最後に仕上げを始める。
先ずはチークだ。
チークは頬の高い位置に塗るのだが、色はアイシャドーと口紅と濃さは違えど、同系色を使う事をお勧めする。
そうすると統一感のあるメイクになるのだ。
同系色はメイクには欠かせない。
ここは色の効果を感じて欲しい処だ。
そして同系色の口紅を塗る。
種類は色々あるのだが、俺のメイクは基本的に自分にではなく、お客さんに施す為、リップタイプをよく使用する。
今回は色彩を際立させる為、少し強めの色を選択した。
こうすることで印象をもっと強くすることが出来るのだ。
それにマリアンヌさんの唇は厚め。
ここは強調したい処だ。
プルルンな唇ってね。
プルルン唇って色気が増すよね。
良し!
いい感じだ。
マリアンヌさんの表情を見る限り、成功の様子。
彼女は感動で打ち震えていて、何度も鏡に映る自分を眺めてはうっとりしていた。
今にも涙を流しそうだ。
マリアンヌさん・・・今だけは止めてくれ。
メイクが流れてしまうからさ。
俺の努力を台無しにしないでくれよ。
マジで・・・
メイクの基本については多少端折ってしまったが、ご勘弁願いたい。
それとメイクには好みや本人の拘りがある為、あくまで参考として貰えると助かる。
要は各々に好き嫌いや、向き不向きがあるのだ。
分かるよね?
こんなところでいいだろうか?
俺はメイクに際して、敢えて声に出して説明をしていた。
それを髪結いさん達は耳をダンボにして聞いていた。
ドM眼鏡に関してはメモを持ってきていなかったことを、頭を抱えて後悔していた。
というよりこの場にいる全ての女性陣が真剣に俺の解説を聞いていた。
あのメイランでさえ、眉間に皺を寄せて聞き及んでいる。
参考になったのなら幸いだ。
俺のメイクは基本に忠実であると思う。
ぶっちゃけメイクに関しては、進化が早すぎてついて行くのに必死である。
だって最近のメイク道具は日に日に進化しているし、それに伴って施術も変わってきているしね。
さて、これで全ての施術が完成した。
マリアンヌさんの表情を見る限り満足そうな顔をしている。
なによりも、このお店に来た時の申し訳なさそうな雰囲気が無くなっている。
今では自身に満ちた笑顔を滲ませている。
この顔を見れただけでも成功だ。
俺はそう考えている。
来店してくれたお客をどれだけ幸せに出来るのか?
それが俺の目線だったりもする。
マリアンヌさんは俺の見積もりとしては三十代前半と映っている。
他の審査員からはどう見えているのか?
審査員の顔を見ると大半の者が唸っていた。
その顔はこんなにもと言いたげだ。
よし!
勝ったな!
まだ判定は出ていないが、俺は勝ちを実感した。
この反応で負けはあり得ない。
実際その仕上がりにフェリアッテ夫人も驚愕の表情を浮かべていた。
婆あめ、負けを認めるか?
ドM眼鏡に関しては何度も眼鏡を外して、目を擦っていた。
お前はどうでもいい。
後は判定を待つのみだ。
どうなる事やら・・・
ギルマスのバッカスさんが前に出てきた。
若返りの判定をする為だ。
遂に結果が出る。
勝ちを疑ってはいないが、俺も少々力が入ってるな。
「では皆さん、よろしいでしょうか?」
頷く一同。
緊張感が響き渡る。
一度頷いてから、マリアンヌさんはカット台から立ち上がり皆の前に移動する。
自信満々のマリアンヌさん。
多少緊張はしているが、この店にやってきた時からは想像出来ないぐらいに豹変している。
其処には優雅な御婦人がいた。
まるで生まれ変わったかの如く、数時間前の彼女とは比べ物にならない。
別人と評されても不思議ではないぐらいだ。
マリアンヌさんは、変わった私を見てとでも言いたげである。
一際存在感が増している。
俺はそんなマリンヌさんを誇らしく感じた。
フェリアッテ夫人は何とも言えない表情でこの時を迎えていた。
それは俺の偉業を認めたくはないが、これまでの発言から分かる通り、このお店を手に容れることに何かしらの自信があるのだろう、時折余裕の表情も浮かべている。
でも表情は揺れていた、歯痒さで身悶えしている様にも感じる。
そして採点が始まる。
バッカスさんがここも取り仕切っていた。
