八犬継承奇譚~封印の珠と復活の怨霊~

薄曇りの空の下、千龍と美咲は霧が立ちこめる山間の村へと足を踏み入れていた。
八犬士の血を引く者を探す旅も、すでに三ヶ月が過ぎていた。

「この村も手がかりがなければ通り過ぎるしかないな」

千龍が呟いたその時だった。

村はずれの苔むした祠の前に、一人の青年が静かに立っていた。
風に揺れる銀髪、背筋の通った立ち姿。瞳にはどこか、深い哀しみが宿っていた。

ふいに千龍の懐に収められていた珠が淡く光を放ち始めた。

「孝の珠が……!」

美咲が驚きの声を上げると、千龍もすぐに気づいて珠を取り出す。
その光はまるで青年を指し示すように脈動している。

青年は二人の存在に気づくと、ゆっくりと足をこちらに向けた。

「あなた、名前を聞いても?」

美咲が慎重に声をかける。
青年は一礼し、静かに答えた。

「私は犬川蒼真と申します」

その名を聞いた瞬間、千龍の表情が一変する。

「犬川……⁉まさか……犬川壮介の……」

「はい、壮介は私の父です。かつて信乃様に仕えていたと、母から聞かされて育ちました」

千龍は躊躇いなく孝の珠を見せる。
その瞬間、蒼真の目が見開かれた。

「その珠……!」

蒼真は衣の内から小さな金の珠を取り出す、そこには「義」の文字が刻まれていた。

「これも父から受け継いだものです。私にはずっと意味がわかりませんでした。でも今なら、その意味が少し分かる気がします」

千龍と蒼真。二つの珠が共鳴し合い、柔らかな光を放った。

「ようやく見つけた……八犬士の血を継ぐ者を!」