八犬継承奇譚~封印の珠と復活の怨霊~

影がふわりと空中に浮かび、口のない顔を僅かに傾けた。

「名乗る者の声など不要、我が名は薄刃(はくじん)。言葉なき死を司る、玉梓様の刃」

薄刃が鎌を振るった瞬間、風がねじれ、千龍の村雨の鞘が吹き飛ぶ。

(速い!)

景臣が珠の力で陣形を取ろうとするが、指示の声が届かない。

「やばい……このままじゃ連携が……!」

その時、美咲の手元が淡く光る。

「式神たち、声なき陣に移行!」

白火と華蓮が、一瞬で地に印を刻み、
炎夜が宙に呪式を描き出す。

「声が奪われても、言葉は符で継げる!」

美咲が片手で空を切ると、三匹の狐たちが霧を割って一斉に突進した。

薄刃が鎌を翻し、霧の中に紛れる。
しかし、その動きはすでに読まれていた。

「阿古夜!空間転移、座標を東五歩!」

緑龍の一閃が霧の中の空白を斬り裂く。
そこに現れた薄刃の姿に、炎夜が刀を構えた。

「見つけた!」

鳳泉が輝きと共に反撃の陣を取る。

美咲が術式を展開し、指を空中で走らせた。

「共鳴術式・無声連結!」

式たちの思考が一時的に合わさる。
白火が頷くと、言葉を交わさずに飛び込む。

「今です、美咲様!」

美咲が全身の力を込めて、薄刃に護符を投げ放つ。

「封言破結・喉縫解除!」

護符が薄刃の喉元に命中し、縫い込まれていた呪術が軋む音と共に砕ける。

「……ぐ……あ……あああああっ……!!」

口を持たぬはずの存在が、悲鳴を上げる。

そして、全身が破片となって消えた。

霧が晴れた。

奪われていた音が、世界に戻る。

蒼真が言った。

「とんでもない刺客だったな。言葉を奪われるのが、こんなに恐ろしいとは……」

玲音が肩で息をしながら、薄刃が消えた跡に何かを見つけた。

「これは、地図の断片?」

焦げた紙片。その一部には、厳島の文字が見えた。

美咲がそれを拾い、眉を寄せる。

「厳島。水の結界と、玉梓にまつわる供養の地。次の目的地は、きっとそこよ」

千龍が前を向く。

「なら行こう。玉梓と、智成の真実を知るために」

村の空に冷たい風が吹いた。
まだ、闇は深い。