「では審査員の方々、各々の観点でマリアンヌさんが何歳に観えるかをお答えください!」
まじまじとマリアンヌさんを眺める審査員一同。
それにも動じず、マリアンヌさんは笑顔だ。
見られている事を楽しんでいる節すらある。
マリアンヌさん、お綺麗ですよ。
「ではよろしくお願いします!」
叫ぶバッカスさん。
「33歳!」
「32歳!」
「36歳!」
「37歳!」
「32歳!」
「35歳!」
「33歳!」
7人全員の審査員の結果が告げられた。
集計が行われていく。
いそいそと集計結果がバッカスさんに届けられる。
全員が息を飲んで結果を待っていた。
緊張感がMAX状態を迎えた。
集計員がバッカスさんに結果を届ける。
バッカスさんが結果を見て、ウンウンと頷く。
そしてバッカスさんが手を挙げて場を制した。
「結果を発表する!」
全員が息を飲む。
ごくりと誰かが唾を飲む音がした。
無音である事が更に緊張感を増す。
「マリンヌさんの見た目の年齢は!・・・34歳だ!最初の見た目年齢よりも12歳若返っている!結果!ジョニー店長の勝利!」
一瞬静まり返る会場。
そして結果を聞いた者達が騒ぎ出す。
「よっしゃー!」
「勝ったー!」
「やったぜ!」
「ジョニー!やったな!」
「お前最高かよ!」
「ざまあねえぜ!」
賛辞が巻き起こる。
でもフェリアッテ夫人はだから何だという表情を崩さない。
不気味な雰囲気を醸し出していた。
でも俺は対決を制した。
今は勝利を祝うべきだろう。
ファリアッテ夫人とその一同を除いて、皆はお祭りムードになっていた。
モリゾーに関しては、
「勝っただでー!」
と叫んで走り周っている。
他の冒険者達も大差ない。
俺の勝利に拍手が巻き起こっていた。
賛辞の声も後を絶たない。
喜びが大爆発していた。
俺の勝利が確定したのにも関わらず、余裕の表情を浮かべるフェリアッテ夫人。
「勝ったつもりか?ジョニー!」
ニンマリ顔でこちらを射抜く様に見つめていた。
「ああ、俺は勝負に勝った!これで俺は美容師と認められたということだ!」
「アハハハハハ!!!」
フェリアッテ夫人は豪快に笑っている。
この婆あ、なんでこうも余裕なんだ?
「まかさ、ここに来て約束を違えようってんじゃないだろうな?」
こいつならあり得るな。
そんな話はしておらぬとか言い出しそうだ。
「ん?約束?そんなことどうだってよいのじゃ、はいはい、美容師ね。結構、結構。美容師と認めてあげましょう」
何だ?・・・でもここは・・・
「よし!言ったな。これで俺は髪結いさんではない!即ち髪結い同盟に入らなくてもいいし、このお店も美容院であって、髪結い屋ではない!」
にしてもさっきからこの余裕はなんなんだよ。
不気味だぞ。
気になってしょうがない。
「結構、結構、美容師、美容院、はいはい、お好きにおし」
「ああ!そうさせて貰うさ!」
俺はこれ見よがしに拳を突きあげてやった。
これは俺の勝利宣言だ!
再び賛辞の拍手が巻き起こる。
「ジョニー!やったな!」
「おめでとう!」
「勝ったぞー!」
「私も若返らせてー!」
鳴りやまない拍手と、賛辞を贈る声に俺は包まれていた。
気分がいいな。
でもな・・・
そして不意に外が騒がしくなった。
ん?どうした?
何故か勝ち誇った顔をしたフェリアッテ夫人。
不敵にフェリアッテ夫人が叫んだ。
「フハハハハ!ジョニー!このお店とお前が私の物になる時が訪れたようじゃ!喜べ!フハハハハハ!」
豪快に笑っている。
これでもかというぐらい顎を挙げてこちらを見下している。
ムカつくな・・・
なんだこいつ。
「はあ?何言ってんだよ?」
心の声が漏れていた。
ギルマスのバッカスさんが間に割って入ってきた。
慌てている様子で手をバタバタとしている。
「フェリアッテ夫人、それはいったいどういうことでしょうか?」
フェリアッテ夫人はバッカスさんに向き直る。
「ん?簡単な話じゃ、わらわの旦那様のご到着じゃよ」
「なんと?伯爵様が?」
「左様じゃ」
「どうして伯爵様が?」
バッカスさんが訝しんでいる。
「それはこのお店とジョニーを我物にする為に決まっておろうが!アハハハハ!!!これは愉快じゃ!」
はい?
