『あー終電、逃しちゃったなぁ』

多分、口には出てない。けれど、口に出した時と同じぐらいの質量を持つ心の声だ。

『今、何時だろ?』

これまた、大きな心の声。もはや時間は沢山ある。歩いて家に帰る程、体力は残ってない。

『頭痛い。腹も痛い。寂しい。』
「あっ、ヤベェや。泣けてきたわ。」

今度は、しっかりと音になった。酒を飲んだ訳でもない。ただ、心が暗いだけ。

『酒、飲めたら良かったのに。』

嗚呼、また声にならない。思ったことがすぐには、声に出来ない。そのせいで、どれだけ私は苦労したのか。体調不良が言えなくて、倒れたことは多々ある。いっつも周りに合わせて、本当の自分なんか分からない。

「死にたい。いや、もう死のう。」

その言葉だけは、ハッキリと声に出た。本当に限界だったんだ。

「えっ?加藤さん死ぬんですか?」

『どぅわぁ。なんだ?誰だ?』
「ああ、坂田さん。こんばんわ。」

坂田護。奇妙な現れ方をするから、いまだに心臓がドコドコしている。会社の飲み会の後だから居てもおかしくは無いが、もう少し配慮して欲しかった。

『まぁ言っても、しょうがない。』

「んで?死ぬの、加藤さん?」

「いやぁ⋯⋯。そうですねぇ。」
『うるせぇな。坂田には、関係ねぇだろ。』

「僕は、死なないで欲しいなぁ。」

「は?なんで?」

「だって、加藤さんいると全てが円滑だから。一家に一台ならぬ、部署に一台は加藤さんみたいな人が欲しいよ。」

「そんなこと無いですよ?坂田さんは、買いかぶりすぎです。私は、役立たずですから。」

「まぁ、そう思っても良いんじゃない?けど、事実加藤さんは必要です。疑うようなら原田、菊地当たりにも聞いとくよ?」

私は、無惨にも黙り果てる。こんなに真っすぐ、必要なんて⋯⋯。ここまで、言われるとそんな気がしてくる。

「んで?聞いとく?」

「ーーーお願いします。」

「了解!原田は泥酔してるから無理だけど、菊池は少ししたら返信くるよ。」

「ありがとう。坂田さん。」

「後さ、加藤さん。体調悪いよね?寝てて良いよ。」