八犬継承奇譚~封印の珠と復活の怨霊~

月が満ち、風が東へ流れ始めた夜。

厳島での戦いを終えた八犬士と美咲は、ついに玉梓と智成が待つ五十子城へ向かう準備を整えようとしていた。

「本当に行くんだな」

蒼真が空を見上げてつぶやいた。

「これで戻れなかったら、俺たちの継承は……」

「戻れなくても構わない」

景臣が言った。

「俺たちはただ、託された意志を貫くだけだ」

白夜が珠を手にし、静かに頷く。

「この珠はただの力じゃない。信じる誰かがいたから、俺たちの手に渡った。なら俺も信じる、仲間たちを」

蓮と直人、藤雅もそれぞれに想いを抱えながら、装備を整えていた。

美咲は、式たちを静かに見渡す。

「皆も覚悟はできてる?」

白火と炎夜、華蓮は炎を灯し、奏夜と香夜のは空気を敏感に読み取る。
阿古夜が唸り、鳳泉はただ一言だけ呟いた。

「嵐が来るぞ」

その言葉のとおりだった。
準備を終えた一行が港に向かおうとしたその時。

「待って、何か来る」

美咲の言葉と同時に、地面が軋む。

空気が逆流するような重圧。
地面から立ちのぼる黒い靄の中に、異形が現れる。

「玉梓の刺客か!」

影は人のようで人でなく、二本の腕が赤い縄のような糸で繋がっている。
その糸は空中に向かって無数に伸びており、見る者すべてに何かを奪われていくような錯覚を与えた。

「名を尋ねるまでもないか」

玲音が珠を構える。

「吾名は縁喰(えんしょく)、絆を喰らう者。その結び目こそ、忌むべき連鎖」

「ならば斬る。俺たちは、断たれない」

千龍が鋭く言い放つと、縁喰は笑った。

「ならば見せよ。継承など、所詮は亡霊の束縛だと証明してやる!」