どういうことだ?
伯爵だからってそんな事が可能なのか?
「ちょっと待って下さい!御夫人、いくら伯爵様でもそんな事は出来ませんよ!」
バッカスさんが食いつく。
「ん?出来ないじゃと?寝ぼけた事を言うでないギルマスよ!」
「・・・」
眉をひそめるバッカスさん。
「貴様、知らぬ訳ではなかろう?」
したり顔のフェリアッテ夫人。
勝ち誇った顔であった。
どうしてだ・・・
「それはいったい・・・」
俺の心情をバッカスさんが代弁していた。
「フッ!伯爵令を発令するのじゃ!」
「なっ!」
しまったと目を見開いたバッカスさん。
伯爵令?何の事だ?
おい!ちゃんと説明してくれよ!
「ジョニー、すまない。失念していた・・・」
俺に向き直り頭を下げるバッカスさん。
おいおい!止めてくれよ!
それって・・・
「えっ!・・・どういうことですか?」
「それはな・・・伯爵にはある権限があるんだ・・・」
ああ・・・権限・・・聞きたくないな・・・
もう何となく分かってしまったよ・・・
「権限とは?」
聞くしかない・・・
「伯爵には国防の為に徴兵する権限と、兵舎や兵士の訓練場を徴収する権限があるんだ・・・それも一方的に・・・・」
ちょっと待てよ・・・
ということは、俺は兵士に取り挙げられてしまい。
このお店は兵舎や兵士の訓練場になるってことか?
嘘だろ?
あり得んだろうが!
「ナハハハハ!分かったかジョニー!これでお主はわらわの物じゃ!このお店もな!アハハハハハ!」
ふざけやがって・・・なんなんだよ伯爵令ってよう!
理不尽にも程があるってもんだろうが!
俺は絶対に認めねえぞ!
「あの人はわらわの傀儡に過ぎぬ!分かるであろう?ジョニーよ」
意味深な眼つきで俺を見つめるフェリアッテ夫人。
そうか・・・チャームか・・・
フェリアッテ夫人の魔法・・・
糞う・・・
どうすれば・・・
俺のお守りを伯爵に渡すとか?
効果があるとは思えない・・・このお守りは多分俺限定だと思う。
こうなったら・・・革命でも興すか?
いやいやいや!
冷静になれ!俺!
等と考えていると、伯爵らしき人物が豪華な馬車から降りて、店先に現れた。
珍しい物を見るかの様に俺のお店を眺めていた。
それと知る者達は我先にと距離を取り、頭を下げていた。
伯爵はそれを全く気にせずに、当たり前の事と受け止めている節があった。
要は手慣れているということだろう。
屈強な兵士達に守られながら、中年の男性がお店に近寄ってきていた。
豪華な衣装を身に纏っている。
脇に執事の様な服装をしたバトラー風の男性を従えていた。
そのバトラー風の男性だが、なんとも言えない存在感を発していた。
この人はいったい・・・
伯爵であろう人物は、足を止めて庭先の花壇を眺めている。
随分余裕があるみたいだ。
その余裕が返って気味が悪く感じる。
伯爵だが、俺の眼にはそれなりの傑物の様に見えていた。
雰囲気、佇まい、身の熟し。
話が分かりそうな人物と見受けられた。
大らかさと人の良さを感じさせる雰囲気を持っていた。
まあ、頭は良さそうとは思えないが・・・
でも不正や悪事に手を染めるタイプには見えなかった。
しかし、こいつはファリアッテ夫人の傀儡だ。
残念で仕方が無い。
お店の中のそれと知る者達も既に頭を垂れている。
というより、頭を下げていないのは俺とフェリアッテ夫人だけだった。
俺は正直言うとあっけに取られていた。
どうなってんだよ?
というのが本音である。
俺と第二夫人との話になんで伯爵が口を挟むってんだ?
そんなに暇なのか?
