「まさか……!」

「そうよ、安倍美咲。八珠が揃ったことで、封印の蓋が開きかけてる。あなたたちは、自ら鍵を揃えてしまったのよ」

「ふざけるな……!」

直人が地を蹴ると、悌の珠の力を込めた拳が風露に迫る。

だが、風露は微動だにせず、手を一振りしただけで黒い障壁が形成される。

「……重い……!」

直人が押し返され、地面に膝をつく。

「この霊圧……ただの刺客じゃねぇ……!」

華蓮が前に出る。

「こいつ、半分は人間じゃない。玉梓の欠片?」

炎夜が唸る。

「いや、ちがう。もっと深い同調がある。彼女自身の意志と玉梓の怨が、完全に融合してる……!」

「放っておけば、完全に玉梓の代行者になる。止めるなら今しかない!」

白火が天へ舞い、翼を広げる。

「行くぞ、八犬士!」

蒼真が剣を抜き、珠を掲げる。

「風露、お前の企みもここで終わりだ!」

風露は静かに目を閉じた。

「そう思ってるうちが、華だったね」

次の瞬間、封印の珠が砕けた。

黒き光が爆ぜ、空間そのものが揺らぐ。

「開いた……!」

風露の声が、狂気じみた笑みに変わる。

「さあ、第九の因よ。目覚めなさい……!」

そして、深淵が裂けた。
そこから現れたのは、影のような存在。まだ姿も定かではない、ただの気配。

だが、それは八珠すら揺るがす、圧倒的な悪意の塊だった。