八犬継承奇譚~封印の珠と復活の怨霊~

☆☆☆

「この村に、玉梓の痕跡があると?」

千龍の問いに、美咲は頷いた。

「古い地図に、鬼封の結界という印が記されていた。安倍家の記録にも、玉梓に関係する“封印の場”がいくつかある。そのひとつがここ、稲波村よ」

道中の風は静かだった。だが、村に入った瞬間、空気が一変した。

「妙だな、人の気配が薄い」

蒼真が眉をひそめる。

「生活の痕跡はある。でも、誰も出てこない」

蓮が井戸を覗くと、飲み水になるとは思えないほど濁っていた。

「水は濁ってるな、呪気かも」

景臣が珠をかざすと、仁の光が微かに反応した。

「感じる。何かが、ここに残ってる」

村の奥。廃寺のような場所にたどり着いた一行は、奇妙な光景を目にする。

地面に、黒く焦げたような円陣。
その中心には、砕けた白い仮面と、燃えかけの護符が散らばっていた。

美咲がそれを見て、唇を噛む。

「これは、転生の兆印。玉梓の魂を現世に繋ぎ留めるための媒体よ。つまり、ここで何かが降りかけていた」

玲音が呟く。

「間に合ったのか?」

その瞬間、音が消えた。

風の音も、鳥の声も、仲間の声も。
全てが、まるで水中に沈んだように、遠くなった。

「っ……⁉」

白夜が口を開くが、声が出ない。

直人が叫ぶも、唇だけが動いている。

美咲が護符を振りかざし、陣を展開しようとしたが——
術が、詠唱できない。

(これは、沈声の結界⁉)

霧の中から、影が現れる。

その姿は細く、紙のように薄く、白装束を纏い、目だけが異様に爛々と光っている。

片手には、月光を吸い込むような黒い鎌。
そして喉元には、まるで口が縫われたかのような傷跡。

「第三の刺客か」

玲音が珠の力で、無理やり思念を飛ばす。