第二夫人に構ってないで、正妻を相手してあげなさいよ。
まあ特に理由はなのだが・・・
それぐらいチャーム魔法は強力ということだな。
くそぅ。
遠慮も無く店内に入ってくると俺に声を掛けてきた。
「ほう、お主がジョニーだな?」
「ええ・・・」
と答えるや否や伯爵に異変が起った。
場が急展開を迎える。
先ずはチークだ。
チークは頬の高い位置に塗るのだが、色はアイシャドーと口紅と濃さは違えど、同系色を使う事をお勧めする。
そうすると統一感のあるメイクになるのだ。
同系色はメイクには欠かせない。
ここは色の効果を感じて欲しい処だ。
そして同系色の口紅を塗る。
種類は色々あるのだが、俺のメイクは基本的に自分にではなく、お客さんに施す為、リップタイプをよく使用する。
今回は色彩を際立させる為、少し強めの色を選択した。
こうすることで印象をもっと強くすることが出来るのだ。
それにマリアンヌさんの唇は厚め。
ここは強調したい処だ。
プルルンな唇ってね。
プルルン唇って色気が増すよね。
良し!
いい感じだ。
マリアンヌさんの表情を見る限り、成功の様子。
彼女は感動で打ち震えていて、何度も鏡に映る自分を眺めてはうっとりしていた。
今にも涙を流しそうだ。
マリアンヌさん・・・今だけは止めてくれ。
メイクが流れてしまうからさ。
俺の努力を台無しにしないでくれよ。
マジで・・・
メイクの基本については多少端折ってしまったが、ご勘弁願いたい。
それとメイクには好みや本人の拘りがある為、あくまで参考として貰えると助かる。
要は各々に好き嫌いや、向き不向きがあるのだ。
分かるよね?
こんなところでいいだろうか?
俺はメイクに際して、敢えて声に出して説明をしていた。
それを髪結いさん達は耳をダンボにして聞いていた。
ドM眼鏡に関してはメモを持ってきていなかったことを、頭を抱えて後悔していた。
というよりこの場にいる全ての女性陣が真剣に俺の解説を聞いていた。
あのメイランでさえ、眉間に皺を寄せて聞き及んでいる。
参考になったのなら幸いだ。
俺のメイクは基本に忠実であると思う。
ぶっちゃけメイクに関しては、進化が早すぎてついて行くのに必死である。
だって最近のメイク道具は日に日に進化しているし、それに伴って施術も変わってきているしね。
さて、これで全ての施術が完成した。
マリアンヌさんの表情を見る限り満足そうな顔をしている。
なによりも、このお店に来た時の申し訳なさそうな雰囲気が無くなっている。
今では自身に満ちた笑顔を滲ませている。
この顔を見れただけでも成功だ。
俺はそう考えている。
来店してくれたお客をどれだけ幸せに出来るのか?
それが俺の目線だったりもする。
マリアンヌさんは俺の見積もりとしては三十代前半と映っている。
他の審査員からはどう見えているのか?
審査員の顔を見ると大半の者が唸っていた。
その顔はこんなにもと言いたげだ。
よし!
勝ったな!
まだ判定は出ていないが、俺は勝ちを実感した。
この反応で負けはあり得ない。
実際その仕上がりにフェリアッテ夫人も驚愕の表情を浮かべていた。
婆あめ、負けを認めるか?
ドM眼鏡に関しては何度も眼鏡を外して、目を擦っていた。
お前はどうでもいい。
後は判定を待つのみだ。
どうなる事やら・・・
ギルマスのバッカスさんが前に出てきた。
若返りの判定をする為だ。
遂に結果が出る。
勝ちを疑ってはいないが、俺も少々力が入ってるな。
「では皆さん、よろしいでしょうか?」
頷く一同。
緊張感が響き渡る。
一度頷いてから、マリアンヌさんはカット台から立ち上がり皆の前に移動する。
自信満々のマリアンヌさん。
多少緊張はしているが、この店にやってきた時からは想像出来ないぐらいに豹変している。
其処には優雅な御婦人がいた。
まるで生まれ変わったかの如く、数時間前の彼女とは比べ物にならない。
別人と評されても不思議ではないぐらいだ。
マリアンヌさんは、変わった私を見てとでも言いたげである。
一際存在感が増している。
俺はそんなマリンヌさんを誇らしく感じた。
フェリアッテ夫人は何とも言えない表情でこの時を迎えていた。
それは俺の偉業を認めたくはないが、これまでの発言から分かる通り、このお店を手に容れることに何かしらの自信があるのだろう、時折余裕の表情も浮かべている。
