落ちた護符の黒が、地に染みるように広がっていく。

美咲の手からすり抜けるように、黒紙は霧と融合し、円を描いた。
まるでそれが新たな召喚陣であるかのように。

「来る」

千龍が微かに震える村雨を握りしめる。

その時、空気が軋んだ。

金属がこすれ合うような耳障りな音。
そして、音とともに霧の奥から重い足音が響き、その者はゆっくりと姿を現した。

全身を錆びた銅鎧に包み、背には巨大な鋳型のような物を背負っている。
瞳は空洞。血も魂も、そこには存在しない。

「貴様、何者だ!」

蒼真が叫ぶと、それに答えるように低い声が響いた。

「我は銅青(どうせい)。玉梓様の命により、怨念を鋳る者」

その声は、まるで鉄を削るような響きだった。
生きているはずがない。だが、確かに意志がそこにある。

美咲が符を構え、仲間たちに囁く。

「こいつ、ただの式でも怨霊でもない。精製されてる風露とは違う、器そのものよ」

「じゃあ、本体が別にいるってことか」

白夜が眉をひそめた。

「いや……」

玲音が目を細め、呟いた。

「これは意思だけが作られた存在。完全な操り人形。でも、やっかいだ」

銅青が静かに手を上げると、背中の鋳型が黒く燃え上がり、無数の人の顔をした面が浮かび上がる。

「かつて討たれし怨念、継がれぬまま朽ちた魂。我はそれを鋳潰し、新たな因へと練り上げる」

「やらせるか!」

直人が地を蹴り、珠の力を拳に集めて突進する。

しかし、銅青の腕が動いた瞬間、空間そのものが金属に変わり、時の流れが歪んだ。

「ぐっ……動きが……鈍る……⁉」

「これは、空間に埋め込まれた呪術鋳型」

美咲が叫ぶ。

「接近戦は危険! 遠距離からの式展開で応戦する!」

「白火、炎夜、華蓮!三尾陣・焔翔連弾!」

三体の狐が空を舞い、銅青に向かって火球を放つ。
だが、銅青はそれを無言で受け止め、鎧の一部がただ蒸気を上げるだけ。

「……熱すら、通らない……?」

「こいつ、不死じゃない。鍛え直された存在なんだ」

玲音の声が震えると、千龍が前に出た。

「なら、因縁を断ち切るしかない!」