本体の風露が、周囲に無明の霧を展開する。

「あなたたちの珠、全部見せてもらったわ。だけどその光がいずれ絶望に染まること、わからないのね」

「わかってるさ」

景臣が一歩前へ出ると、仁の珠の光が仲間を包む。

「だからこそ、俺たちは繋がって戦う。それが“継承”された意志だ!」

玲音が叫ぶ。

「美咲、今だ!」

美咲が符を構え、式神たちが陣を描く。

「白火、炎夜、華蓮。三尾・焔凰降臨!」

巨大な炎の鳥が天から降り、風露を包み込む。

「奏夜、香夜。双蛇緋縛!」

怨気を縛る光の鎖が風露の動きを封じる。

「阿古夜、鳳泉。霊域を凍結!封結陣、発動!」

風露の足元に結界が走り、霊気の流れが制御される。

玲音が解析完了を告げる。

「今! 結界の中枢、急所は“右の霊核”!」

景臣が剣を振り上げ、八犬士全員の珠が連鎖するように輝き出す。

《八珠連陣・霊因終結斬》

八人の意志が剣に宿り、霊核を貫いた。

風露が一歩、二歩と後退する。

「ようやく、届いたわね」

彼女の身体が崩れながらも、笑っていた。

「これで準備は整った。あとは……“彼”が……目を覚ますだけ」

「彼?」

美咲が身構える。

「あなたの背後にある第九の因。それが誰か、もうすぐ知ることになる。玉梓様の意志は、これで完全に現世に降りるの」

風露の身体が完全に光に包まれ、霧散した。

残ったのは静寂。そして、中央にぽつんと落ちた一枚の紙片、黒い護符。

美咲がそれを拾い上げた瞬間、ぞっとするような気配が風に乗って届いた。

「この気配……これは……!」

八犬士たちは、いまようやく気づく。

風露は倒れた。だが、それは玉梓の真なる降臨の序章に過ぎなかった。