でも表情は揺れていた、歯痒さで身悶えしている様にも感じる。
そして採点が始まる。
バッカスさんがここも取り仕切っていた。
「では審査員の方々、各々の観点でマリアンヌさんが何歳に観えるかをお答えください!」
まじまじとマリアンヌさんを眺める審査員一同。
それにも動じず、マリアンヌさんは笑顔だ。
見られている事を楽しんでいる節すらある。
マリアンヌさん、お綺麗ですよ。
「ではよろしくお願いします!」
叫ぶバッカスさん。
「33歳!」
「32歳!」
「36歳!」
「37歳!」
「32歳!」
「35歳!」
「33歳!」
7人全員の審査員の結果が告げられた。
集計が行われていく。
いそいそと集計結果がバッカスさんに届けられる。
全員が息を飲んで結果を待っていた。
緊張感がMAX状態を迎えた。
集計員がバッカスさんに結果を届ける。
バッカスさんが結果を見て、ウンウンと頷く。
そしてバッカスさんが手を挙げて場を制した。
「結果を発表する!」
全員が息を飲む。
ごくりと誰かが唾を飲む音がした。
無音である事が更に緊張感を増す。
「マリンヌさんの見た目の年齢は!・・・34歳だ!最初の見た目年齢よりも12歳若返っている!結果!ジョニー店長の勝利!」
一瞬静まり返る会場。
そして結果を聞いた者達が騒ぎ出す。
「よっしゃー!」
「勝ったー!」
「やったぜ!」
「ジョニー!やったな!」
「お前最高かよ!」
「ざまあねえぜ!」
賛辞が巻き起こる。
でもフェリアッテ夫人はだから何だという表情を崩さない。
不気味な雰囲気を醸し出していた。
でも俺は対決を制した。
今は勝利を祝うべきだろう。
ファリアッテ夫人とその一同を除いて、皆はお祭りムードになっていた。
モリゾーに関しては、
「勝っただでー!」
と叫んで走り周っている。
他の冒険者達も大差ない。
俺の勝利に拍手が巻き起こっていた。
賛辞の声も後を絶たない。
喜びが大爆発していた。
俺の勝利が確定したのにも関わらず、余裕の表情を浮かべるフェリアッテ夫人。
「勝ったつもりか?ジョニー!」
ニンマリ顔でこちらを射抜く様に見つめていた。
「ああ、俺は勝負に勝った!これで俺は美容師と認められたということだ!」
「アハハハハハ!!!」
フェリアッテ夫人は豪快に笑っている。
この婆あ、なんでこうも余裕なんだ?
「まかさ、ここに来て約束を違えようってんじゃないだろうな?」
こいつならあり得るな。
そんな話はしておらぬとか言い出しそうだ。
「ん?約束?そんなことどうだってよいのじゃ、はいはい、美容師ね。結構、結構。美容師と認めてあげましょう」
何だ?・・・でもここは・・・
「よし!言ったな。これで俺は髪結いさんではない!即ち髪結い同盟に入らなくてもいいし、このお店も美容院であって、髪結い屋ではない!」
にしてもさっきからこの余裕はなんなんだよ。
不気味だぞ。
気になってしょうがない。
「結構、結構、美容師、美容院、はいはい、お好きにおし」
「ああ!そうさせて貰うさ!」
俺はこれ見よがしに拳を突きあげてやった。
これは俺の勝利宣言だ!
再び賛辞の拍手が巻き起こる。
「ジョニー!やったな!」
「おめでとう!」
「勝ったぞー!」
「私も若返らせてー!」
鳴りやまない拍手と、賛辞を贈る声に俺は包まれていた。
気分がいいな。
でもな・・・
そして不意に外が騒がしくなった。
ん?どうした?
何故か勝ち誇った顔をしたフェリアッテ夫人。
不敵にフェリアッテ夫人が叫んだ。
「フハハハハ!ジョニー!このお店とお前が私の物になる時が訪れたようじゃ!喜べ!フハハハハハ!」
豪快に笑っている。
これでもかというぐらい顎を挙げてこちらを見下している。
ムカつくな・・・
なんだこいつ。
「はあ?何言ってんだよ?」
心の声が漏れていた。
ギルマスのバッカスさんが間に割って入ってきた。
慌てている様子で手をバタバタとしている。
「フェリアッテ夫人、それはいったいどういうことでしょうか?」
フェリアッテ夫人はバッカスさんに向き直る。
「ん?簡単な話じゃ、わらわの旦那様のご到着じゃよ」
「なんと?伯爵様が?」
「左様じゃ」
「どうして伯爵様が?」
バッカスさんが訝しんでいる。
「それはこのお店とジョニーを我物にする為に決まっておろうが!アハハハハ!!!これは愉快じゃ!」
はい?
