挙げる。
「それはお止めになった方が宜しいかと・・・」
意外であるとシュバルツが訝しむ。
国民にとっては王城に呼ばれる事は光栄な事である。
それだけでは無く召し上げるともなれば、無上の喜びとなる。
これをしない方が良いとは常識からは外れた見解だ。
シュバルツは弟に絶大の信頼を寄せている。
そしてギャバンには人を見る目があることも分かっている。
その弟が見解を間違うとは思えなかった。
だがしかし、
「ん?どうしてであるか?」
国王にとっても意外な見解であった様子。
その理由を教えろということだ。
「ジョニー店長のお店は数ヶ月先まで予約でいっぱいの状況です。あの御人がお客さんを他っておいて招集に応じるとは思えませぬ」
まだ納得していないのは一目瞭然だ。
二人の表情は変わってはいない。
「ムム・・・それは王命であってもか?」
視線でそうであると訴えているギャバン。
「はい、それに私が知るに、あの美容院に足を運んでこそ意味があります。なによりシャンプー台やオゾン装置などはジョニー店長曰く、あの店の中でしか使用できない魔道具であるとのことで御座います」
「なんと・・・」
「行くしかないのか・・・」
ここでやっと腑に落ちた二人。
眉を歪めて考えて出していた。
「そこまでしなくとも、シャンプーやリンスであれば、既にお使いになられているかと存じますが?それにお抱えの髪結いさんの腕は確かなのでは?」
当然の疑問とベルメゾン伯爵は口を挟む。
「確かに腕はよいが、聞き及ぶ限りそのジョニー店長には適わんだろう。それにな・・・」
国王は意味ありげに言葉尻を切った。
「どういうことでしょうか?」
「ベルメゾン伯爵、それにギャバンよ、心して聞くがよい」
国王の態度が急変する。
姿勢を正し、大きく息を吸い込んだ。
場に緊張が伝播する。
一気に風船が膨らんだかの様だ。
国王に倣って、背筋を伸ばすベルメゾン伯爵とギャバン。
そして国王からあり得ない言葉が告げられる。
「余が被っている王冠には・・・呪いが掛けられておるのだ」
目を見開くベルメゾン伯爵とギャバン。
想像の枠を超えた発言であったからだ。
「なっ!」
「まさか・・・」
シュバルツがフォローに入る。
「これは本当の話で御座います、他言無用ですぞ」
二人は驚きを通り越して無言になっていた。
「「・・・」」
場の時間が止まる。
なんとか持ち直したギャバンが静寂を打ち破る。
「それにしても、その王冠の呪いと美容院『アンジェリ』にどういった関係が・・・」
「それは・・・言えぬ・・・王冠の呪いは王家の秘密なのだ」
「なんと・・・」
「そして、どうすると・・・」
伯爵が結論を訊ねた。
「行くしかなるまい・・・美容院『アンジェリ』に」
こうして国王が美容院『アンジェリ』に向かう事が決定した。
呪われた王冠と共に。
果たして美容院『アンジェリ』の運命や如何に。

