八犬継承奇譚~封印の珠と復活の怨霊~

「来るぞ!」

千龍が叫んだその時、空気が凍りついた。

「止まれ」

低く、乾いた声が海上に響く。

次の瞬間、影の手がすべて霧散した。

「何だ……?」

蒼真が周囲を見渡す。
月光の下、船の前方に一人の男が立っていた。

海の上に、まるで大地のように平然と。

黒い外套が風に揺れ、足元には影が渦を巻いている。

「玉梓の気配……」

美咲が息を呑む。

男はゆっくりと顔を上げた。
その瞳は、光を宿さない深い闇。

「俺の名は柊真、玉梓様の命により、八犬の継承をここで断つ」

白夜が刀を構える。

「刺客か……!」

柊真は淡々と手を上げた。
その指先から、黒い鎖が音もなく伸びる。

「影鎖・魂縛」

鎖が空を裂き、八犬士たちの足元に絡みつく。
珠の光が、一瞬だけ揺らいだ。

「くっ……動きが……!」
直人が苦悶の声を上げる。

「お前たちの珠は、強すぎる」

柊真は無表情のまま続けた。

「だからこそ、反転させる価値がある」

鎖が黒く脈動し、八犬士たちの胸の奥に“負の感情”が流れ込む。

「やめろ……!」

蓮が叫ぶが、声が震えていた。
美咲が符を構え、叫ぶ。

「みんな、意識を保って! こいつは、珠の裏側を引き出す術を使ってる!」

柊真は静かに微笑んだ。

その笑みは、どこか哀しげだった。

「羨ましいんだよ、お前たちのように、生きて繋がれることが」

その言葉と同時に、影鎖がさらに締め付ける。

「さあ、見せてもらおう。八犬士の絆がどこまで耐えられるのか」