どういうことだ?
伯爵だからってそんな事が可能なのか?
「ちょっと待って下さい!御夫人、いくら伯爵様でもそんな事は出来ませんよ!」
バッカスさんが食いつく。
「ん?出来ないじゃと?寝ぼけた事を言うでないギルマスよ!」
「・・・」
眉をひそめるバッカスさん。
「貴様、知らぬ訳ではなかろう?」
したり顔のフェリアッテ夫人。
勝ち誇った顔であった。
どうしてだ・・・
「それはいったい・・・」
俺の心情をバッカスさんが代弁していた。
「フッ!伯爵令を発令するのじゃ!」
「なっ!」
しまったと目を見開いたバッカスさん。
伯爵令?何の事だ?
おい!ちゃんと説明してくれよ!
「ジョニー、すまない。失念していた・・・」
俺に向き直り頭を下げるバッカスさん。
おいおい!止めてくれよ!
それって・・・
「えっ!・・・どういうことですか?」
「それはな・・・伯爵にはある権限があるんだ・・・」
ああ・・・権限・・・聞きたくないな・・・
もう何となく分かってしまったよ・・・
「権限とは?」
聞くしかない・・・
「伯爵には国防の為に徴兵する権限と、兵舎や兵士の訓練場を徴収する権限があるんだ・・・それも一方的に・・・・」
ちょっと待てよ・・・
ということは、俺は兵士に取り挙げられてしまい。
このお店は兵舎や兵士の訓練場になるってことか?
嘘だろ?
あり得んだろうが!
「ナハハハハ!分かったかジョニー!これでお主はわらわの物じゃ!このお店もな!アハハハハハ!」
ふざけやがって・・・なんなんだよ伯爵令ってよう!
理不尽にも程があるってもんだろうが!
俺は絶対に認めねえぞ!
「あの人はわらわの傀儡に過ぎぬ!分かるであろう?ジョニーよ」
意味深な眼つきで俺を見つめるフェリアッテ夫人。
そうか・・・チャームか・・・
フェリアッテ夫人の魔法・・・
糞う・・・
どうすれば・・・
俺のお守りを伯爵に渡すとか?
効果があるとは思えない・・・このお守りは多分俺限定だと思う。
こうなったら・・・革命でも興すか?
いやいやいや!
冷静になれ!俺!
等と考えていると、伯爵らしき人物が豪華な馬車から降りて、店先に現れた。
珍しい物を見るかの様に俺のお店を眺めていた。
それと知る者達は我先にと距離を取り、頭を下げていた。
伯爵はそれを全く気にせずに、当たり前の事と受け止めている節があった。
要は手慣れているということだろう。
屈強な兵士達に守られながら、中年の男性がお店に近寄ってきていた。
豪華な衣装を身に纏っている。
脇に執事の様な服装をしたバトラー風の男性を従えていた。
そのバトラー風の男性だが、なんとも言えない存在感を発していた。
この人はいったい・・・
伯爵であろう人物は、足を止めて庭先の花壇を眺めている。
随分余裕があるみたいだ。
その余裕が返って気味が悪く感じる。
伯爵だが、俺の眼にはそれなりの傑物の様に見えていた。
雰囲気、佇まい、身の熟し。
話が分かりそうな人物と見受けられた。
大らかさと人の良さを感じさせる雰囲気を持っていた。
まあ、頭は良さそうとは思えないが・・・
でも不正や悪事に手を染めるタイプには見えなかった。
しかし、こいつはファリアッテ夫人の傀儡だ。
残念で仕方が無い。
お店の中のそれと知る者達も既に頭を垂れている。
というより、頭を下げていないのは俺とフェリアッテ夫人だけだった。
俺は正直言うとあっけに取られていた。
どうなってんだよ?
というのが本音である。
俺と第二夫人との話になんで伯爵が口を挟むってんだ?
そんなに暇なのか?
第二夫人に構ってないで、正妻を相手してあげなさいよ。
まあ特に理由はなのだが・・・
それぐらいチャーム魔法は強力ということだな。
くそぅ。
遠慮も無く店内に入ってくると俺に声を掛けてきた。
「ほう、お主がジョニーだな?」
「ええ・・・」
と答えるや否や伯爵に異変が起った。
場が急展開を迎える。

