八犬継承奇譚~封印の珠と復活の怨霊~

千龍が慌てて振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
長い黒髪を風に揺らし、彼女は真剣な眼差しで手を合わせていた。

「陰陽術……⁉」

千龍は驚いた。

少女は静かに呪文を唱えると、手にしていた古びた壺から光の輪が広がった。
壺から放たれた淡い青白い光が怨霊を蝕み、骨の軋む音だけが夜の闇に響いた。

怨霊は苦しげにうめき声をあげながら、少しずつ壺の中へと吸い込まれていく。
そして最後に壺の蓋が――パチリと閉まった。

「危なかったわね」

少女は千龍に微笑みかけ、静かに言った。
千龍は少し息を整えながら、戸惑い混じりに声を絞り出した。

「君は……誰だ……?」

少女はゆっくりと顔を上げ、凛とした表情で答えた。

「安倍美咲です。京に百年以上受け継がれる陰陽一門、安倍家の当主を務めています。怨霊封じを一門の役目として担い、今日このときを迎えました」

千龍はほっと息を吐きながらも、美咲の存在に興味を惹かれた。

「ありがとう、美咲殿。君がいなかったら俺は……」

美咲は静かに頷き、鋭い眼差しを千龍に向ける。