八犬継承奇譚~封印の珠と復活の怨霊~

影鎖が脈打つたび、八つの珠が不気味な光を放った。
本来の輝きとは正反対の、濁った闇色。

「……っ、頭が……!」

玲音が額を押さえ、膝をつく。
智の珠が淡く揺れ、彼の思考を乱すように黒い靄が立ち上る。

「考えるな……考えるほど、飲まれる……!」

千龍が歯を食いしばりながら叫ぶが、その声にも焦りが滲んでいた。

蒼真の義の珠は、逆に怒りを煽るように脈動していた。
胸の奥から、制御できない衝動が湧き上がる。

「離せ……! 俺は……俺は、こんな……!」

蒼真の拳が震え、影鎖を引きちぎらんばかりに力を込める。

「蒼真、落ち着け!」

白夜が叫ぶが、その白夜自身も信の珠が揺らぎ、仲間への疑念が胸を刺していた。

「俺たちは……本当に信じ合えているのか……?」

「白夜まで……!」

蓮が苦しげに声を上げる。
礼の珠は、逆に憎悪を呼び起こすように黒く染まりつつあった。

「やめて……お願い、負けないで……!」
美咲は符を握りしめ、震える声で呪を紡ぐ。

「清浄なる光よ、珠を護りし結界となれ!」

符が光を放ち、八犬士たちを包むように広がる。
だが、柊真はその光を見ても眉一つ動かさなかった。

「無駄だ。俺の影鎖は、魂そのものに触れている」

柊真の声は静かで、どこか諦めを含んでいた。

「お前たちの絆が強いほど、裏切られた時の絶望は深い。それを玉梓様は望んでいる」

「お前は……本当にそれでいいのか……?」

景臣が苦しげに顔を上げた。
仁の珠が黒く揺れながらも、彼の瞳にはまだ仲間を思う光が残っていた。

柊真の動きが、一瞬だけ止まる。

「何……?」

「羨ましいと言ったな。なら、お前だって、誰かと繋がりたいと思っているんじゃないのか?」

その言葉に、柊真の瞳がわずかに揺れた。
影鎖の脈動が一瞬弱まる。

「……俺は……」

その隙を、美咲は見逃さなかった。

「今よ、藤雅!」

「任せろ!」

藤雅が影鎖を引きちぎるように力を込め、忠の珠が眩い光を放つ。
その光は、仲間を守るためだけに存在する強靭な意志。

「俺たちの絆は、そんな簡単に折れねえ!」

光が影鎖を焼き、上空に白い蒸気が立ち込めた。
柊真が驚愕に目を見開く。

「馬鹿な……珠の反転を……押し返しただと……⁉」

「みんな、今のうちに珠の力を取り戻して!」

美咲が叫ぶと、八犬士たちの珠が再び本来の光を取り戻し始めた。